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見栄場の似合い人

知り合い以上

友人未満

配点 (変り種コンビ)

side知美


「……どうしよう」


私は部屋の中で頭を抱えていた。


緊急事態だ。


英語で言うとエマージェンシーだ。


明日は文化祭。


西条の文化祭は豪華だ。


そして秘密だ。


一般客が入るためにはチケットがなければいけない。


というわけでチケットを3枚配られた。


この制度、一般客にも残酷だが生徒にも残酷だ。


このチケットを1枚も捌けなかったとばれた日には……!


『えー?知美ちゃんって外に友達いないんだ?』

『可愛いのにねー』

『可哀相……』


「そんなわけにはいかないッ!」


私は自分を鼓舞する。


ええ、私が悪かったですよ。


健二さんがいるから誘う人いるじゃん!


しかも男!年上!


クラスメイトから憧れの目で見られるのは間違いない。


しかし、


「まさか健二さんが鎌倉旅行とは……」


学校のイベントなので行かないわけにもいかないそうだ。


というわけで、頼みの綱が切れた。


私は携帯を操作する。


少ない……


頼んで明日来れそうなのは、あの集団しかいない。


しかし奴らも明日は練習だろう。


それにこんな情けないことを同世代に言うわけにもいかない……!


必然、残るは1人だ。


秘密兵器だ。


できれば秘密にしておきたかった兵器だ。


しかし迷うヒマはない。


私は電話をプッシュした。





side壮


「……どうしよう」


俺は部屋の中で頭を抱えていた。


緊急事態だ。


英語で言うとエマージェンシーだ。


明日は中学の連中と同窓会だった。


だから喜美に


「悪いな喜美!兄は昔の仲間と楽しく語らいボーリングをし、カラオケに行かねばならぬのだ!寂しい?寂しいか!?うぅん!?」

「寂しいよ……壮……」

「やめろよ!マジ切り替えしやめろよ!」

「じゃあ明日は来れないの?」

「行けないな」

「へぇ、兄さんも昔の仲間を大切にするのね」

「ハッハッハ!全国制覇した仲間だもんね!」

「わかったわ。みんなにも伝えるわ。楽しんできて頂戴」

「おぅよ!楽しんで来るぜ!」




……言えない。


実は日付見間違えて同窓会は来週なんて言えない……


部活のほうはテスト1週間前なので大丈夫。


テスト1週間前なのに勉強しなくていいのか?


今更やったところで変わらないよ。


そう言い訳してやらないことにする。


しかし喜美にあんなことを言って、喜美ももう電話をかけてしまったようだ。


今更行きますなんて言えない。


喜美、沙耶、織火に何を言われるかわかったものではない。


とすると、俺は明日目的もなくブラブラしなければいけないのか……


旅にでも出ようか?


と思っていたら電話がかかってきた。


見ると珍しい人物からだ。


「はぁい!もしもし!貴女の笑顔を守る沢木保険です!本日はどうされましたか?」

「友達保険をお願いします」

「アドリブに強いなお前!」


知美のまさかの才能だった。


「というかどういうこと?」

「えっとですね……」


と、知美に説明される。


なるほど。


渡りに船と言ったところか。


グッドタイミングだ。


「あーあー、オッ」


オッケーと言おうとして、止まる。


本当にオッケーか?


俺、知美に誘われる。


知美、女の子。


イリヤ、襲撃。


……ダメ?


事前に断りをいれればセーフだろう。


しかしそうしたら、明日は知美と文化祭に行くからイリヤの練習に出れないことになる……!


許すか?


あのイリヤが?


「壮さん、オッ、なんですか?」

「オッパーイ!」

「ブッ!?何ですかそれ!?私に対する嫌がらせですか!?ええ、知ってますよ。私が貧乳だってことぐらいね!何ですか?そんなに乳が好きなんですか?健二さんのベッドの下から巨乳ロリ特集のエロ本が出てきましたよ畜生ッ!!」


しかし健二の奴、そんなわかりやすいところにそんなエロ本置いていたのか……


俺はそういうのからは卒業して、現在はイリヤ写真集をオカズにしている。


当然、同意の元で撮った際どい写真集だ。


こう、イリヤが四つん這いになって頭を床に擦り付けて尻を高く上げてフリフリと振っていて小悪魔的な誘う目線の写真が……パッション!


ほとばしるぜ俺のパッション!


さぁ行けよ沢木!


情熱の赴くままに!


「壮さん、本題に」


知美の声が聞こえて萎えた。


「知美……お前って奴は……」

「何ですかその掠れた声は……」


何も言うまい。


「イリヤに聞いてオッケーだったらいいよ」

「オッケー出るんですか?」

「俺が数学で50点取れる確率と同じだな」

「絶望的ですね……」


ひ、酷い後輩だ!


でも事実だから何にも反論できないよ僕!


「まぁお願いします。ダメと言われてもお願いします」

「知美……努力はするよ」


知美の痛切な声が聞こえて俺はそう返事する。


仕方ない。


ここは男として威厳を見せなければ。


電話を切って扉を開ける。


喜美がいた。


「怖ッ!?」

「兄さん……誰と話してたのよ、今」


喜美が俺の腕を掴む。


「男に対する話し方じゃなかったわ。知佳姉さんに対する話し方でもないし、イリヤでもないわ……誰?」

「ハッハッハ、喜美。誰でもいいじゃないか!」

「こんな夜に女が男に電話をかける?誘ってるに決まってるでしょ?さぁ、誰よ兄さん。言いなさいッ!」


喜美の声が怖い。


まさかイリヤの影響を受けて……!?


しかしよく見ると目が笑っていた。


「知美だよ知美。ちょっと相談にのっただけだ」


嘘は言っていない。


セーフ!


「あら、そうなの?」


と、喜美が納得した表情で自分に部屋のドアを開けて入っていく。


話は終わったのだろう。


俺は階段を降りていく。


と、


「ねぇ、兄さん?」


なんだ?と振り返ると、喜美が閉まりかかったドアの隙間からこちらをジッと見つめていた。


「嘘ついたら、嫌よ」


バタン!


……ハハハ、斬新な悪戯だ。


俺は逃げるように家から飛び出した。





sideイリヤ


「……というわけで、明日知美と文化祭に行ってもいいでしょうか?」

「また情けない理由だね壮……」


なんで男の人って見栄が大事なんだろうね?


素直に練習に来たいと言えばいいのに。


しかし壮はその見栄を捨てて、私にだけ本当のことを言ってくれたのだ。


フフッ、私だけ特別ってことだよね。


喜美よりも、だ。


「まったく、しょうがないなぁ壮は」

「お?いいの?」

「いいよ、別に。私も聞き分けがないわけじゃないし」


これくらいの寛容は示してやるべきだろう。


だが、


「でも……ちょっとでもイチャイチャしたら……わかってるよねぇ!?」

「重々承知しております……」


嫉妬も忘れない。


男は嫉妬でつなぎ止めろ、お母様の教えだ。


「じゃあね壮。愛してるよ」

「俺も大好きだ、イリヤ」


電話が切れる。


よし。


……西条の文化祭か


私は携帯を閉じずに操作する。


「あ、もしもし?うん。イリヤ。明日のことなんだけどさ……」





side知美


来てしまった。


秘密兵器、本邦初公開だ。


みんな文化祭の最終準備で慌ただしい。


しかし如何せん小学生レベル。


中学生、高校生には劣る。


だからコスチューム勝負……!


私は現在、エプロンドレスを来ている。


メイドさんです。


360°メイドのはずだ。


八方メイドだ。


八方冥土。


ヤバい、ちょっとカッコイイ。


私の担当は昼の2時間だ。


だから9時から12時までは自由に動ける。


普通みんなはここで招待した友達と過ごすのだ。


危なかった。


私は1人でポツンと過ごして後ろ指指されるところだった……!


イリヤの許可も取れたみたいで、来てくれるようだ。


私は正門付近でビラを配りながら待つことにする。


9時に開門、壮さんとの約束は9時半だ。


「はいどうぞー!6年2組のメイド喫茶!メイド喫茶で静かな一時を過ごしませんかー?」


声を張り上げてビラを配る。


結構もらってくれる。


でもビラが多い。


「手伝おうか?」

「あ、ありがと」


ビラを半分渡した。


「はいはいそこの可愛い姉ちゃん!

僕とメイド喫茶行かない?行かない?そう、行かないの……。


おっとそこのお前!

メイドに興味ありそうな顔をしているな!?

大丈夫。

怖がるな。

わかっているとも。

隠すことはないさ。

わかるぜそのメイドフェチ。


あの丁寧な動作で『ご主人様、こちら、今朝搾りたてのミルクで作ったチーズでございます』

とか言われた出されてみ?


朝搾りたてだぜ!?

生搾りだぜ生搾り!

生絞りいいいいぃ!?ダメ!そこ絞っちゃダメ!」


「何やっているんですか……」


紛れもなく壮さんであった。


早々かましてくれましたね……





「頭大丈夫ですか?」

「知美にはどう見える?」

「聞いた私が馬鹿でした」

「うむ。よろしい」


聞くまでもなく頭がオカシイのだ。


私はビラをクラスメイトに渡して壮さんと回ることにする。


ビラを渡すときに


「ゴメンね?招待した人が来ちゃったから」


とアピールするのも忘れない。


「壮さん、行こ?」

「おぅ。でもお前が案内しろよ」

「かしこまりました、ご主人様」


スカートの端を摘んでチョコンとお辞儀をする。





side壮


コイツ……できる!


当意即妙な返しばかりしてくる。


俺の不規則言動にこうにもついて来られるのか?


アドリブが強すぎる。


「それじゃあどこ行きましょうか……?」

「そうだなぁ。とりあえず初等部と中等部と高等部のどれを回るかだよな」

「高等部に入れるのなんてこんな機会くらいですからね」


なるほど、いつもは入ることができないのか。


確かに敷地的にも隔離されている。


「じゃあ高等部に行くか?」

「そうですね。高等部、中等部、初等部の順で回りましょう」


知美が断定する。


この勇ましさも素晴らしい。


「こっちです!」


手を引いて連れていってくれる。


うん、健二にいつもやっていることなんだろうけど、恥ずかしいんだ、僕。


引っ張る方ならまだしも、引っ張られるのだ。





side知美


ずんずん進んでいく途中、回りから同学年の子達の声が聞こえる。


『あれって2組の知美ちゃん?』

『年上の男の人連れてるよ!すごいね!』

『しかもリードしてる!できる女……!』

『あのお兄さん、かっこよくない?』

『カッコイイというより可愛いじゃない?お猿さんみたい』

『すごいなぁ、知美ちゃん。あんな大きな男性と一緒に……』


フハハハハ!


表情は涼しげに保っているが、内心では高笑いだ。


私の評価、うなぎ登り。


さすが壮さん。


見た目で他人を圧倒する。


口さえ開かなければ顔もそこそこイケる。


「オマルハイヤーム!オマルハイヤームッ!」


……口さえ開かなければ。


もはや意味もわからない。


「リンカーンって輪姦に聞こえね?そしたらリンカーンの奴隷解放宣言って画期的だと思うんだけどどうかなッ!」

「死ね」

「フッ……いいボールだ。しかし俺を倒すには足りないなぁ?」

「滅びろクソ虫」

「ぐわあああぁ!畜生!やるな!やるなコイツ!」


口を開かないでほしい。


「ほら、馬鹿やってないで行きますよ」


嗚呼、健二さんがよかった……





side壮


高等部に入るとそこは別世界であった。


急にみんな大人っぽくなっている。


出店も気合いが入っている。


ウチには遠く及ばないがな!


「知美、何か食べたいのあるか?」

「あの納豆タコ焼きなるものを」


よし来た!


しかし妙なものをセレクトするな。


俺が納豆タコ焼きを買おうとすると知美がポケットをゴソゴソ漁りはじめた。


「俺が奢るぞ?」

「いえ、お母さんにお金もらってますから。これで買いなさいって」


あぁ、よくあるね。


ウチは


「壮、実は五感っていうのは一体だそうだ」

「はぁ?」

「つまりね、視覚と味覚は同調してるってことさ」

「お、おぉ……」

「言いたいことわかるね?見て食って来な」

「なんて母親だ!この鬼ババぐああああわ!」


なんて微笑ましいやり取りしかなかった。


「いいって、こういう時は男が奢るもんなんだ」


誰が決めたか知らんけど。


「そ、そうなんですか?」

「なんだお前?健二ともワリカンなのか?」

「健二さん、奢ってくれようとしたのはそういうことだったんですか……」


知美は膝を着けんばかりのショックだったらしい。


「私、健二さんのプライドをズタボロに……!」

「まぁ小学生女子とワリカンは情けないなぁ」


そのせいで喜美とイリヤに搾り取られるけど。


「まぁ食えよ」

「あ、どうも」


とりあえず納豆タコ焼きを渡す。


美味しそうにパクりと食べる。


「可愛いなぁ、知美」


なんか猫が餌を食ってるのを見てる気分だ。





side知美


唐突に可愛いと言われた。


健二さんにもよく言われていることだ。


そして猿に可愛いと言われても嬉しくない。


私、そんな軽い女じゃないんです。


それに壮さんの顔が猫を見ているようなニコヤカな表情だったのに気づいた。


私、よく猫に似てるって言われますから……


猫と猿、相性がいいのか悪いのか……

気づいたら100話ですよ100話!


読んでくれてありがとうございます!


じゃあ100話記念ということで、この話の誕生秘話を。


もともと書いていた作品を大幅に加筆したのがこの作品でして、


ちなみに元の作品では、


喜美が本当の妹ではなく、親も違う(ただし呼び方は兄さん)


イリヤの性格が咲


咲がハイテンションマシンガントークを展開するアッパー女


沙耶が落ち着いたお姉さん風味


織火変わらず……


こんなメンバーで全国優勝を目指すストーリーでした。


今読み返すと今の蓮里メンバーよりおとなしいですね


ちなみに元の作品では、喜美がヒロインで壮の恋人でした

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