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王宮の周りには沢山の貴族たちの馬車が並んでいた。
私たちは彼らとは違うルートで王宮に入る。キースと友の兄がいて、婚約者の私がいる。そのおかげで、グレイス家は優遇されている。
もういまや見慣れた王宮だけど……、まさかここで社交界デビューすることになるとは思わなかった。
あ、そういえば、私と同じように今回が初の社交界デビューになった人がいたはず……。
誰だっけ……、名前が出てこない。
本来なら令嬢同士、横のつながりがあるはずなのだけど、私には一切ない。
理由はまさに私がこの国の王子の婚約しているから。
ちょっと~~、国のルール、厳しくな~い?
そんな気持ちをグッと堪えて、私がぼっちな理由を軽く説明しよう。
王妃になる予定の私は他の貴族で癒着があると良くない。幼い頃の交友関係というのは成長していく中で実に大切なものだ。
だからこそ、私はこの社交界デビューまで他の令嬢と会わない。
寂しいけれど、王子のおかげで毎日退屈しない日々だった。
王妃教育は本当に大変だったし、有難いことに、お菓子作りや趣味が増えた。悪くない人生を送らせてもらっている。
「ねぇ、お兄様」
「なんだ?」
「私と一緒に社交界デビューする方の名前って誰でしたっけ?」
「えっと、たしか男爵令嬢のミーラ・ジュイス、あとは……伯爵家の子息の……えっと、あ、ルイス・ゴーレイ」
「どちらも知らないわね」
私がそう言うと、エヴィンは「だろうな」と小さく笑った。
ミーラとルイス……、同じ社交界デビュー同士仲良くできるかしら……。出来上がった輪に後から入るのは大変だ。
ましてや、私は王子の婚約者の公爵令嬢。……近づいてくる者に対して警戒を怠ってはいけない。
「友達できるかしら」
私の呟きにまたエヴィンは声を出して笑った。
「ちょっと、こっちは真剣に悩んでいるのよ」
「すまん、だって、その外見で友達ができるかどうか悩んでいるの可愛いなって思って……」
ほら、またからかわれている……。
私はムッと頬を膨らます。
「大丈夫だよ、ニコルなら。君の優しさに気付く者は必ずいるから」
「だと良いけど」
エヴィンの慰めの言葉だけでは不安は拭いきれない。友達の作り方をひとつも知らないのだから、しょうがない。
「お、もうすぐ着くぞ」
エヴィンは窓の外を眺める。私も一緒に外を眺めたのと同時に、王宮の前に止まった。
これが馬車が一つもない裏ルートだ。ストレスなく到着することができた。
「遅刻せずに到着できて良かったわ」
私がそう言うと、エヴィンは悪い笑みを浮かべた。その笑顔を見て私は察した。
ああ、何か良くないことを企んでいる。……というか、きっともう、その計画に巻き込まれた後だわ。
「主役は遅れて登場しないと」
彼の言葉に私は心の中で叫んだ。
主役は誕生日のキースでしょ!!!!




