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……今、なんて言った? うちの屋敷が建てれる?
このピアスってそんな馬鹿みたいな価格なの!?
そう思った瞬間、急に耳に重さを感じた。
……裕福な暮らしをしているのは認めよう。だが、これほどの高価なものは身に着けたことがない。
「まって……、それなら、今まで頂いたプレゼントの総額って……」
「小さな国ぐらいは買えるんじゃないか」
エヴィンは私をからかうように笑った。
全然笑いごとじゃない。……婚約者にそこまでする!? それもあんな冷たい態度取っておいて!
私は急にキースの行動が分からなくなった。
別にキースに対して贅沢品をねだったことなど一度もない。
「……嫌な女に映らない?」
「というのは?」
「王子に宝石を貢がせている女、みたいな」
私がそう言うと、今度はエヴァンは盛大に笑った。
「ちょっと……、真面目に言ってるのよ」
「ごめんごめん、ニコルはただ毎日『大好き』だと『愛してます』など伝えているだけで、宝石など望んだことはないのに、と思って……。それならあまりにも不憫だなって」
エヴィンは笑いながらそう言う。
そうよ、私は健全な婚約者よ。
まぁ、公爵令嬢って十分裕福な暮らしをしているし……。特にこれ以上の贅沢を求めることなんてない。
「あの重い愛はなぁ……、なかなかだからなぁ……」
エヴィンは私に聞こえないぐらいの声量で呟く。
「何か?」
「いや。とにかく! キースはかなりお前の愛に応えていると思う!」
「宝石を与えて?」
私が思わず眉をひそめると、エヴィンはまた少し気まずそうな表情を受け下手。
「あ~~、なんだ、まぁ、言葉とか、表情で表現をするのが苦手なんだよ、キースは」
「キース様と交友関係があるから、庇っているんですか?」
「いや、本当に」
「いいんですよ、私は」
私はエヴィンの言葉に被せるようにそう言った。
え、とエヴィンは驚いた表情で私を見つめた。
「別にキース様には何も求めていないので」
死にたくないだけ。ただそれだけ。
暫く、馬車の中が静寂に包まれる。
……なにこの沈黙。そんなエヴィンが困るような発言していないわよね?
「何も求めずに愛を伝えているのか?」
エヴィンが真剣な口調で言葉を発した。
「はい」
私はそう答えた後、エヴァンの質問の意図があまり分からず首を傾げた。
キースからの愛はたまにほしいなって思うことがあるけれど、そんな渇望するほどではない。
キースがその気でないのに、無理に愛を貰おうとしても虚しいだけだし……。そもそも、私が愛を送っているのは私の自己満足だし……。
私は王妃教育を受けて、婚約者としてできることをしているだけに過ぎない。
エヴィンは目を丸くしながら私を見つめていた。
「何が聞きたかったのですか?」
私の質問にエヴィンはフッとやらかなく笑った。とても優しい笑みだった。
「いや、ニコルがキースの婚約者で良かったって心の底から思っただけさ」




