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 ジュリエットに白いファーのショールをドレスの上に被せてもらい。屋敷を出た。もう日は落ちかけていて、辺りは薄暗い。

「では、いってらっしゃいませ」

 ジュリエットはそう言って、頭を下げる。御者が馬車の扉を開けて、私に手を差し出す。

 ……とうとう出陣ね。

 馬車に乗り込む私にエヴィンが目を見開く。

「……これは見違えたな」

 エヴィンの母親譲りの翡翠色の瞳が私をじっと見つめる。ちなみに、私の瞳は父親譲り。

 両親共々金髪のため、私とエヴィンの金髪はどっち譲りなのかは分からない。私の吊り上がった凛々しい瞳とは違って、エヴィンの目は優しい目をしている。目のかたちも母に似たようだ。

 私が座ったのと同時に「出発いたします」と御者の声が聞こえ、馬車が動き始めた。

「王子の婚約者が初登場だということで会場は盛り上がっているだろうな。誰もがお前に夢中になるだりそうだ」

 エヴィンの楽しそうな口調に私は小さくため息をつく。

「……肝心の王子は私のこと少しも気にかけてくれていないけれど」

「は?」

 エヴィンは私の言葉に露骨に顔を顰めた。

 ……なにその表情。そんな無礼な発言してないでしょ。

「ニコル、それ本気で言ってるのか?」

「キース様の態度を見れば誰だって分かります。私に微塵の興味もないじゃないですか」

「あ~~~~~~、まぁ、うん、確かに。俺は今あいつを庇えねえなぁ……。う~~ん」

 エヴィンは歯切れの悪い返答をする。

 キースとエヴィンは仲が良いから、色々な話をしているはず……。

 けど、私に関しての話は何もしてなさそう……。

 折角人生謳歌しているのだもの。こんなところで婚約解消になって、殺されるのだけは嫌。今日は皆の前での振る舞いに気をつけないとね。

「お兄様も知っていると思いますが、愛を伝えても返ってきたことなど一度もないんです」

 そう言いながら、もし私が愛を伝えていなかったら今頃私はこの世にいないのかと想像した。

 ……わぁ、ゾッとする。

 これからも、キースへの愛をサボらないようにしよう。

「でも、ほら、あいつは感情表現が乏しいというか、非常に欠陥しているから」

「手紙ぐらい書いてくれてもいいと思いませんか?」

 エヴィン相手だから、容赦なく自分の気持ちを吐露する。

 少しぐらいは私の不憫さを理解してほしい。……兄なんだから、私の味方であってよね。

「毎年、誕生日に豪華なプレゼントが届くだろ? ほら、今しているピアスだって」

 確かに言われてみれば、一度だって誕生日を忘れられたことはない。 

 十年間一度たりとも貰わなかった歳はない。

 最初は、ぬいぐるみだったかしら。目に凄い高価な宝石が埋まっていた。

 それから、オルゴール、これも宝石がびっしり埋まっていた。確か最近ハープを弾くことに夢中になっているって言うと、この国一番の職人に作らせた豪華なハープを貰った。毛並みの美しいポニー、名前はブラック。なぜなら毛の色が黒いから。

 こう思うと、規格外のプレゼントばかりね。

 頂く度に度肝を抜いていた。……ピアスを貰ったのは確かエヴィンと出会って五回目の誕生日だ。それからずっとジュエリーを貰っている。

 レディーとして認めらえているってことかしら!? って歓喜の声を毎年上げている。

「そのピアスだって、俺らの家がもう一つ建つほどのものだ。だから」

「はい!?」

 私はエヴィンの言葉に大きな声を出してしまった。

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