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今夜は十九歳のキースの誕生日パーティーが王宮で行われるということで私はその準備をしていた。
誰よりも目立つように、と母は私に最高級のドレスを用意してくれた。
体のシルエットがよく分かるベルベッドの黒いドレスだ。袖はなく、ホルターネックになっている。触っただけで上質なドレスだということが分かる。
けど、この格好はまるで夜会に現れる悪女みたい……。良いのか悪いのか、それが私に似合うのよね。
私の体型のメリハリが強調されているし、この金髪にこの色のドレスは映える。
……ただ、本当に悪役に見えかねない。
私はそんなことを思いながら、ジュリエットに今日も髪を梳いてもらっていた。
「お嬢様、髪はアップになさいますか? それともおろしたままに?」
「おろしたままでお願い」
「承知いたしました。艶めきを落とさない素晴らしい髪に整えさせていただきます」
センター分けになっている髪をジュリエットは丁寧に扱う。
私の顔も随分と大人っぽくなった。自分で言うのもなんだけど、黙っていれば妖艶な雰囲気がある。
……この姿で毎日キースに対して愛を全力で伝えているのなんだか面白いわね。
そんなことを思いながら、いつもより濃い化粧姿の自分を鏡越しに眺めていた。
「全員、お嬢様に釘付けですね」
「え?」
「その美貌に洗練された立ち居振る舞いに誰もがお嬢様から目を離せないと思いますよ」
私がちゃんと社交界に出るのはこれが初めてだ。
だから、ジュリエットは私がパーティーで注目を浴びると思っているのだろう。
アルドニア王国での社交界デビューは十六歳になってから。十六歳を迎えて初めて行われるパーティーに出席する。それがキースの誕生日パーティーだったというわけだ。
運が良いのか、悪いのか……。
「何も問題なく終わるといいけれど」
「大丈夫ですよ。お嬢様は大変肝が据わっているので」
「……励ましの言葉になっていないわよ、ジュリエット」
「あら、失礼しました。お嬢様はこの世で最も美しい女性ですので」
「社交辞令も言えるのね」
「はい。長年お嬢様の専属侍女をさせていただいておりますので、お嬢様のご機嫌取りはプロですよ」
「『社交辞令』っていうのは否定しなさいよ」
私はジュリエットの発言に軽く鏡越しに睨む。
「表向きは社交辞令のようになってしまいましたが、ちゃんと本心ですよ」
「……ややこしいわね」
私はそう言って、ジュリエットに仕上げてもらったサラサラの髪を耳にかけてキラキラと輝く宝石のついたシンプルなピアスをつけていく。
派手ではないけれど、分かる者には分かる相当高価なピアスだ。
私の瞳の色と同じ紫。……キースがいつかの誕生日に贈ってくれたのよね。
まさかジュエリーをくれるなんて想像もしていなかったから、かなり驚いたのを覚えている。「おめでとう」という小さなメモが添えられていただけだったけれど。本人の口からは祝いの言葉はなかった。
それでも、喜んだ記憶がある。
婚約者に対しての義務としてプレゼントしているのかもしれないけれど、やっぱり嬉しい。
「あとは香水ですね。いつものお気に入りのものでよろしいでしょうか?」
「ええ、お願い」
ジュリエットは甘く爽やかな香りの香水を取り出す。
初めてキースの誕生日パーティーに参加するんだもの。気合入れて行かないと!




