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 私がそう言うと、エヴィンは少し表情が硬くなった。

 ……あれ? 私、何かまずいことを言ったかしら?

「ニコルは王妃教育を受けているだろ?」

 エヴィンは声を低くして、私にそう聞く。

 ええ、と私は短く答えた。……我ながらに優秀だと思う。真面目に受けているから。

「じゃあ、反王政派と王政派の二つの派閥に分かれているってことは理解しているよな?」

「それはもちろん」

 私はそう言いながら、王妃教育で学んだことを思い出した。

 反王政派は王族に「魔族の血」が流れていることを酷く嫌っている。不純だかなんだか言って、王座を打ち倒そうとしようとしているとか……。

 今じゃ、革命派なんて呼び名になっている。反王政派側はそれほど強い力を持ちつつあるのだ。

 ……本当に嫌になっちゃう。

 安寧な日々を送れているのだから、いいじゃない。

「いつ人々が襲われるか分からない」

 誰にも聞こえない声でボソッとエヴィンがそう呟いた。

「……それ、誰の言葉ですか?」

 私は思わず怪訝な表情をエヴィンに向ける。

 まさか、エヴィンがそちら側ってことはないわよね……? キースと友達でしょ?

 私は目を見開きながら、エヴィンをじっと見つめた。

 彼は険しい表情を緩めて私に笑った。

「反王政派側が『国民の安全を守るために』というスローガンを掲げて動き始めている。……そして、俺が今、親交を深めている友人たちはみんな反王政派だ」

 …………まって、まって、まって。

 なにその爆弾発言。それ、絶対ここでする話じゃない。馬車に乗る前にする話よ。

 いや、そもそも私にする話なんかじゃない。

 エヴィン、一体何を考えているのよ。てか、キースとの関係はどうなったの!?

 私は驚きのあまり声も出ず、ただ頭の中で困惑していた。

 落ち着け、私。いくら兄と言えども、表情に感情を表したらダメよ。心を読まれないようにしないと……。

 私は必死に心を静めて、何とか声を出した。

「グレイス家は王政派のはずでしょ?」

「……分かってるさ」

 彼は僅かに眉間に皺を寄せてそう言った。

 どうして、こんな華やかな日にそんな激重告白をするのかしら。

「………………お兄様、一体自分が何をおっしゃっているのか分かっているの?」

 声が微かに震えるのが分かった。

 もっと能天気な兄だと思っていた。……てか、そうであってよ!!

 いつものように笑いながら「からかっただけさ」と言われるのを私は待っていた。必死に気を持たないと倒れそうになる。

 ……こんな豪華なパーティーで変に目立つわけにはいかない。

「そんな極秘情報を私に伝えてもよろしいのですか?」

「何も知らず、俺が反王政派の人たちと仲良くしているところを見たら、ニコルは怒るだろう? お前はキースのことが大好きなんだから」

「知っても、起こります」

 フッと笑うエヴィンに私は強い口調でそう言った。

「それに、ニコルなら知っても他に漏らさないと思って」

「いいえ、両親に報告しないと……」

 私はエヴィンの声を遮るようにそう言った。

 突然の兄の裏切りを信じたくはないが、この状況を野放しにできない。そんなに私は兄に対して優しくない。

「ニコル」

 私がそわつくのを横目で見ながら、エヴァンは低く重い声で私の名を呼んだ。私の動きを制するような圧に私は思わず悪寒が走った。

 ……エヴィンからこんな怖さを感じるなんて。

 私はエヴィンと目を合わせる。

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