拍手 065 百六十二話 「修正」の辺り
届けられた新しい衣類に袖を通す。里の衣類より動きやすい。軽いし、着心地も申し分なく、大変いいものだとわかった。
「何だか悪いな……ん? これは……」
手に取ったのは、小さい布きれだ。広げてみると、何やらおかしな形をしている。
「これは何だ?」
わからなければ、わかる人間に聞けばいい。フローネルは部屋を出ると、メインダイニングに向かった。朝はここでティザーベルと一緒に昼食を取る。
運良く、ティザーベルも今来たばかりだという。
「ベル殿、これは何だ?」
「ああ、これは帽子だよ。こうやってね……よし、出来た。きつくない?」
「大丈夫……でも、何でこんなものをかぶるんだ?」
「ネルの耳隠しの為だよ。こうして上からかぶっておけば、見た目わからないでしょ?」
「そうか……ありがとう」
ユルダは耳の形でエルフかどうかを見極める。だから、いっそ耳の先を切ろうかと言ったのだが、ティザーベルには猛反対されていた。
別にこの先どこかの里に入る訳でなし、自分の里からは追放されたのだから、遅かれ早かれ外で死ぬ。だったら、耳の形にこだわる必要はないのではないか。
そう思っての提案だったが、どうやらティザーベルは耳を切るという部分に激しく反応したようだ。フローネルとしても、恩人が嫌がるのなら、無理を押し通すつもりはない。
だというのに、自分の為にこのようなものまで用意してくれるとは。フローネルは感謝の念で一杯だった。




