拍手 048 百四十四話 「立ち会い」の辺り
長らく停滞していた里に、面白い風が吹き始めた。これを嫌う向きもあるだろうけれど、自分にとってはとても興味深い。
思えば、こんなにわくわくするのは、実に何年ぶりか。
いや、何年どころではない。下手をしたら、何百年、何千年だ。
ここ五百年くらいは、生きているのか死んでいるのか、自分でもわからない程感情の動きがなかった。
エルフはそうあるべき、と言われた事もあるけれど、それはイメージの押しつけというものではないのだろうか。
思えば、彼も自分と同じだったのだろう。だからこそ、「エルフ」を作った。自分は最後のモデルだから、それ以前がどんな状態だったかは知らない。彼は教えようとしていたが、いらない情報だ。ただでさえ、生まれてすぐに大量の情報を植え付けられたのだから。
その彼も、寿命には勝てなかった。エルフを作り上げたのは、自分が不老不死になりたかったからだろうに。
彼は最後まで否定していたけれど、あれで隠しているつもりだったのだろうか。
里の奥からしか行けない、夢の街。既に彼の亡骸は分解されてちり一つ残っていまい。あの都市はそういうところには容赦がない。
自分と仲間が生き延びたのは、ただの偶然だ。彼が都市外での実験を思いつかなければ、おそらくエルフという存在がこの世界に解き放たれる事はなかった。
あの時の連中も蔓延っているが、どうでもいい。自分がすべき事は、この里を守る事。それでも、少しくらいは変化を楽しんでもいいではないか。
さて、あの外から来た客人は、どんな変化をこの里にもたらしてくれるのだろう。




