拍手 019 百十三話 「二人の事情」の辺り
「おーじさま……ねえ?」
「何だ?」
「いや、何でもない。うん、何でも」
思わず、カボチャパンツにキンキラキンの王冠をかぶった姿を妄想したとは言えない。ユラクットの服装がどんなスタイルかは知らないが、少なくとも帝国の皇帝はおとぎ話のような格好はしていなかった。時の皇帝の絵姿は、どんな田舎町でも一枚は飾られているので知っている。
――どっちかっていうと、西欧風というより中東風な衣装だよねえ、あれ。
帝国人の庶民の服装も、西欧風というよりは東洋風だ。場所によって大分差はあるけれど、帝都周辺は一年を通して気温が高めなせいか、薄手の衣装が多い。
逆にラザトークス辺りは和服をモチーフにしたような衣装が主だった。帝国も最初は小国群だったというから、統一される前の民族の衣装がそのまま残っているのだろう。
――とすると、ラザトークスにはもしかして前世日本人がいた?
自分やセロアという存在がいるのだから、過去にも転生者がいた可能性はある。というか、絶対にいたはずだ。井戸のポンプやら下水道設備やら運河やら。前世の記憶を持っていなければ、こうはならないというものがありすぎる。
それはとりあえず置いておいて、今は目の前の事を片付けなければ。まずは、襲撃者を退けて、魔力結晶の作成方法を知る事だ。その為には、あの魔の森と呼ばれるラザトークスの大森林の奥地に行かなければならないのだろうか。
先を考えると不安な事ばかりで、思わずティザーベルの口からも重い溜息が漏れ出るのだった。




