拍手 166 二百六十三「これから」の辺り
「セロア、見かけないね」
ザミは、ギルドのカウンターを見てぽつりと呟く。いつも賑やかなギルドの事、彼女の呟きを拾ったのは、隣にいたシャキトゼリナだけだった。
「二日程、顔を見ていない」
「いつも、休む時は一日だけだったよね? 具合、悪いのかな……」
「職員に聞いて見る?」
シャキトゼリナからの提案に、ザミはふるふると首を横に振った。
「ギルドの職員、口が堅いから」
「セロアが次、いつ来るかだけなら、教えてくれるかも」
「そう……かな……」
二人で小声でやり合っていると、魔物素材を引き取り所に出していたメンバーがやってきた。
「どうしたあ? しけたツラして」
女性ばかりのパーティー「モファレナ」の古株で、一番の大柄トロシアナだ。彼女の後ろからは、同じくメンバーのムーテジャエルとペーゼも来ている。
「トロシアナに比べれば、みんなしけてるよ」
「だよねえ。自分はいつも熱量高いからって、他のみんなもそうだと思っちゃだめよお?」
「お前ら! あたしはただ――」
「はいはい、ザミ達が心配だっただけよねー」
「わかってるわかってる」
「むう」
三人はいつものやり取りを見せ、それからこちらを見て心配そうに眉をひそめた。
「やだ、本当にどうしたの? 顔色悪いよ?」
「具合でも悪くなった?」
「ううん、違うんだ。ただ……」
「ギルドの職員に友達がいるんだけど、昨日今日と休んでるみたいで、心配」
ザミとシャキトゼリナの言葉に、ムーテジャエルとペーゼが顔を見合わせる。
「職員の事なら、カウンターの連中に聞いたらどうだ?」
トロシアナは、シャキトゼリナと同意見のようだ。
「でも、ギルドって職員の事をあんまり教えてくれないのよね」
「それに、二人の友達ってセロアって子でしょ? あの子、出世株だからって、いじめまでいかないけどやっかまれてるってさ」
ペーゼの情報に、ザミが顔色を変える。そういえば、以前本人からそんな事を聞いたような覚えがあった。
「セロア……」
「ちょっと!」
泣きそうなザミに、ムーテジャエルがペーゼの脇腹を肘で打つ。やば、という表情をしたペーゼが、続けた。
「あー、でもほら、出世株って事は、上には覚えがいいって事だから、滅多な事はないわよ、うん」
「滅多な事って……」
「ペーゼ! もう、あんたは黙ってな! ちょっとカウンターで聞いてくるよ」
ムーテジャエルはそう言い残すと、報告も兼ねてカウンターへと走って行く。この時間帯はまだカウンターは空いていて、すぐに手続きに入れたようだ。
少しのやり取りの後、彼女が戻ってきた。
「お待たせ。なんかね、上の仕事の関係で、しばらく本部の仕事は休むらしいよ」
「上の仕事? 本部長って事?」
「その辺りは濁されたけど、ともかく、本人に何かあった訳じゃないみたい」
「そうなんだ……ありがとう、ムーテ」
「どういたしまして」
とりあえず、無事なのはわかったからいい。ザミはシャキトゼリナと一緒にギルドを後にした。




