拍手 161 二百五十八「帝都からの使者」の辺り
冒険者組合――ギルドのラザトークス支部には、数ヶ月前から大きな魔法道具が鎮座ましましていた。
「先輩、あれって何ですか?」
「ああ、帝都から送られてきた魔法道具よ。何でも、手紙を一瞬で帝都まで送れるんですって」
「本当ですか!? そんな凄い魔法道具、どうやってこんな田舎の支部に……」
「あれ、誰でも使えるものじゃないのよ」
「ほへ?」
「特定の人物から、特定の人物への手紙が出された時のみ、使用可能なんですって」
「ええ!? じゃあ、ギルドの書類とかも、ダメなんですか?」
「もちろん。あと、個人的なものを送るのもダメよ?」
「ギク……」
「あんた、まさか……」
「いえ、実際には送れなくて……えへへ」
「呆れた……あれは、支部長でないと動かせないからね」
「なーんだ。だったら、支部長の部屋に置いておけばいいのに」
「そういう訳にもいかないの」
そんな会話を忘れていたある日、とうとう魔法道具を使う日がやってきた。
「おお、これが……」
「手紙の中身、見ちゃダメよ?」
「見ませんよ!」
そんなやり取りをしている目の前で、魔法道具の中に手紙が消えていった。
「なんか、あっさりしていますねー」
「ま、こんなもんでしょ」
そんなやり取りをした翌日、ギルドに客が訪れた。街中の依頼主でも、帝都から希に来る豪商でもない。整った身なりの、見るからに貴族筋とわかる人物である。
「誰でしょうね? こんな辺境に珍しい人じゃないですか?」
「そうだけど、私達一般職員が知る必要はないわよ」
「先輩、冷めてますねー」
「達観してると言ってちょうだい」
帝都からの客人が来たその日から、ギルド職員にはある仕事が追加された。
「ああ、あの手紙を出しに来た女の子ですか? 私が担当しましたよ?」
「そういえば、あなた半年前に異動してきた子だったわね。じゃあ、顔はわかるわね? 街の入り口で、彼女が入ってくるのを見張っていてちょうだい。あ、あっちの男子職員と一緒にね。あなたは彼女の足止めを、男子はギルドに彼女が来た事を報せて」
「えええええええ!? 何ですか!? それ」
「帝都の統括長官からの命令です。嫌なら今後の査定に響く――」
「わかりました! やらせていただきます!」
彼女がティザーベルを見つけたのは、それから数日後の事。




