拍手 158 二百五十五「つかの間の休息」の辺り
「じゃあ、ヒベクスが次の教皇って訳だね?」
『はい。さすがに、いきなり教皇庁を解体は出来ませんので、代替わりという形で内部から変えていこうという事になりました』
マレジアの通信相手は、未だ聖都で残務処理に追われているフォーバル司祭だ。このゴタゴタが終われば位階が上がって司教辺りになるだろう。
一足飛びに枢機卿になったとしても、マレジアは驚かない。
「そういや、ノリヤはどうするんだい?」
『もちろん、呼び戻しますよ。彼女を長らく預かっていただき、心よりの感謝を』
「およしよ。こっちにも、下心があっての事さ」
マレジアの下心とは、まさしく今フォーバルと繋いでいる通信である。現在マレジアは地上にいるけれど、さすがに聖都の近くには近寄る気になれないので、離れた場所にいるのだ。
そこからでも、フォーバルを通じて情報が入るのだから、ノリヤ一人の保護くらい簡単な事である。
『遅くなりましたが、あの方々にも感謝をお伝えください』
フォーバルの言葉が誰を指しているのか、一瞬考えたマレジアだったが、すぐに合点がいった。ティザーベル達の事だ。
彼女達は、現在一番都市で静養していると聞いている。地上のどこを探しても、あの聖都の騒ぎの中心にいた者達がいないのだから、フォーバルだけでなく他の連中も慌てているだろう。
先程のフォーバルの言葉が本心ではないとは思わないが、裏があるとも読み取れる。
「まあ、連絡が取れたら伝えておくよ」
『……お願いします』
そこで通信は途絶えた。これで、教会組織も少しは変わるだろう。長らくスミスが独裁政治を行っていたのだ、変革を起こすには多大なエネルギーがいるだろうが、頑張ってほしい。
マレジアとしては、スミスが消えただけでも溜飲が下がっている。あの男とその仲間は、六千年前にマレジアの家族と仲間を皆殺しにしたのだ。
本当なら、自分の手で八つ裂きにしてやりたかったが、老いた身では叶わない夢だ。
それを、あの娘が叶えてくれた。
ティザーベル。マレジア同様、日本からの転生者。彼女が言うには、他にも転生者がいるだけでなく、なんと転移者までいるという。
どうしてそんな事になっているのかはわからないが、こちらの世界とあちらの世界には、何かしらの繋がりがあるのだろう。
「いつか、あの子の国にも行ってみたいねえ」
いつになるかはわからないが、海を越え、正規のルートで入国したい。その為にも、色々と働きかけなくてはならない場所がある。
望みの為には仕方ない。老骨にむち打って、もう一仕事しようではないか。




