拍手 126 二百二十三「激突」の辺り
「第一級異端者の浄化? 今頃?」
「上からの命令だ」
ベノーダの疑問に、オアドは真面目に答えた。第一級異端者マレジア。それはもう、教皇庁の一部では半ば伝説と化した名前である。
教皇との因縁浅からず、これまでにも指名手配がなされているが、一度も捕まった事がない。居場所が知れないのか思っていたが、どうやら違ったようだ。
「それで? 誰が行くんだ?」
「俺とお前と、あとスニだ」
「あいつか……」
ベノーダの顔が曇る。異端管理局には自分も含めて性格のよろしくない人間が集まるが、スニはその中でも群を抜いている。
人を殺す事に歓びを見いだし、ともすれば異端者以外も殺そうとする厄介な奴だ。しかもまだ十代半ば。あの年齢であそこまで壊れてしまっては、もうまともな道に戻る見込みはない。
――偉そうに……
自分だってそうだ。決して殺しを楽しんだ事も、異端を「浄化」する事に歓びを感じた事もないけれど、確実にこの場所から他には行けなくなっていた。
「意外だな」
「何がだ?」
唐突なオアドの言葉に、ベノーダは軽く返す。
「てっきり、カタリナが出張ると思っていたんだが」
「ああ」
異端管理局にいて……いや、教会組織にいて、彼女の名を知らぬ者はいないし、異端者の浄化には必ずと言っていい程彼女が参加しているというのも知られた話だ。
そのカタリナが、第一級異端者マレジアの浄化の現場に立ち会わないとは。確かに、意外だ。
「大方、教皇聖下から直々の命令をいただいたんだろうよ」
「なるほど。それならあり得る」
カタリナにとって、何よりも最優先されるべきは教皇ただ一人だ。言ってしまえば、異端者の浄化も、教皇が望むから行っているに過ぎない。
教皇の宿敵の粛正より、直々の命令の方が優先度が高いという事か。
「対象者の場所はわかっているんだよな?」
「無論」
「そうか。なら、とっとと支度して行ってこよう。今は、長く聖都を離れたくない」
気に食わない連中だが、ヨファザスとサフーの聖都の屋敷で異変があったばかりだ。犯人が何を狙ってやったのかはわからないが、誰にも知られずに警備が厳重な屋敷からものを盗むなど、常人の仕業とは思えない。
だからか、厚顔無恥にも奴らは異端管理局に助けを求めてきた。きっと異端者の仕業に違いないと言って。
一笑に付して管理局の出動要請を却下したが、何だか嫌な予感がする。残念な事に、ベノーダの予感は嫌なもの程よく当たるのだ。
第一級異端者とはいえ、相手はただの魔法士。恐れる事はない。こちらには、「神」が作りたまいし聖魔法具があるのだ。




