拍手 125 二百二十二「隠れ里の襲撃」の辺り
そろそろ帝国は冬。もうじき帝都にも雪が降り出す頃。
「寒いねえ」
ネーダロス卿の隠居所から庭を眺めながら、クイトが呟く。
「冬だからね。ところで君、何しに来たんだい?」
「えー? ちょっと……ね」
えへへと笑うクイトを見て、ネーダロス卿は笑みを深める。
「また、仕事から逃げ出して来たね?」
「な、何の事かなあ?」
あらぬ方向を見る彼に、ネーダロス卿は溜息を吐いた。
「いい加減、書類仕事も覚えたまえ」
「えー? 書類にサインなんて、誰でも出来るじゃん」
「上がいい加減な事をすると、下が困るのだよ」
「それ、じいさんの体験談?」
「さてね」
クイトが所属する魔法士部隊は、近年不祥事が多い。魔力が一定量以上あれば、身分に関係なく採用する制度が悪い方に作用し、貴族と平民の間で軋轢が生じている。
その原因の一つに、貴族達が平民の功績を横取りしている事が挙げられていた。上がきちんと現場を見ていれば、起きなかった事でもある。
クイトが副隊長になってから大分減ったとはいえ、まだまだ現場の無駄な軋轢は残っていた。
「あれもさあ、僕の前任者が悪い訳じゃない? しかも、ちゃんと罰は受けてるしさ。いい加減、下の連中も悪い事をすれば身分に関わりなく処罰されるって事、知ればいいのに」
「それを教えるのも、君の仕事だよ」
「面倒」
クイトの短い返答に、ネーダロス卿は溜息を吐く。確かに、彼を今の地位に就けたのは、ネーダロス卿であり、本人の意思ではない。
それでも、今まで何とか尻を叩いてここまでやってこれたというのに。やはり、もうじき臣籍降下するのが大きいのだろうか。
どうしたものか。悩むネーダロス卿の耳に、クイトのぼやきが入った。
「本当、今頃どこでどうしてるんだろうねえ? 早く帰ってくればいいのに」




