表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「オダイカンサマには敵うまい!」拍手の中身  作者: 斎木リコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/177

拍手 121 二百十八「地下にいるもの」の辺り

 聖都ジェルーサラム。その最も高貴な者が住まう区域に、サフー主教の屋敷はあった。本来、彼の立場でこの屋敷を入手する事は不可能だが、それを可能にしたのは彼自身の手腕である。

「異常なし」

 門番の交代時の申し送りに、短く答えてナゼジトは交代で来た同僚に後を託して屋敷に入る。これから短い休憩を終えたのち、敷地内の見回りだ。

「ふう……」

 溜息が口から漏れる。常にこの屋敷の警護を受け持つ彼は、屋敷の噂が一部本当の事だと知っている一人だった。

 曰く、夜な夜な男の苦悶の声が響くらしい。

 屋敷には、特別に大聖堂から賜ったという聖魔法具が使われている。これは外敵を排除するなどのものではなく、音を外部に漏らしにくくするという効果があるのだとか。

 それも、ナゼジトは身をもって知っていた。あれがなければ、きっともっと大きな声が屋敷の外に響いた事だろう。

 沈鬱な思いを抱えながら歩く彼の耳に、敷地内警護を主に受け持つ傭兵の声が聞こえた。

「しっかし、敵なんざどこからもこねえじゃねえか。腕がさびるぜ」

「いいじゃねえか。報酬はいいわ、酒は飲み放題だわ、いい事だらけだぜ」

「ちげえねえ」

 げはげはと笑いながら行き交う彼等は、この屋敷の当主の本当の怖さを知らない。何せサフー主教の後ろにはあのヨファザス枢機卿が控えている。

 彼は教皇の第一の側近と呼ばれ、ここ聖都のみならず周辺国へも絶大な影響力を持つ。異端管理局ですら、自在に動かせるという噂だ。

 そんな恐ろしい人物の、さらに恐ろしい一面が、この屋敷の地下にある。いや、地下だけではない。屋敷の奥には、立ち入り禁止の区域があり、そこにも秘密が隠されているのだとか。

 ナゼジトの目に、屋敷の東側にある地下への出入り口がちらりと映った。あの場から、人だったものが運び出される現場を、彼は目撃してしまった事がある。

 誰にも言えない。同じ聖都騎士団の同僚にすらも。この聖都の治安を守る立場にありながら、あのような恐ろしい事が聖都のど真ん中で行われている事を、見逃し続けているなんて。

 先程の傭兵達の話ではないが、この屋敷の警護に就くと特別手当がもらえる。普通の給金の倍以上になる手当のおかげで、実家を建て直す事が出来た。

 いくら聖都騎士団の給金が他よりいいとはいえ、自分のような下っ端の給金だけでは、建て直すのに十年はかかっただろう。それが、この手当をもらうようになって、わずか半年で建て直せたのだ。

 何も言ってはいけない。黙って仕事に専念してさえいれば、いい思いが出来るのだ。だが、間違って余所であれこれ吹聴したら。

 おそらく、近くを流れる川に、遺体が浮く事になるだろう。比喩でもなんでもなく、そうなった同僚や傭兵達をもう何人か見てきた。

 今夜も、あの地下では恐ろしい宴が開かれるだろう。自分はこのまま黙って、ここに勤め続けるのだ。

 何が神のお膝元だ、地獄の悪魔の間違いだ、きっと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ