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普通の女子高生って楽しいですね



 仕事を終えた翌日。私は左手に抱き着く里沙を介抱しながら学校への道を歩んでいる。


「こ、腰が~…激しくしすぎだよ美琴~」

「はぁ……」


 昨日は酷かった。

 ここ数日忙しくしてたから、不安定になった里沙が体力が尽きるまでおねだりしてきて、まぁ里沙が気絶して腰を抜かすまでヤッて漸く落ち着いてくれたわけだが。


 ただでさえここ数日戦闘続きで疲労が溜まっているのに、更に夜までヤり通しとなれば幾ら私でも堪える。

 気怠い身体に鞭を打って教室に入った私は、席に着くと背もたれに身体を預けて大きく息を吐く。

 この疲れた中で更に猫を被らないといけないと考えたら、知らずの内にため息が出る位には憂鬱だ。


「おはよう、二人とも」

「や、お疲れだね」


 俯いたまま視線を右に向けると、九条院 純花と東城 夏樹が挨拶してくる。

 私は座り切らない首を上げて答える。


「おはよう、ちょっと最近バイトが忙しくてね」

「おはよ~」


 嘘ではない。

 当たり前だが、私のこの仕事は()()雇用ではないし人の数だけ仕事があって忙しい。

 そんな私の答えに九条院 純花は労いと心配の言葉を、東城 夏樹は口元に弧を描きながら視線を里沙の方へ向ける。


「バイトねぇ。そっちはちょっと違うみたいだけど?」

「ふぇ?」

「………ノーコメントで」


 机にうつぶせになっていた里沙は、持ち込んでおいたクッションに顔を埋めて気持ちよさそうな顔をしていて聞こえてない様だ。

 東城 夏樹は私の答えに楽しそうに笑みを深める。


「まぁ良いさ。二人とも疲れてそうだし、あんまり時間取るのも悪いね、朝の少ない時間だけどしっかり休めよ」

「そうだね。あ、これ疲れに効くって奴。なんかコンビニのくじでもらったのだけど、どうぞ」

「ありがとう」


 二人は自分の席に戻っていく。

 私は九条院 純花から渡されたビンのラベルを見る。


 精力増強!!超絶ビンビン!夜のマキシマム!!


「これ精力剤じゃん」


 隣で目を輝かせる里沙を無視して、ビンをバックに仕舞う。

 今日の夜はしっかりと休みたいな。

 そう思いながら、授業が始まるまでの少ない時間を微睡みの中で過ごす。



◇◇◇◇



 午前中の最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、教師が退室すると共に教室が湧き立つ。

 開放感から、空いた胃に物を詰められる喜びにクラスメイト達は各々自由に動き出す。

 勿論私達も例に漏れず、九条院 純花の席に集まる。


「やっと昼か、早く飯食おうさ!」

「そうだね、早く食べよっか」

「私達もお邪魔さしてもらうね」

「おっじゃま~」


 私達は4人席を並べて食事を始める。

 ここ一週間で完全にこの四人で固まるのが当たり前になっている。


「夏樹ちゃんのお弁当凄いよね、なんか料亭とかで出てきそうな感じだよね」

「親が過保護でね、別にここまでしなくて良いって言ってんだが」

「愛されてるね」

「ま、否定はしないさ。それより美琴と里沙の弁当も美味しそうじゃないか」


 まるで懐石料理の様な鮮やかな弁当に舌鼓を打つ東城 夏樹は話をこちらに振る。

 私と里沙は一夜さんの奥さんが作ってくれたお弁当をいつも食べている。

 一夜さんの奥さんは私達と同じマンションに住んでいて、私達特選班全員のお昼ご飯を作ってくれている。

 身体の強くない一夜さんの奥さんにそこまでさせるのは申し訳ないと思うが、美野里さんと葵さんがありがたく受け取っている上、一夜さんが受け取ってくれと笑っているからありがたく受け取っている。

 せめてもの気持ちで食費だけは出しているが、いつの間にか胃袋を掴まれていた。


 そんな一夜さんの奥さんが作るお弁当は一般的に家庭的と言われるお弁当で、二段箱の弁当箱の下段に白米、上段におかず。

 唐揚げと卵焼きに蛸さんウインナー、明るい色の野菜にベーコンのキュウリ巻きと彩も良い。


「そうだね、近所の奥さんが作ってくれてるんだ」

「人妻のお弁当か…」

「人妻って言うな!生々しい!」

「まぁ間違ってはないけど」

「あはは、でも本当に美味しそうだね」

「そういう純花はいつもサンドイッチだよね。足りるの?」

「え?うん、私小食だから」


 蛸さんウインナーに舌鼓を打ちつつ、九条院 純花の弁当を見る。

 九条院 純花の弁当はサンドイッチが詰められていて、少なくとも私なら一瞬で食べ終わった上で足りなくて三倍の量をお替りしそう。


 九条院 純花の弁当はいつもサンドイッチで、自分で作っているらしい。

 何故九条院家のお嬢様が?と思わなくも無いが、そもそも重要人物なのに九条院家の管轄でも無い、峰典の個人的に用意している家に住んでいる時点で色々複雑そうだし、そのことについて知るつもりも無い。

 ……そう言えば、あそこは九条院 峰典の研究所も兼ねていた様な。


 弁当についての話題が終わると次の話題に切り替わる。

 他愛ない談笑をしながら、猫を被りながら談笑を続ける。疲れるけど、これが普通の女子高生の生活だと思うとまぁ悪くないかな、と思う。


「あ~、次体育じゃん。しかも今日はバスケか」

「そうだね、私あんまり運動得意じゃないから憂鬱だな」

「あたしもあんまり好きじゃないな。美琴は得意そうだな、運動」


 東城 夏樹は私の身体を舐め回す様に見ながら、目を細める。思わず口元が引き攣りそうになるけど、何とか普通の笑顔を浮かべながら手を胸の前で小刻みに振りながら答える。


「あはは、まぁ苦手じゃないけど、正直そんなに運動の経験ないから自身は無いかな」

「え!?美琴ちゃんそんなに身体鍛えてるのに経験無いの!?」

「意外だな」

「お恥ずかしながら」

「美琴に恥ずかしい所なんてないけどね。あ、恥ずかしい所なら里沙がいつも見てぎゅっ!?」


 横で恥ずかしい事を言う里沙を黙らせる。

 先週の木曜に始まった体育では、簡単なオリエンテーションだけだったがあれで私の身体が衆目に晒され、かつ普通の女子高生の身体能力が分からず結構素で動いてしまい、もれなく運動部から数多の勧誘を受ける羽目になった。


 だけど、結局私が鍛えたのは暗殺と戦闘の為であって、スポーツの経験なんて…まぁスパークリング位なら何とかなりそうだが、それ以外の普通のスポーツの経験が無いから上手くいけるか分からない。


 そこら辺を、身体を鍛えるのが趣味だから。で突き通して説明すると九条院 純花はへぇと納得し東城 夏樹は目を細めてニヤニヤと弧を描いている。


「まぁ得意じゃないってだけで別に苦手ではないんだろ?」

「まぁ、多分?」

「なら折角だしさ、今日のバスケで勝った方が何でも一つ相手にいう事を聞かせられるってゲームしないか?」

「なにそれ?何か嫌だな」


 嫌だな。

 これが他の人ならまだしも、東条 夏樹ってのが嫌だな。もし負けた場合何を要求されるかわかった物じゃない。

 まぁでも、所詮口約束か、仮に正体を教えろなんて言われても教えれるわけないし。教えたら私が処分されかねないし。


「まぁまぁ、別に何か変な事しようって訳じゃないしさ。こういうのあった方が盛り上がるだろ。な?皆」

「え?まぁ、そう…かな?勝てる自身無いけど」

「なんでも……美琴に……うおおおおおおお!!」


 私達の会話を聞いていたクラスメイト達が色めき立つ


『うおおおおおおお!!我がクラスきっての美少女達に何でも出来るぅぅ!!??燃えてきたぁぁぁぁぁ!!!!』

『なつ×みこを……なつ×みこをお願いします……』

『私、純花ちゃんによしよしされたい……』

『お、俺夏樹様に踏まれたい……』

『吾輩は美琴殿と共に上腕二頭筋を鍛えたいで候』

『拙僧、里沙嬢にメスガキキャラで煽られたいでござる』


「……はぁ……」


 一気に騒がしくなった教室の中、私は弁当の最後の一口を口に含む。

 そもそも体育は男女別だろう。

 午後の体育の時間までこの騒がしさが続くのかと思ったら気が重く感じるが、自然と口元が綻んでいた。



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