表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

18.勇者の時代の最期 前篇

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 数日後、ゼルヴァルトは部下を連れず、単身でジャレッドが制圧した砦へと向かった。殺気立った兵たちが各々の得物を彼に向け、牙を剥いて「何用だ!」と、まばらに吠えた。


 彼は黙って相手方のボスが来るのを、腕を組んだまま待った。


 しばらくして砦の奥から禍々しい殺気が現れる。周囲の兵たちとは比べ物にならず、野性的な鋭い殺気だった。


「よぉ、来たか! ゼルヴァルト」酒瓶を呷りながら元黒勇隊総隊長であり、この反魔王軍の総大将でもあるジャレッドが姿を見せる。


 彼は普段と変わらない態度でゼルヴァルトに接し、あっさりと司令官室まで招き入れる。周囲の兵たちは黒勇隊4番隊隊長であるゼルヴァルトの事を必要以上に警戒し、目を鋭くさせた。


「お前らじゃ無理だ。そんな暇があったら、周囲を警戒しろ! 魔王軍がいつ攻めてくるかわからないからな!」彼は周囲が震えるほどの大きな喝を入れ、指令室の扉を閉じた。


 ジャレッドは座り心地の良さそうな司令官の椅子に深々と座り、脚を組んで酒を呷った。


「ここの前の主人は、いい趣味をしていたようだな。中々、居心地がいいぜ」と、高級素材で出来た机に足を乗せる。


「ここの兵たちは……中々優秀だな。流石、貴方が集めた最後の勇者達だ」部屋の窓から砦内を見回し、戦の準備を進める兵たちを眺めた。


「あぁ……そして……これで『勇者の時代』は終わりだな。俺はこの大陸……いや、全国で潜伏していた勇者たちを集めた。どちらに転ぼうと、これで全てが決まる。ま、お前も呑めや」


「……」ゼルヴァルトは勧められるままにグラスを取り、素直に酒を呷った。


「で? お前はどうする気だ? 俺たちと一緒に暴れる気で来たのか?」


「……いえ、私は……見届けに来たのです。勇者の時代の最期を」熱い液体を流し込み、ジャレッドの目の奥を見た。


「そうか……お前は最後まで参加しないんだな」ジャレッドもグラスに注いで煽り、納得する様に鼻でため息を吐いた。


「魔王と戦い続けるには、継ぐ者がいなくては……戦いを見届け、意志を継ぐ者が」


「そうか……ふっ」ジャレッドは真面目な彼の顔を見て、肩を揺らして笑う。


「何が可笑しいんですか?」


「いや……そう言えば、俺たちはまだ、一度も手合わせをしていなかったな」ジャレッドは椅子から腰を上げ、背筋を伸ばして彼の前に立った。


「手合わせをする必要が無かったと言いますか……そんな余裕があるのですか?」ゼルヴァルトはこうなるのを予想していたのか、微笑を浮かべながら席を立った。


「砦の裏に、いい広場がある」ジャレッドは指で合図し、獣気に近い殺気を滲ませた。




 砦裏の切り開かれた森の広場に2人がやってくる。ジャレッドは愛剣であるロングソードを肩に担ぎ、指の骨を鳴らした。


 ゼルヴァルトは珍しく黒鎧は纏わず、身軽な私服のまま剣を構え、相手を見据える。


「加減はナシで?」ジャレッドの覚悟を汲んだゼルヴァルトが、あえて問う。


「もちろんだ。例え即死級の重傷を負っても、ホワイティ・バールマン特製のヒールウォーターがあるんでな」


「命を削る粗悪品で有名な?」ホワイティ曰く、そのヒールウォーターは未完成品の駄作であった。だが、それでも「神薬だ!」と、使う者が後を絶たないので、渋々量産を続けていた。


「俺たちには丁度いいだろ? さて……」


 その瞬間、ジャレッドの帯びていた殺気がピタリと消え失せる。普段の戦闘では、まるで嵐の様に吹き荒れさせていたが、今回はまるで今迄のがウソの様に静まった。


「……まさか、ここで命を賭ける事になるとは……」ゼルヴァルトは剣を握り直し、ジャレッドの上体の動きを注意深く観察する。



「はじめようか?」



 ジャレッドはゼルヴァルトの動きには構わず、ズンズンと距離を詰めた。その動きに隙は無く、ゼルヴァルトは珍しく冷や汗を掻いた。


 だが、冷静に判断した彼は、ジャレッドの一撃を待った。


 その一撃は、大きく片手で振りかぶった横振りだった。ゼルヴァルトはそれを余裕で受け流し、懐へ飛び込む。


 それと同時に、ゼルヴァルトの腹部に爆ぜる様な衝撃が襲い掛かる。ジャレッドが最高のタイミングで蹴りを見舞ったのである。


「ぐぁっ!!」


「型にハマった戦い方じゃあ、俺には勝てねぇぜ~」楽しそうに左手でゼルヴァルトの顔を掴み、投げ飛ばす。


 投げつけられた先で受け身を取り、首を振って視界を取り戻す。


その次の瞬間、既に間合いの内でジャレッドが剣を振りかぶっていた。


「はっ!!」今度はゼルヴァルトが先に動いていた。相手の攻撃手を斬り上げで躊躇なく切り飛ばす。


「やるねぇ!」だが、ジャレッドは怯まず、斬り飛ばされた右腕には目もくれずに血飛沫を目潰しに浴びせる。


 ゼルヴァルトはそれを華麗に避け、更に肘打ちを脇腹へ見舞う。


 だが、その一撃は効果が無く、今度は横面に爆ぜる様な衝撃が走る。ジャレッドの左拳が頬にめり込んでいた。


「ぐぉうぁ!!」頬骨が砕け、奥歯が抜け落ちる。


 久々の激痛に怯み、態勢を立て直す頃、ジャレッドの左腕にはロングソードが握られていた。


「いいねぇ……お前との本気の殺し合い……始めて出会った頃からこれを望んでいた……最後に願いが叶ってよかった」ジャレッドは嬉しそうに笑い、ここで初めて殺気を吹き荒れさせた。この殺気は砦中に、まるで嵐の様に降り注ぎ、兵たちの間に小さな混乱が生まれる。


 この激しい殺気に当てられたゼルヴァルトは、肌をヒリヒリとさせながらも剣を構え直す。髪を逆立たせ、全身の魔力を巡らせて稲妻をのたくらせる。


 そして、台風の目に入った様に2人のいる空間だけが無となる。殺気と風が止み、静止した2人が黙って見つめ合う。


「…………」


「…………っ!!」


 先に動いたのはジャレッドだった。彼は獣の様に荒々しく、且つ熟練の戦士の様に合理的な一撃を見舞った。フェイントのない、心臓への豪速の突きだった。


 それをゼルヴァルトは紙一重で避け、相手の隣を瞬時に奔り抜ける。


「勝負あり、です」ゼルヴァルトは剣を鞘に納め、真っ白な疲労のため息を吐いた。汗を大量に掻き、震えた手で無理やり拳を作る。


「の、様だな……」切り裂かれた胴を押さえ、勢いよく吐血する。


 ジャレッドは満足そうに笑い、殺気を収めて懐からヒールウォーターを取り出した。




 ジャレッドは先ほどの殺気の嵐を兵たちに上手い事説明し、再び司令官室へと戻った。彼はヒールウォーターですっかり傷を癒していたが、ゼルヴァルトは自前の回復剤を傷に当てていた。


「なぁ、ゼルヴァルト」ジャレッドはどこからか刃渡りの大きいナイフを取り出し、彼に差し出した。


「これは?」


「こいつを……黒勇隊参謀のハーヴェイに渡してくれ」と、持ち手を差し出す。


「……わかった」ゼルヴァルトは丁重に受け取り、ナイフを懐に仕舞う。


 その後、2人は沈黙したまま酒を酌み交わした。何を話すでもなく、笑うでもなく、ただ黙って楽し気にグラスを傾ける。


 酒瓶が空になったところで、ゼルヴァルトが口を開いた。


「魔王はこの戦いで……ナイトメアソルジャーを動かすつもりだ」


「あぁ、知っている。正直、楽しみだ。あの得体の知れない無敵の軍団相手に、俺たちがどこまでやれるのか……な」


「……そうか……私は伝えよう。その戦いぶりを」と、だけ口にしゼルヴァルトは席を立つ。会釈し、彼は指令室を後にした。


「頼んだぜ……必ず伝えてくれ」ジャレッドはそう言うと、新しい酒瓶を開けてラッパ飲みを始めた。

如何でしたか? 次回、ジャレッド大暴れ! そして、謎に包まれたナイトメアソルジャー、出撃……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ