夢の悪魔
「ん…?」
「…おい君、大丈夫かい?」
目を覚ますと、見知らぬ男が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「ああ、大丈夫だ…あれ、無い?」
背中を刺され、腹まで貫通していたあの傷が消えている。
痛みも無く、破れて血で汚れていたはずの服も何事も無かったように戻っている。
「…なんだガキ。お前、ここ初めてか」
「初めてって…」
壁に寄りかかっていた、もう一人のガタイの良い男が露骨に嫌そうな顔でそう言った。
起き上がって周りを見る。
どうやらここは牢屋の中らしい。
「はぁ…アイン、説明してやれ」
「そうだね…僕はアイン。こっちがケン。君、名前は?」
「ユウキだ」
「よし、ユウキちゃん。君は多分ついさっきまでこの監獄の中にいて、何かに殺された。そうだろう?」
「…そうだな。よく分からんやつに背中から刺されて…」
「ここはドレン監獄。『夢の悪魔』である、ドレンの呪いを掛けられた人間がたどり着く夢の中の監獄なんだ。ここには…正確には分からないけど、100人以上が収監されてる。そして、僕たちがさせられているのが…」
ビィィィイ!!
突然鳴り響いた警報。
それと共に牢屋が開いた。
「行くぞ」
ケンが牢屋の外へ出た。
俺たちもそれに続くように外へ出た。
「こうやって、とあるゲームに参加させられているんだ。他の囚人達と殺し合い、試練を突破することでこの監獄から出ることが出来るんだけど…毎回出られるのは最後まで生き残った1グループだけなんだ」
「…もしもこのゲームで死んだらどうなるんだ?」
「ああ、忘れていたね。夢の中だから死にはしないよ。ただ、殺されたらグループのメンバーがランダムで入れ替わって、また初めからやり直しになる」
…まんまバトルロイヤルのゲームって事だな。
にしても『夢の悪魔』ドレン…聞き覚えが無いな。
まさか俺にとり憑いてた悪魔か?
…いや、一旦置いておこう。
今はこのゲームに集中すべきだろう。
先導するケンは慎重に歩いていて、なにかに警戒しているように見える。
「あれは何をやってるんだ?」
「罠だよ。この監獄には強力な罠が仕掛けられているんだ。爆薬、刃物、落とし穴…全てがほぼ即死する威力を持ってるから注意してね」
「(シッ…お前ら、静かに。ヤツらがいる)」
小声で木箱の裏に隠れたケン。
俺達もケンの隣に並んで隠れ、向こう側を覗いてみる。
そこには、あの燃える森にいたような、ゾンビのような人間が2人いた。
目は虚ろで、ブツブツと何かを呟いている。
「(…あいつらは?)」
「(俺たちはゾンビって呼んでる。厳密には違うけどな。このゲームに長居しすぎた人間の末路だ。前のゲームで仲間だった人間を殺したり、何度も殺されて心が壊れちまったんだ。ああなったらもうこの夢から出ることは出来ねえだろうよ)」
ケンはそう言って、苦しそうな顔をした。
…多分ケンもそういう経験をしてきたのだろう。
「(あいつらは強いのか?)」
「(ううん、一人一人の戦闘力は高くない。ただ、囲まれた時は抜け出すのが大変だから、沢山いる時は気をつけるんだよ)」
「(…よし、アイン。俺は左を殺るからお前は右を頼む)」
「(わかった)」
「(おい、俺だって戦えるぞ)」
「(ガキは後ろで応援でもしてな)」
馬鹿にしやがって…
2人は足音を立てないようにゆっくりと近づき、背後からゾンビの首を掴み、アインは地面に叩きつけ、ケンはそのまま首を折って倒した。
「へっ、どんなもんよ」
「ふぅ…ユウキちゃんこれだけは覚えておいてくれ。もしも次のゲームで敵として出会ったとしても、恨みっこ無しだ。そうしないと、心がどんどん壊れていく」
「…わかった。次のゲームで合わないことを祈るよ」
「次のゲームなんて考えるな。このゲームで生き残りゃいいんだ」
そう言ってケンは再び歩き始めた。




