記憶
「先輩、先輩…泣かないでください」
「…」
「分かっていたことじゃないですか」
「そう、だけど…」
「先輩、いつもみたいに手を、握ってくれますか?」
「…ああ」
俺は彼女の細くて、小さな手を握った。
「えへへ、温かいです」
彼女の手は既に熱を失い始めている。
「先輩、今まで、ありがとうございました」
「…ああ、いいんだよ」
「私、先輩と一緒にいるときが人生で一番楽しかったと思います。」
「…ああ、俺もだ」
「…今日でお別れですね」
「…」
「そんな顔、しないでください」
彼女は手を伸ばし、俺の頬を撫でた。
俺を心配させないためか、彼女は笑顔を崩さない。
「もう、時間がないようですね…最後に我儘を言わせてください。私のことを、覚えててくれますか?」
「…もちろんだ。忘れないよ」
「えへへ、ありがとうございます…」
「…なぁ、俺」
「待ってください。私に、言わせてください…」
「…」
「私、先輩が好きです。ずっと想ってました。あなたのことが好きです」
「…俺も…俺も、お前のことが好きだ…」
「えへへ…最期にそれが…聞けて良かったです…これで、私は何も…」
「愛してる…俺は、お前を…」
「はい…私も…愛してます…」
そう言った後、彼女はゆっくりと目を閉じ、動かなくなった。
「ああ…あああ…」
「ツムギ…」
…夢を見ていた。
顔に触れると、濡れていた。
どうやら泣いていたようだ。
…外は暗いな…朝まで寝ていよう。
俺は涙を拭き、もう一度ベッドに寝転がった。
「…ユウキさん。泣いてるんですか?」
「うわっ…なんだ、起きてたのかよ」
「いえ、ユウキさんが飛び上がった時に目が覚めただけです。お酒飲んだ時って眠りが浅いんですよ」
「そ、そうか…悪かったな」
「いえ、大丈夫です…それより、泣いてましたよね?」
「…気にすんな」
「どんな夢を見たのかは聞きませんが、無理はダメです。泣きたい時は泣いた方がいいんですよ」
「…」
「ほら、おいで」
ネムは腕を広げている
「…ありがとう」
「…よしよし、辛かったんですね」
「…」
その後も、ネムは何も言わずに撫で続けてくれた。
「あら、眠ってしまいましたか…うふふ、ユウキさんは可愛いです…ふわあぁ…私も寝ましょう。おやすみなさい」




