変身
「動かなければいいんだな?」
「はい!そこでじっとしていてくださいね」
ネムがチョークで地面に描いた魔法陣、俺は全裸でその中心に立たされた。
今からやるのは俺の姿を変える魔法だ。
どんな姿かと言うともちろん、もちろんカンダユウキという男の姿である。
反対側の舞台袖ではツムギも姿を変えることになっている。
もちろん本人は目隠しを外すまで気づかない。
「…はい、終わりました!」
「え、もう?うわ、久しぶりに聞いたな、この声」
いつもよりも高い視点、低い声。
俺が17年間、どこぞの誰かに奪われるまで生きてきた体だ。
「…なんです?」
「いや、なんでも」
当の本人はちっとも悪気のなさそうな、というか既に忘れてそうな顔で、いい仕事をした…とばかりに汗を拭っている。
「タイムリミットは今から6時間です。それまでえっちな事するなりお好きにどうぞ!」
「ばーか、俺は誠実な男なんだよ。そんな事のために体を変えたわけじゃねえさ」
用意していた服を着て、徹夜で作ったネックレスの1本を着けた。
…我ながら良い再現度だ。
俺が前世で肌身離さず着けていたネックレス…を真似て作った物。
あれはただのアクセサリーではなく、特別な思いが詰まった物だった。
多分、これからもこのネックレスを着け続けるだろう。
「おお、本当にユウキ君なのかい?」
「そうだよ。どうだ?」
「ふふん、いい男じゃないか。魔王様が羨ましいね」
司会者をしてくれるメレスがやってきた。
もうそんな時間か。
向こう側の舞台袖を見ると、ゼランがOKサインを出していた。
「よし、準備はいいかい?」
「…ああ、行ける」
返事を聞いたメレスはステージに上がった。
「皆、静かに。これより、魔王様の誕生日会を始めます。まず初めに、ユウキ君から魔王様へのサプライズを。それでは、魔王様とユウキ君、ステージ上にどうぞ!」
頑張ってくださいね!という背後からの応援を受け、ステージに上がった。
ザワザワとしていた会場内は、俺が出てくると共に、しん。と静まり返った。
全員驚いてるってよりも何事かと思ってるんだろうな。
「それじゃあ、ここに立っててね」
「えっ?ここで…いいんですね?」
向こう側からやってきた変身済みのツムギとゼラン。
ツムギをステージ上に配置し、応援してるわよぉ、と言わんばかりのサムズアップと共に舞台袖へと引っ込んだ。
目の前には1人の後輩。
あの時の俺を好きでいてくれた、たった1人の女の子。
巻かれている目隠しに手をかけ、解いた。
はらり、と落ちた目隠しの奥には、綺麗に輝くブラウンの瞳。
「…先、輩…?」
「ああ、ツムギ。俺だよ」
「えっ…と。なんで…夢、ですか…?」
「夢じゃない。俺は本物だぞ」
ぺたぺたと俺の手に触れ、腕に触れ、頬に触れた。
それから少し固まったと思ったら、突然抱きついた。
「先輩っ!」
「ああ、久しぶり…なのかな」
わーっと泣き出したツムギを抱きしめた。
毎度の如く、微妙なところでおしまいです。
次の更新日は三連休中のどこか!




