ハイタッチ
「あっっぶねぇ!!」
「あ、あ…びっくりしたぁっ…!ありがとね、ユウキっち!」
「ああ、これがこいつの戦法だったんだな」
相手を油断させたところに素早い攻撃をしかけて一撃で殺す。
なるほど、ディードは素早い動きが苦手だから、これにやられたのだろう。
そして、俺らにそれが失敗したということは…
「ここからが本番って訳だな」
水に濡れたからだを乾かすように体を振り、焼けただれた皮膚を剥がしていく。
皮膚の下から出てきたのは、毛皮だった。
外皮を脱ぎ捨てた獣の悪魔は余裕の表情で銀色に輝く美しい毛を毛繕いしている。
第二形態…みたいな感じかな?
その姿は狼のような…というか狼である。
「…あーし達、完全に舐められてんじゃん。確かに今は油断してたけどさぁ、なんかムカつくよね」
「わかる。じゃ、作戦Bだ。ここは任せてもいいか?」
「うん、あのスピードならまだ対処出来るよ。ユウキっちの腕、信じてるからね?」
俺は屋根の上に飛び乗り、走ってこの場から離れる。
屋根を伝いながら近くの時計塔へと向かう。
この時計塔はこの国で魔王城の次に大きな建物であるため、絶好の狙撃スポットになる。
匂いとかで場所は把握されていそうだが、何をされるかはまだ知らないはずだ。
その間に仕留める。
ズドオオン…
…今のはエメラが戦い始めた音だろう。
エメラが簡単にやられることは無いだろうが、急がないとな…
階段を駆け上がり、4階のバルコニーに出た。
バレットM82を創造し、バイポッドを立てて地面に設置する。
『見てハルカ!安かったから買ってきた!』
『…そんなもん衝動買いしないでくださいよ』
両手でバレットM82を抱えて帰ってきたあの人。
いつもは厳しい癖に新しい銃を買ってきた時は子供みたいにはしゃぐアホっぽい師匠…懐かしいな。
あの人の笑顔に憧れていた。
俺もいつかは、あんなふうに心の底から笑顔になれたら…
…違う、今は思い出に耽っている暇は無いだろう。
準備完了を知らせる1発を空へ向けて放つ。
その合図に気がついたエメラが、精霊を使って自身の周辺を照らす。
暗い街の一部が、スポットライトのように照らされている。
これで狙撃の準備が完了した。
膝をつき、グリップを握り、スコープを覗き込む。
エメラと獣の悪魔の熾烈な戦いを繰り広げている。
あの素早い動きに銃弾を当てることは相当難しい。
ただし、少しでも隙を見せたら頭をぶち抜ける自信はある。
エメラが獣の悪魔を少しでも怯ませることが出来たら…
と、その時、タイミングよくエメラが獣の悪魔の眼球を傷つけた。
それと同時に跳ね上がった頭に向けて、引き金を引いた。
「ナイスショット!」
そう笑顔で迎えてくれたエメラとハイタッチをする。
その傍らには完全に息をしていない獣の悪魔がいた。
頭に大きな穴が空いていて、そこからは血が溢れだしている。
─待て、まだそいつは死んでいない。
頭の中で声が聞こえた。
獣の悪魔を見ると、ピクリと動いたように見えた。
その次の瞬間、エメラが半身を噛みちぎられ、息絶える姿…
「ッ!なんだこれ…!」
「どしたの?」
そんな映像が頭の中で流れた。
恐る恐る地面に横たわる獣の悪魔を見ると、ピクリと動いたのが見えた。
俺は反射的にエメラを突き飛ばしていた。




