討伐準備
最近暑いね…
「……それで、庭から死体が出てきた。身につけている装備から、この国の兵士だということもわかっている。アンソルス、詳細を頼む」
「ああ。これを見てほしい」
皆の前に掲げたのは、例の爪である。
「これは獣の悪魔の爪である。何者かがこの付近に悪魔を召喚したのであろう」
「悪魔、だって?」
反応を示したのはディードだった。
その顔はすこし青ざめており、尋常ではないことが分かる。
実際そうだ。
俺が聞いた、この世界における悪魔というものは、厄災を形にしたものであり、国1つくらいなら容易く破壊できる可能性のあるものだ。
「つまり、私たちが捜索していたあの小屋の地下室は…」
「悪魔を召喚するための儀式部屋でありますか…」
「そういうことになる。転がっていた死体は供物であろう。それらを全て喰い尽くし、外へ出た時の反動で小屋が破壊、その後、城に勤務している兵士を殺し、地面に埋めた。奴は未だにこの国の中をさまよっているはずだ。早く見つけ出して仕留めねば、暴れだしたらこの規模の国であれば3日ともたずに消滅するだろうな」
「おい、悪魔を仕留めるなんざ出来るはずがないだろ。形ある厄災だぞ?」
「安心しろ。強敵であることには変わりはないが、獣の悪魔は悪魔の中では下位の存在である。まだ運が良かったと言えるだろう」
獣の悪魔は理性が存在せず本能で行動するため、物理的に国を破壊する。
見えないところで国を内側から崩されるよりは単純でわかりやすい。
「悪魔についての記述を余は持っている。それをもとに、獣の悪魔を討伐する。よいな?魔王よ」
「…はい、悪魔を召喚した犯人を探すよりも、悪魔を討伐することを優先に行動しましょう。私は悪魔の事については全くの無知ですので、アンソルスが監督をお願いします」
獣の悪魔。
体長 3~5m
体高 2~3m
人的被害、農業被害を含めた様々な獣害が形となったもの。
理性は無く、1度暴れ出したら目に付くものを全て破壊するまで停止しない。
その性格は凶暴であり、目につく人間を食い殺し、満腹時には殺した獲物を地に埋めて保存する。
その巨大な口内では液状化した『呪い』が生成されており、触れたものは体を呪いに蝕まれ、数日足らずで死に至る。
「あと必要なのはこの辺りだな。『夜中の12時から朝方5時が最も活発的に活動する時間帯であり、どこからともなく姿を現して、獲物を探してさまよい歩く』。現時刻は10時。12時までに全員準備を済ませ、余が指定する場所に向かうのだ」
国全体の地図を開いたアンソルスは、印をつけていく。
この国には北、東、西に伸びる3つの大通りがある。
北に俺とエメラ、東にディードとゼノビア、西にヘイルとアンソルス。
本部である城で待機するのはツムギとゼランとネム。
各自通話石を持ち、何かあったら適宜報告。
「国民に家から出ないように放送を流してきます」
「ネム達には俺が声を掛けてこよう。なにか他に伝えることとかあるか?」
「ああ。解呪の魔法が使えるかだけ聞いておいて欲しい」
「了解」
そう言って俺は部屋を出た。
悪魔…あの時感じた嫌な予感ってこれの事だったのかな…?




