アンソルス
描写されてないけどニアはちゃんとついてきてます。
約1時間の攻防の末、ようやく追っ手を振り切った俺たちは、軽く自己紹介を済ませた。
魔女の名はアンソルス・アリシア。
400年以上生きている魔女でメレスの育ての親である。
長く伸ばした銀色の髪が特徴的な女性だ。
身長が高く、時折見せる蠱惑的な微笑みはつい見とれてしまう。
一言で言えば魅力的な大人の女性、という感じだろうか。
『魔女』という肩書きに相応しく、魔法に関してはこの大陸で一二を争うほどの実力者であったらしいが、現在は9割ほど魔力を奪われたせいで本来の実力が発揮できそうにないとの事だ。
「お母様…また一緒に話せて、僕は…僕は嬉しいですっ!」
「ふふっ、泣き虫なのは変わらぬな。今年で幾つだ?」
「17歳です!」
「ということは、あれから11年が経ったのか…こんなに大きく育ってくれたこと、母親として嬉しいぞ」
馬車の荷台で抱き合っている幸せそうな二人を見て、思わず頬が緩む。
親子愛ってのはこういうものなんだな…
見ている側の心も暖かくなるのを感じる。
「そうだ。今はどこに向かっている?この方向からして…ベリーフか?」
「はい。ベリーフは現在、魔王国として魔界の統一を掲げているのです」
「ベリーフと言えば、クレフは元気にしているか?」
「クレフ様は…お亡くなりになりました」
「…そうか。10年以上経っているのだ。誰が死んでいようと不思議ではない」
クレフ…聞いたことがあるぞ。
たしか魔王国がベリーフだった頃の統治者だ。
ツムギは病で苦しむクレフに、民を守ることを条件として正式に権利と地位を譲ってもらったらしい。
残念ながらその後、病で亡くなってしまったらしい。
アンソルスとも交友があったのだろうか。
「さて、ユウキ。御主が持っている水晶玉を出してくれるか?」
「水晶玉?あぁ、あれか」
ポケットに納まっていたみかんほどの大きさの水晶玉をアンソルスに手渡した。
その水晶玉をじっくりと眺めたあと、それを両手で包み込んだ。
「………」
「お母様、やはり…?」
「ああ、駄目だな。魔力を注ぎ込むことはできるが吸収することができぬ。この玉から余の力を取り戻すことは不可能だ」
「なぁ、結局その玉って何なんだ?」
「この玉の中には余から奪った魔力が詰め込まれている。玉にヒビが入ろうものなら、そこから圧縮された高濃度の魔力が吹き荒れ、大規模な災害が引き起こされるだろうな」
うげ…そんなやばい物持たされてたのか俺…
もしも手を滑らせて落としていたら…なんて想像をして、身震いした。
「案ずるな。この水晶玉はちょっとやそっとでは割れぬからな」
「それなら安心…いや、そうだとしても怖ぇーよ」
一方その頃ネムはというと、戦闘にいるため荷台での会話に参加できず、ちょっとした疎外感を感じながらユーリの手綱を引いているのであった。




