自我
「3時間…ふむ、ここまで耐えきった獣人は初めてですね。言うまで出られないんだから、早く言った方がお互い楽ですよ」
「ハァーッ…!ハァーッ!」
意識が朦朧としている。
そろそろ限界なのかもしれない。
ふと、扉の近くを見てみると、ネムは未だに俺を見守ってくれている。
大丈夫だと言った俺のことを信じてくれているのだろう。
…ああ、大丈夫だ。
あいつらのことを思い出すだけで、まだやれる。
「はぁ、キリがない…仕方がありません、3人とも中に入ってください」
そう言った眼鏡男が扉を開けた。
その瞬間、足に力を入れて、牢屋を…
「あ…れ?」
飛び出そうとして地面に頭から突っ込んだ。
力が入らない。
「ふむ…?お香に麻痺毒を混ぜた覚えはありませんが…まぁいいでしょう。3人は体を触ってあげてください。あくまでも触るだけですからね?」
「分かってますよハンツさん」
男たちが俺を囲んだ。
大きな手は俺の体を嫌な手つきで触り始める。
だが、既に俺の体はそれだけで絶頂してしまいそうなほど敏感になっている。
嫌悪感と、意味のわからない快感で吐き気がする。
「ひうっ、あっ、んんっ!」
「すっげえ柔けえ…」
「こいつは他国のスパイなんだもんな、遠慮なくぶち犯せるって考えたら…」
「合法的にこんなことが出来るだなんてよぉ…この国の騎士になってよかったな!ぎゃははは!」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
「てめ、ぇら、ぁ、うぐっ…!ぜ、ったい、殺す…ッ!!」
「そんな口いつまで叩けるのかねぇ!」
「んっ、くうぅっ!」
胸を触られ、腹を撫でられ、足を舐められる。
快楽と屈辱と嫌悪感。
これは俺の不注意と慢心が招いた結果だ。
心が負けてアイツらに迷惑をかけるくらいなら、舌を噛み切って死ぬのが…なんだ?
ふと、なにかに呼ばれた気がして、高い場所にある小さな窓を見た。
月が出ている。
もう夜になってたのか。
こんな時なのに、まんまるな満月から目が離せない。
あれ。
おかしいな。
「ははッ…ツキが、キレイだなァ…」
なんで笑ってるんだ、俺。
「う、ぐ…?」
頭部に激しい痛みを感じて、うずくまった。
…うずくまった?
なんで俺は立ってるんだ?
ぴちゃり…
足の裏に違和感を感じ、下を見た。
血溜まり、そして俺を囲むように倒れている3人の男。
鉄格子の向こうには、喉に何かが刺さってぐったりとしている眼鏡男…
「なん、で…?」
誰がやった?
いつの間に?
倒れている男たちをよく見ると、いずれも喉や胸を抉られて死んでいる。
…口の中に異物感がある。
「う、ぇっ…なんだ、これ」
吐き出してみると、真っ赤な血と、謎の固形物。
加えて、足は真っ赤に染まっていて、全部の指に何かが挟まっていて気持ちが悪い。
意味がわからない。何が起こったんだ…?
体の疼きは多少残っているものの、自由に動く。
何はともあれ、今は逃げなければ…
開いたままの扉を抜け、眼鏡男から手枷の鍵を探し出す。
「ネム、何処だ…?」
「チュウ、チュウ…」
「そこか、よかった…後で何が起こったか教えてくれ」
俺は牢屋から抜け出した。
おかしいな




