拷問
冷たい空気が頬を撫でる。
状況がよく分からない。
分かるのは、俺は今、後ろ手に縛られて硬い床に転がされているということだ。
目を開くと、鉄の棒が縦に何本も…いや、これは鉄格子か?
「おや、目覚めましたか」
声が聞こえた。
穏やかな男の声だ。
よく見ると、鉄格子の奥にある椅子に眼鏡をかけた男が座っていた。
「…?」
「率直に聞きますが、あなたはどこの間者ですか?」
あぁ、確信した。
俺は捕まったのだ。
「国家機密である魔力収集所の防犯装置にまんまと引っかかったのがあなたです」
防犯装置…?
あぁ、そういえば、ポッド内の女を見たあと、変な匂いがしてきた所までしか記憶が無い。
何かしらのガスで眠らされたのだろう。
「ふむ、吐きませんか。あと30分以内に吐かないのであれば、大変なことになりますよ」
無論、言えるはずが無いし、言うつもりもない。
口を閉ざし、ここから出る手段を考える。
牢屋内は当然マナが無く、創造はできない。
隙を突いて逃げるしか無さそうだ。
「チュウ、チュウ」
目の前には見覚えのあるネズミ…ネムの分身がこちらを心配そうに見ている。
(心配すんな、どうにかして逃げ出す)
小声でそう呟く。
対拷問訓練なら経験済みだ。
まさか死後に役に立つとは思わなかったけどな。
〜〜30分後〜〜
「はぁ、馬鹿ですね」
男は立ち上がった。
そうだ、入ってこい。
その扉を開けた瞬間、お前の喉を噛みちぎってやる。
しかし、男は扉を開くこと無く鉄格子から離れていった。
かと思ったら、何かを持って戻ってきた。
「これがなにか分かりますか?」
カップケーキのような大きさのソレに火をつけて、男は足元にソレを置いた。
煙が発生し、俺の方に流れてくる。
一瞬だけ煙を吸って、気がついた。
「は…ぁっ…!お、い…これは…ッ!」
「はい、獣人は性欲に勝てませんからね。これは獣人を発情させるために作ったお香です」
まずい。
これは本格的にまずい。
まだ1分も経ってないのに、体が熱い。
痛みや苦しみならまだいい。
しかし、眠りや食事、欠伸や排泄を我慢出来ないのと同じで、獣人になってから性欲に逆らうことが出来なくなっている。
ただの人間であったころの、ムラムラする、くらいで済んだ性欲がこの体になってから我慢が出来ないのだ。
「獣人は痛みに強い個体が多いですからね。これが一番効くんですよ」
「ふっ…あ、はぁっ…!」
「時間が経てば経つほど催淫効果が強くなるように作っているので、徐々に感度が上がっていきますよ。ほらもう…ふうっ」
「ひぁっ!?」
息を吹きかけられただけで下半身が疼く。
「さぁ、この辺で吐くのがちょうどいいと思いますよ。ねぇ、皆さん」
皆さん…?
眼鏡男の後ろには、息の荒い3人の男が立っていた。
「後処理は彼らに任せますから、早めに楽になりましょう。気が狂ってしまう前にね」
言ったらロリコン共に犯され、言わなければ永遠に苦しむ。
あぁ、最悪だ。
拷問に耐える訓練を受けたことのある高校生。
ユウキの謎は深まっていくばかりである。




