黒猫
書斎にある本はところどころ隙間が空いていて、持ち去られているようだ。
半分以上が魔術や研究関連の本みたいで、初級魔術の本から太古の魔術書の意訳本、何なら解読不能な旧字体の本まであった。
他にも呪術、占術、薬学、生物学など、いろいろなジャンルの本がある。
メレスの幅広い知識はこれらの本から得たものだろうか。
はたきで本の上に降り積もった埃を落としていると…
がさがさっ…ドサッ
後ろに積んであった本が物音と一緒に一冊落ちた。
「…誰かいるのか?」
がさっ
今度は左の本棚辺りから。
ゆっくりと近づくとそこに居たのは…
「みゃー」
おでこに白い模様がある一匹の黒猫だった。
しかも子猫。
空き家だったから住み着いてたのか?
「埃だらけだな…しかも痩せてる」
首輪はないし、周りに親猫もいない。
完全に野良猫だ。
「ふむ…よし」
~~数分後~~
「こら、暴れるな。綺麗にしてやってるんだから」
「みー!」
「何やってるんだいユウキ君…」
「猫見つけた。名前はニアだ」
「…ふむ」
桶に張ったぬるま湯にニアと名付けた黒猫を入れて埃だらけの身体を洗う。
それをメレスは興味深そうに眺めている。
お湯からニアを出し、タオルで拭く。
「この子、どうするんだい?」
「親猫もいなそうだし、飼いたいと思ってるんだが、どうだ?」
「作戦に支障はないし、いいと思うよ。何よりかわいいし」
「だな」
メレスに首付近を撫でられたニアは気持ちよさそうに目を細めた。
「それで、掃除はどこまで終わった?」
「個室2つと研究室は終わったよ」
「俺はリビングとトイレ、書斎はまだ途中だな」
「じゃあ僕が書斎やってくるからキッチンお願いしてもいいかな?どうせ僕とネム様は使わないんだし、ユウキ君が使いやすいようにしてくれていいから」
そういったメレスは掃除道具を持って書斎のほうに歩いて行った。
「みー」
「腹減ったか?すまん、まだ買い物にも行ってないから水しか出せないんだよ。我慢してくれ」
「みー…」
「ユウキさーん、馬小屋と井戸付近の掃除もやったんですけど、やること残ってますか?…なんですかこの猫ちゃん!かわいいですー!」
「今日から飼うニアだ。やること…外に出してるソファーとかベッドとか、まだ放置したままだから綺麗にしといてくれるか?」
「了解です!」
後で触らせてくださいね!と言って外に走っていった。
~~2時間後~~
キッチンの掃除が終わり、全員で家具も中に運び込んだ。
入ってきたときに比べたら見違えるほど綺麗になった。
早朝に街に着いて、いつの間にかもう夕方。
それまで休憩無しで作業をしていると当然…
「お腹すきましたー!」
「僕もー…もうへとへとだよ…」
「そうだな…買い物に行ってくる。地図貸してくれ」
「地図は…はいこれ。そうそう、この家に住んでることは言っちゃだめだよ。万が一にでも僕たちの正体がばれたときに逃げられなくなるかもしれないからね」
「了解、んじゃ、行ってくるわ」
「「行ってらっしゃーい」」
食材の調達と一緒に国内の様子も観察しておこう。




