出発
第二章「統一」に入る前に、長いけど「設定集1」を読んでくださいね。
今日からコラル国への偵察任務だ。
目標は、数年前から急速的に技術が進歩したらしいコラル国の内情の調査。
メンバーは俺とメレス…あと、「ここに居たらゼランに連れまわされるんですよ!私もつれてってください!」と泣きついてきたネム。
期間は1~2週間だ。
「ユウキ様、昨日はちゃんと眠れたにゃ?荷物は確認したにゃ?」
「ちゃんと寝たし確認もしてる。心配性のおかんかお前は」
後ろで俺のベッドを整えているミーナに、着替えながら返事をした。
俺の隣ではまだ寝起きのアニスが眠そうにあくびしている。
「ゆうき、怪我、しないでね」
「おう、任せとけ。無事に帰ってくるさ」
「…そうだ。いいこと、思いついた」
そう言ったアニスはパジャマのままどこかに行ってしまった。
「…アニスちゃんどうしちゃったのにゃ?」
「さあ…?」
「ユウキさーん、準備出来ましたかー?」
アニスと入れ違うようにネムが部屋に入ってきた。
「もう少しだ。そっちは?」
「私は大丈夫です!ゼランが来る前にさっさと出ま」
「おはよぉネムちゃん。任務について行ってしばらく居ないんでしょお?」
ネムの言葉を遮るように、ぬっ、とネムの背後からゼランが生えてきた。
「ぴいぃい!?ど、どこから沸いたんですか!」
「うふふ、行ってらっしゃいの挨拶はしておきたいなあって思ってねえ」
そういってゼランは背後からネムをぎゅっと抱きしめた。
「う、うっとおしいです!」
「あん…ちょっとくらいいいじゃないのお」
「うひいっ!どこ触ってるんですか!そ、そこは尻尾、で、すぅ…!」
「にゃはは、ゼラン様とネム様は仲がいいにゃあ」
「そうよぉ」「よくない!」
綺麗に揃って出た正反対の言葉を聞きながら着々と準備を進めた。
~~数十分後~~
現在地点は城の門付近。
「今回の偵察任務は、敵国に潜入するということで相当危険です。情報も少なく、道中どこに監視所があるかもわからないので、先輩が出す車やバイクは使わず、馬車で行商人のふりをしてコラル国に侵入します。感づかれないように気を付けてくださいね」
「もしも感づかれた場合は逃げてもいいのかい?」
「もちろんです。自分たちの命を最優先で行動してくださいね」
しばらくすると、ディードが馬車を繋げた馬を連れてきた。
白くてとても綺麗な毛並みの馬だ。
「こいつの名前はユーリだ。パワーもスピードも魔王軍が保有する馬で随一だぜ」
「ぶるふふ…」
「おわっ、なんだ?何も持ってないぞ?ちょっ、くすぐったい」
ユーリが鼻をすりすりとこすりつけてくる。
「珍しいな。ユーリはいままで誰にも懐いたことないってのに」
ディードがユーリの首を撫でようとすると、ふいっ、と顔を背け、ディードが「ほらな?」と苦笑いした。
「なんたって万物の母たる私の身体ですからね。懐かれるのも当然ですよ」
そう言ったネムはユーリの顔を撫でた。
ユーリは気持ちよさそうに目を瞑っている。
「綺麗好きだから毎日手入れしてやってくれよ」
「ん、わかった」
俺たちは馬車に荷物を載せていると、後ろから小さな足音が聞こえた。
振り返ると、何かを持ったアニスがいた。
「ゆうき、これ、持って、行って」
「なんだこれ…小瓶?」
「うん、中に、私の髪が、入ってるの」
よく見ると、紐のついた透明な小瓶の中には金色の髪の毛が数本入っていた。
「エルフの、お守り。大切な人に、渡すの」
「そっ、か…ありがとな」
大切な人…か。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、頑張って、ね」
俺は首に小瓶をぶら下げ、手を振った。




