寝顔
全話から2週間の時が流れております。
「んー、猫人の特性を生かしたスピード重視のラッシュ。避けるのも受け流すのも大変だ。でもまだ攻撃時の体勢が不十分だな。特にナイフを横に振った後の隙が大きすぎるぞ」
「ううぅぅぅ…あんなに振ったのに何で一回も当たらないにゃぁ…」
「これでも幹部だからな」
身軽な格好のミーナが地面に突っ伏してぼやいている。
早朝、まだ誰もいない訓練場でミーナの戦闘指導をしていた。
いつ侵入者が現れるかわからないので、この城に勤務する者は誰でも週一の戦闘訓練が義務付けられている。
「うぐぐ悔しいにゃああ!」
「そういえば、メイドなんだから別に相手を倒さなくても増援が来るまで持ちこたえるだけでいいんだよな。ってことで次は攻撃を防いで避ける練習でもするか」
「にゃあ!?じょ、冗談じゃねえですにゃ!?ちょ、ちょっと待ってにゃあ!」
「じゃあいくぞー」
「にゃあああ!?」
俺は笑顔のまま竹刀を構えて走り出した。
~~数分後~~
「うん、上出来上出来。疲れてる状態であれだけ受け流せたなら上出来だ」
「あぅうう…スパルタにゃあ…!」
ぜえぜえと息を吐きながら地面に倒れこんだミーナ。
しばらくすると、城の方から小さな影が走ってきていた。
「ゆうき、みーな、ご飯、食べ、よ?」
影の正体は、すっかり元気になったアニスだった。
「うえぇぇんアニスちゃああん!ユウキ様がいじめるにゃああ!」
「いじめてねえよ」
「ゆうき、いじめ、ダメだよ」
「だからいじめてないって…」
アニスはミーナの手を引いて立たせようとしている。
傷は完全に塞がり、全力で走れるくらいには回復している。
寝るときに嫌なことを思い出すから、という理由でまだ俺やミーナと一緒に寝ているが、確実に元気になっていっていると思う。
「シャワー浴びたいにゃ…二人は先に行っててにゃ」
「ん。アニス、行くぞ」
アニスと俺は手をつないで食堂に向かった。
~~夜~~
「わぁ…」
「ふふん、どうだ。触り心地良いだろ」
「うん、きもち、いい♪」
俺の尻尾に抱き着くアニス。
いつも手入れしているから触り心地は最高だ。
もふっ、もふっ、と尻尾に顔を埋めるアニスをなでる。
「そういえば、俺、明日から偵察任務でしばらく居ないから、そのときはミーナの所で寝てくれ」
「うん、わかった。じゃあ、今日は、ゆうきと寝る」
「おう、いいぞ…じゃあちょっと早いけどもう寝るか」
俺たちは布団に入った。
しばらくすると、すやすやと寝息が聞こえてきた。
幸せそうな寝顔で眠っているアニスを見て、安心した。
最初に出会った時の怯えた表情とは比べ物にならないくらい穏やかな顔。
片目をなくし、白い傷跡が目立つその顔。
それでさえも美しいこの顔を傷つけた貴族にはいずれ罰を与えてやる。
俺はアニスの頭を撫で、目を瞑った。




