アニスフィア
進路はほぼ確定したのでただいまです。
しかし、期末考査が今月末辺りにあるので、また一週間くらい休むかもしれません。
楽しみにしてる方々へ。
ごめんに☆
目を覚ました少女に、家族の元に戻れないかもしれないこと、それから、その怪我は二度と治らないということを伝えた。
きっとこの少女は動揺し、泣き叫ぶだろうと身構えていたのだが…
「う、ん…大丈夫…大丈夫、だよ…わかってた、から…心配、しないで…」
「…」
予想に反して、少女は笑顔で答えた。
…この子はきっと優しいのだ。
俺を心配させないように大丈夫なふりをしているのだ。
証拠に、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
俺は何を言ったらいいのかがわからず、
「おいし、かった」
「そうか…おかわりはいるか?」
「ううん、大丈夫」
手術後にしては結構な量を平らげた少女から、皿を受け取る。
「じゃあ、少し話を聞いてもいいか?」
「うん、いい、よ」
~~数十分後~~
「ありがとう…アニスって呼んでもいいか?」
「うん」
アニスフィア・エメリッヒ、12歳。
エルフというだけあって魔法は得意らしい。
一カ月ほど前、人間界と魔界の境目辺りで奴隷商人に捕まり、ラディス国の貴族に買われたらしい。
されたことは…伏せておく。
ラディス国の貴族と言えば、一人だけ思い当たる人物がいる。
何もしないくせに、国王と古くからの仲である、父親の七光りで好き勝手していると、有名な貴族だ。
噂の中には女遊びが激しいだの、酒癖が悪いだの、浪費癖があるだの、いい噂は一つも聞かない。
きっとそいつで間違いがないだろう。
「体が汚れてるな…まだ傷が塞がりきってないから風呂は入れないし…アニス、車いすに乗せるから少し抱えるぞ」
「うん…ねえ、ゆう、き?」
「なんだ?」
「助けて、くれて、ありが、とう」
「…あぁ」
俺はアニスを車いすに座らせ、手術室から出た。
~~数分後~~
丁度昼休憩の時間だし、ミーナとネムがこの部屋にいるのは分かっていたが…
「にゃはは!またまたミーの勝ちだにゃ!」
「うぐぐ…なんでこんなに強いんですか…!」
「何やってんだお前ら…」
クッキーをチップに見立ててトランプで遊んでいたようだ。
「「あ、おかえりなさい!(にゃー!)」」
「何やってんだ…」
「…その子は?」
二人は俺が押している車いすに座った、全身の怪我が目立つ少女を見て、目を見開いている。
~~数分後~~
「奴隷商から救出した一人…なるほどにゃ…」
「ミーナ、まだ傷が塞がりきってなくて風呂に入れないみたいだから、体を拭いてやってくれ。それと、アニスに合う服を見繕ってやってくれ」
「ん、了解にゃ。アニスちゃん、痛いところがあったら言ってにゃ」
俺はミーナが座っていた椅子に座り、新しいカップに紅茶を淹れた。
「人間ってここまで個人差があるんですね。ユウキさんやミーナちゃんはこんなにも優しいのに、それに対して、一人の少女にここまで残酷なことをできる人間もいるんですから…」
「っ…そう、だな…」
「ユウキさん?」
「…ん?どうかしたか?」
「いえ、なにか難しい顔をしていたので…大丈夫ですか?」
ネムは不思議そうにこちらを眺めている。
俺は平常を装って、紅茶に口をつけた。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと考え事をしていただけだ。気にすんな」
「そうですか…ならいいんですけど」
…頼むからそんな信頼しきった顔でこっちを見ないでくれ。
罪悪感で押しつぶされそうになる。
エルフたちは、「一度でも離れてしまったら帰ることはほとんど不可能である」と、大人に言われて育ちます。
アニスちゃんが言っていた「分かっていた」というのはそういう意味です。




