風紀特殊外戦委員会の誘い2
風紀特殊外戦委員会、通称「特戦」の委員会室は一年校舎の一階、職員室と同じ階になっている。ちなみに生徒会室も一階である。
それから四人は一階まで下りていると、九陽 火乃子が階段を上がって来ていた。
そして旭と目が合い、ぱっと笑顔になる。
「あ、旭さん。良かったですわ。探してましたの」
「えっと、九陽 火乃子さんでしたよね?」
「あらっ! そんな他人行儀な言い方、呼び方いけませんわ! 私の事は呼び捨てで構いませんから。同級生なんですもの。タメ口で、ほら、火乃子っとお呼び下さいまし」
少し戸惑い頭をかく旭。
「じゃ、じゃあ、火乃子ちゃんで勘弁して」
どうも火乃子に苦手意識が出来てしまっているようだ。
「あらあらまあまあ。火乃子ちゃんだなんて。良い、良いですわ! ではわたくしも旭ちゃんと呼ばせてもらいますね」
「そ、それはさすがに。ほら僕、男やからせめて君がええな。それかそのまま呼び捨てでもええし」
「あら、そうですか。では旭君で」
少し残念そうな表情になる火乃子であったが、直ぐに表情を笑顔に戻し、旭の腕を掴んだ。
びっくりする旭。
「えっ!?」
「そうです! そんな事よりも大事な事があるのを忘れる所でしたわ! とりあえず着いてきて下さいな!」
腕を掴んだまま、一階へと下りようとするが、そこで声がかかる。
「ちょっと待って欲しいなー、火乃子ちゃん」
日和のその声で、旭以外が居るのに初めて気付いた様に、
「あら、先輩方もいらしゃいましたの。でもごめんなさい。急いでいますので失礼しますわ」
そのまま行こうとする火乃子を止める為、旭の反対の手を自称カレンが掴む。
「生徒会長の火乃子ちゃん? 先輩である私達の方が先に旭君と約束をしてるの。わかる? だからその手を離しなさい」
両手を掴まれ、アワアワとするしかない旭。
「忍、先輩じゃありませんか。こういう事に先輩も後輩も、後も先もありません。先に引きずり込んだ方の勝ちですわ」
「カレンよ! 生徒会長だとしても、後輩。本当、生意気ね」
「まあまあ落ち着いてカレン……。じゃあまだ勝敗は決まっていないてことだね。それにしても生徒会が旭君を狙っていたとは知らなかったなー」
両手を掴まれどうしたもんかと悩む旭の後ろに、日和が近付いていき、旭の肩に触れた。
「わたくしは特戦が旭君を狙っていると知ってはいましたが、先輩方は手が早い」
「美和先生から話を聞いていた時から狙っていたから、早いのは当然。ではどうしようか? このままじゃあ、埒が明かないし、旭君も困ってる。ここはひとつ勝負をしようじゃないか」
火乃子は怪訝な顔になる。
「勝負、ですの?」
ニヤリと日和は笑い、
「そう、勝負……。フェアリーホルダーとしてね」
「フェアリーホルダーとして? 体育館をひとつ借りて先輩と模擬試合でもすると? それではあまりに先輩方が有利、納得行きませんわ」
眉毛を吊り上げ、言い放つ。それを違う違うと日和は否定し、
「旭君と火乃子ちゃんが勝負するんだよ」
旭、火乃子、共に怪訝な表情になる。
「え、え? 日和先輩なんで僕が?」
「そうですわ。なんで旭君とわたくしが勝負する事になるんですの!?」
「ほら、火乃子ちゃん旭君に生徒会だけでなく、自分のクラスにも来て欲しいらしいじゃないか。そこで勝負して、旭君に勝ったら、生徒会、SAクラスに入ってもらうってね」
そこでふむっと考え始める火乃子。旭は納得いかないと日和に目を向ける。
「せ、先輩。僕まだ入るも入らんも、話さえ聞いてないんですけど……」
「うん。君に利益は全然無いね。勝てばウチに入るか、断るかが選べるだけだけど、ほら、ここでSAクラスには行かないってハッキリするし、ひとつ模擬試合してみないか?」
困り顔でうーんと唸る旭。
「はぁー……。分かりました。SAには行く気は無いし、生徒会と特戦? でしたっけ? 入るか入らんかも、話も聞いて無いですから、負けたら、生徒会の話聞いて、勝ったら特戦の話を聞きますわ。でもSA行くのはなー」
いつの間にか旭の両手は解放されていた。そんな旭に耳元に日和は口を近付ける。
「勝てばいいんだよ」
っと、楽しそうに笑っていた。
その頃、火乃子は考えに考えて「わかりましたわ!」っと了承したのであった。
その後、体育館の許可を取り体育館に入ると、何故か美和がおり、旭は嫌な顔になる。
美和以外にも人はおり、恵愛、静華も来ていた。実は二人は生徒会役員。恵愛は副会長で静華は書記であった。
旭はそのまま椿と共に二人のいる方に足を向ける。
「おいおい、耳早いなー」
「そりゃあ、私達生徒会役員だもん」
「あ、そうやったんや。そりゃ早いわな。て事は僕を引きずり込む方やな」
にやっと意地悪を言う。
「う、うぅ……。ごめんね」
静華がその意地悪に反応して泣きそうになったので、焦る旭。
「いっ、いやいや、冗談やから。ほら、マジで泣かんといて」
「やーいやーい、静華泣かせたー」
「もうっ、旭君、静華は冗談きかないんだから、気を付けてよね」
「し、静華、ごめんな」
頭の後ろをかきながら、頭を下げる。
「じょ、冗談なんだ。私、気付けなくてごめんなさい。次は冗談をきいたらボケるから!」
静華のそんなズレた発言に旭と恵愛、椿も笑う。何故笑われているのか分からない静華は顔を赤くしていた。
そしてフィールドの準備が出来たのか、美和が旭を呼んで、中央へ向かっていく。
「あ、旭君頑張って!」
「火乃子さん結構強いけど、旭君なら大丈夫だよ!」
「あさひーん。負けたらSAだかんね。がんば!」
応援を背に声を張り上げた。
「おう! ちょっくら勝ってくるわ!」




