(く+ノ+一+口+十+力=?)2
美和の部屋に着いた三人。少しドキドキとしながら恵愛がベルのボタンを押した。
すると中から、
「はいは~い」
と、美和の声が聞こえ、ドアが開かれた。
「あれ? 恵愛ちゃんに静華ちゃん、それに椿ちゃん? 三人共先生の部屋に来てどうしたの? なにかあった? しかも教科書やノートなんて……あっ! その袋、お菓子とジュースが見えるね~。さては先生とパジャマパーティーな勉強会をしたいと言う事だねっ!? 良いよ良いよっ! 入った入った~っ!」
恵愛が何かを言う前に自己判断自己完結で、三人を部屋に入れて行く美和。
恵愛、静華は戸惑いながら美和の部屋に入れられ、椿は美和の自己判断自己完結な行動や言動に爆笑しながら部屋に引っ張られて入って行く。
美和の部屋に入っると「ちょち待っててね~」そう言いながら折り畳み式の座卓――いわゆるちゃぶ台と言う物である――を取り出して4本の足を立てて真ん中に置く。それは昭和的な完全な丸いちゃぶ台では無く、卵の様な形をしていた。
「はい、皆~遠慮せずに座って座って~」
しかし、恵愛達は勉強会をする為に来た訳では無い。それを恵愛は言おうとしたが、
「いいからまずは座って……ねっ?」
何となくその美和の笑顔に何も言えず恵愛は言われる通りに座る。後の2人も座り教科書類は床に置き、静華が持ってきた飲み物とお菓子をちゃぶ台の上に置いた。
台所でガラス製のコップを四つお盆に載せて、ちゃぶ台に近付き三人の前にコップを置いていく。そして最後に自分のコップを置き、お盆の上に静華が持ってきたお菓子を載せて真ん中に移動させる。
「静華ちゃんありがとう。それじゃあ、お菓子開けるね~」
「あっはい、どうぞ。じゃあ私はジュース入れていきますね」
美和がポテトチップス三種を開けている間に静華はコップにオレンジジュースを入れていく。
そしてジュースを入れ終わると美和は「さてとっ」っと座り、
「でっ? 何か私に話したい事があるんでしょ?」
突然話を切り出されポカーンとしてしまう三人。
「流石にあんな複雑そうな顔してたからね~勉強会では無いと思ってね。後、どんな相談かは分からないし廊下ではとりあえず適当に勉強会って……。それで、私に相談しに来たでいいんだよね?」
そこで恵愛は美和がその相談内容が外に漏れない様にと配慮してくれていた事が分かり、
「……先生、ご配慮ありがとうございます。はい、今日は美和先生に聞きたい事があり、お部屋にお邪魔させてもらいました」
真っ直ぐに目を合わせる恵愛。静華と椿も美和に視線を向け、恵愛の言葉に頷く。
「うん。それで、聞きたい事って旭の事かな?」
一瞬恵愛は驚いたが、自分達が美和に旭抜きでの話となると限られてくる。直ぐに気付いても何ら不思議では無い。
そこでふと何故に私一人が美和先生と話をする感じになっているのだろうかと。静華や椿は先生に質問しないのだろうかと思い見てみると、椿と静華は任せたと言う様に真剣な表情で恵愛に対し深く頷くだけであった。
(あっ、これ、私に丸投げって感じなんだ……ま~良いんだけどね)
それから緊張をほぐそうと恵愛は息を吸い、少し止めてからゆっくりと息を吐き出す。
「はい、旭君の事なのですが……旭君は本当に男の子なんですか?」
その恵愛の言葉に美和は一瞬ではあるが、表情が固まる。
「私の可愛い可愛い妹だよ~」
「あの、そうでは無くてっ……いえ、では旭君は女の子なんですか?」
旭が女の子なのかと聞かれた時、少し表情が変わる。美和は笑っていのだが何かいつもの優しい笑顔では無く、その時の表情は冷たく恵愛達には感じられ背筋が凍る。
「どうしてそんな事を聞くの?」
「えっ、あっ、そ、その……」
恵愛の怯えた表情に、ぱっといつもの笑顔に戻る美和。
「あれ? 恵愛ちゃんどうしたの? そんな怯えた表情して~。ほら、笑顔笑顔」
(先生にとって旭君の性別の話は、あんな冷たい表情になるくらい聞かれたくない事……? 怖い、怖いけど、でも私、ここで引けないっ!)
覚悟を決めた様にまるで睨む様な視線を美和に向け、
「先生っ! あの、その、私は旭君の裸を見てしまいましたっ! それで、旭君の体はどう見ても男の子には見えなくて、もしかしたら女の子なんじゃないかって……。私は旭君とこれからも友達で居たい。私達は美和先生に旭君の本当の性別を聞いて、ちゃんと理解し、助けられる友達になりたいからっ! だからお願いしますっ! 旭君の本当の性別を、教えてくださいっ! お願いしますっ!」
そう言い、ちゃぶ台から少し離れ美和に向けて土下座をする。それを見ていた二人も美和に対し、
「「お願いしますっ!」」
っと、恵愛と同じく土下座をして懇願する。その三人の土下座に美和は唖然となり、突然我慢出来なくなったと言わんばかりに噴き出し腹を抱えて笑い出す。そんな美和の姿に驚いている三人。どうにか笑いを堪え様とする美和だが、なかなか笑いが止まらない。
「くっくっくっく……ごっ、ごめ、ちょ、くっふくっふふふっ……。う~お~お腹痛~い~」
腹を抱えて前に伏せる美和。
少し笑いが治まりはじめ、深呼吸を行い顔をやっと上げる美和。その目は笑い過ぎてか涙が出ていた。
「あ~ごめんね~何だか皆、私を見て怯えた顔で土下座なんてするから、可笑しくてつい笑っちゃった」
手の甲で涙を拭い、
「いや、本当ごめんなさい。怯えさせるつもりは無かったんだけど、どうしても旭の事になると誰に対しても疑心暗鬼になっちゃうのよね~。まさか生徒にまで疑いの目で見るなんて思わなかった……本当、駄目な先生でごめんね」
美和は申し訳なさそうな表情で三人に対し頭を下げる。
目の前で美和が頭を下げている事に三人は恐縮してしまう。
「いえいえっ! その、あの……先生にとって旭君が凄く大切なのは分かっていますからっ! だから大丈夫ですっ!」
「せ、先生、頭上げてよ~。そんなんじゃあたし等どうしたらいいか分かんないし~」
「ぁぅ……ぅぅぅぅ……」
静華だけは何を言えばどうすればと頭が混乱して、目が泳いでいた。
一通り恵愛達の言葉を聞いた美和は手の平を打ち合わして、
「よしっ! 反省終了っ! それでっ? 旭の性別が知りたいんだよね?」
手の平を叩く音にもビックリする三人だが、美和の気持ちの切り替えが早い事にも驚いた。
恵愛も気持ちを切り替え、
「はい。旭君の性別が、いえ、旭君の事が知りたいです」
「そっか、分かった……。それで三人共分かってると思うけど、この事は皆には言わないでね」
「「「はいっ!」」」
そこで一度美和は頷き、
「当然旭にも……ねっ?」
っと、言葉を付け足す。
旭が先程見せた無防備過ぎる姿を思い出し、旭自身は自分の体は男だと信じ込んでおり、本当の事は知らない様だと理解した恵愛は自分達が見た事を説明し始める。
「はい、先生がそう言うなら絶対に旭君にも言いません。それで私達は旭君の裸を見たって言いましたよね? その時に旭君の体には胸があり、そしてその~……静華が見たらしいのですが、男の子の部分も付いていると聞きました。それって一体どう言う事なのでしょう? 静華はふたなり、なんて言ってましたが……」
「あ、恵愛ちゃんっ!? 何かそれじゃあ私はやらしい女の子みたいに聞こえないかな~!?」
恵愛の説明で言っている「静華が見たらしい」や「男の子の部分」「ふたなり」っと、確かに静華は言っていたが、恥ずかしくなってしまった静華は我慢出来ず口出しをする。それに対して椿は静華の肩を叩き、
「大丈夫だってっ! 充分やらしい女の子なんだからっ! ほら自信もってっ!」
「いや、そんな事で自信なんて持てないよっ!?」
その会話を聞いていた美和はうんうんと真面目な顔で頷く。
「静華ちゃんはやらしいのか~。これは意外で何だか素晴らしいねっ!」
美和のその反応に、
「先生までっ!?」
恥ずかしさの余り顔を隠す静華の肩に手を置く恵愛。
「そろそろ落ち着いてくれる? 話が全然進まないからね~?」
「あっ、はい……」
先程の冷たい笑顔の美和とは違った怖さを持つ恵愛の笑顔。その威圧感に静華は瞬時に従うのであった。
「でっ、先生。実際の性別はっ……」
「そうね~、正直この言葉と言うか、病気だと言われてる事が嫌で嫌いなんだけど……旭は所謂、両性具有者なの。だから、静華ちゃんが言っていたふたなりって言葉は間違ってないわ。男の子でも女の子でも無く、正式な病名は真性半陰陽って言うらしいんだけどね……」
何となく分かってはいた。しかし実際に聞き、両性具有って言葉も知っていたが、でも、病気だと言われている事等知らなかった恵愛。静華、椿もどうゆう表情をすればいいか分からない様で、眉間にしわを寄せて俯いていた。
そんな三人を見て、美和は、
「あら~皆、な〜に~? もしかして旭が男の子でも女の子でも無い事は予想してても、その状態を、正式な呼び方を聞いただけで、もうダウンなの? そんな事で友達で本当に居られるのかな~? やっぱり口だけで友達なんて言ってるんだね~。ごめんね~こんな事を覚悟も無い状態で聞かせてしまってね~」
これは美和なりに考え、三人に発破をかけているのだろう。
それを聞いた三人はビクっと背中を一瞬震わせていた。
「いえっ、そんな事は絶対無いですっ! ただ病気と聞かされ、少し驚いただけっ!」
恵愛の強い口調に頷く椿と静華。それを聞き安心した様な表情になる美和。
「そっか、絶対か……。なら、それなら安心だね」
息をひとつ吐いた美和はそれじゃあと、
「少し長くなるけど、旭の事、私自身が旭に抱いている心配事を聞いてくれる?」
その問に力強く頷く三人に笑顔を見せた美和は、少し間を置いて語り始めた。




