九陽学園3
九陽学園――ここは私立の幼少中高大一貫校、幼稚園から大学までエスカレート式の学園である。
この学園を立ち上げたのは、学園の理事長を務める九陽 源次郎。最初は小さな会社であった九陽電気を源次郎の手により、何十年の間に大企業と言われるまでに成長させた。色々な会社を吸収合併して九陽の名を広め大きくし、そして色々な物に手を出した。それは車や家電、パソコン、電子部品etc……。その様に急速に大きくなり、政界や色々な組織にも顔が利くモンスターカンパニーとなっていった。
兄や妹それから源次郎自身、その子供達は全員フェアリーを体に宿すフェアリーホルダーであった。その為、フェアリー関連の研究、開発なども開始する。それから要塞都市東京に本社をうつし、九陽学園を立ち上げ、そこに自分や兄・妹・親戚の子供達などを通わせていた。
金持ちの子供だけではなく、研究に役立てる為、金の無い貧乏な子供であっても珍しいフェアリーホルダーであったのなら、無償で入学する事ができる。そして要塞都市の中でも、トップクラスの学園になっている……。
毎朝の日課であるランニングの際に、寮に近い九陽学園中等部の校舎の外側を1周しながら、旭は中の様子を見ていた。
そして今日がその学園内に入る事が出来る初めての日、入学式兼、始業式。旭が待ちに待った、その日を迎えたのだった。
「やっぱでかいな~。グラウンドもすごい広いけど、ここで戦闘とかの訓練するん?」
隣にいる静華に顔を向ける。
「グラウンドでは滅多にしないかな。大体は特殊な体育館があって、そこではチームでの模擬戦闘や、1体1での試合なんかもするんだよ」
「おお! 皆と戦えるんや。それは楽しみやわ」
学園の門の前には入学式と書かれた立て看板があり、その奥には自動改札機の様な物があり、九陽学園の生徒達が近ずくと、上に設置されている電光掲示板にまるが表示され、改札機のドアが開かれる。その近くには警備員が立っていて、生徒達に「おはようございます」と挨拶をしていた。
「あのよう分からんへん改札機みたいなヤツ、なんか怖いから皆の後ろからついて行くわ」
「ひひっ、そんな怯えなくても大丈夫だよ。旭もちゃんとリミッターがあるんだからっ!」
椿は旭の背中を力強く手で押した。
押された旭はそのまま改札機の方に向かっていき、改札機のドアに当たって前に倒れそうになるが踏ん張る。しかし、上の電光掲示板がまるを表示され、ドアが開いた事により、旭は倒れた。
恥ずかしさの余り、顔を真っ赤にしている旭は、直ぐに立ち上がった。
「ちょ、君っ!」
旭が突っ込んで行くのを見ていた警備員が急いで旭に近ずいてくる。
「なにしてるの! 大丈夫!? 怪我は無いかい!?」
「あ、はい、大丈夫です……」
警備員は旭に怪我が無い事を確認すると、安堵のため息を吐いた。
「ダメだよ君っ! あんな事して、もし取り返しのつかない怪我でもしたらどうするの!」
ショボンと申し訳なさそうに旭は、頭を下げる。
「すいませんでした……。迷惑かけて本当にごめんなさいです」
「もう、あんな危ない事しちゃあダメだよ? もういいから、次はしないでね」
「はい、分かりました。本当にすいません。ありがとうございました」
警備員は笑顔で「それじゃあ気をつけてね」っと、手を振りながら戻っていく。
旭は中に入って行き、隠れ、椿達を待ち構える。
その後直ぐに、椿、恵愛、静華が入って来たのを確認。
「お、お~い、旭さん。あの、やり過ぎたし、謝るから出てきてほしいな~なんて……」
後ろから近づき、椿に気づかれない様にゆっくりと背後に立って、両肩をしっかりと掴んだ。
「そうやんな~……あれは流石にやり過ぎやと思うわ~。な~椿さん?」
引きつった笑顔で振り返る椿。旭も笑顔だが、目が笑っていなかった。
「あ、あの~旭さん?」
「ん~? 何かな~椿さん?」
「もしかして、すごく怒ってたりする?」
口の端を吊り上げ笑う旭は、椿の体を自分の方に向かせ、肩にあった両手を首の方にもっていく。
「うん、そりゃ怒るわなっ!」
椿の首を絞め、ガクガクと揺らす。
「ご、ごめん。旭さん本当にすいませんでした~! やり過ぎました。マジで許して~!」
首を絞められながらも旭の前で手を合わせ、必死に謝る椿。それを見て首を絞めるのをやめ、肩に手を戻した。
「はぁ~まあええけどな。でも、次はないで~?」
コクコクと頷く椿に、
「よしっ! そんじゃ~許す」
と背中を1度叩き、笑顔になる。
「ううっ……刑務官さん、長い間お世話になりました」
「うむ。もう此処には来るんじゃないぞ!」
嘘泣きをしながら頭を下げる椿に、肩を軽くポンっと叩く旭。
すると、全員一斉に噴き出し笑い出す。
「何故か急にコントが始まったんだけど」
「長い間って刑務所に入ってた設定なの?」
そして四人は楽しそうに学園のホールに向かった。
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九陽学園のホールには、もう在校生が集まっていた。
このホールは収容人数二千人位入れる大きなホールで、一階と二階に分かれており、二階と一階の後ろが在校生で、一階の前の方が新入生が座り、保護者はその後に座る事になっていた。
「ここにきて何度も思ってまうけど、何処も彼処も大き過ぎやろ。この学園金使い過ぎ! 金持ちか!」
「この学園の理事長とか超金持ちだしね。あと、ここに通う生徒も金持ちの子多いよ。まーあたしは普通の家の子だけどね」
「Sクラスは皆、普通の家の子だよね。旭君は普通の家ではないけど」
「あー普通ではないわな。家が道場ってのも、なかなか無いやろし」
二階席の前の方の席が空いていたので、旭達四人は並んで座り、入学式兼始業式が始まるのを待った。
それから時計の針が九時三十分を指した頃、壇上に上がった司会者の男性が入学式の開始を宣言する。すると音楽が流れ出し、新入生らしき生徒達が一階ホールに二列に並んで入ってきた。新入生達は教師の指示に従い、席に座っていく。
「フェアリーの事とかまだ全然知らへんし、僕も新入生としてあそこに居るべきやろか?」
「って、なんでやねん! 二年生が彼処に居たら場違い感半端ないし!」
ケラケラ笑う椿は旭の腹と後頭部を同時に叩き、ツッコミをいれた。
旭も「それは確かに!」などと言いながら椿の背中を何度も叩いて、笑っていた。
それに対して恵愛は真剣な顔で、
「何言ってるのっ! せっかく仲良くなれたのに学年が違う様になるなんて私は嫌だからね!」
その言葉に静華も上下に大きく頷いた。
「うおっと。真面目に返され、その内容が嬉し恥ずかしいですねっ!」
恵愛は無言で横腹を強めに突く。突かれた旭はぐふっっと横腹を押さえながら、恵愛、静華に謝った。
「いや~ごめんごめん。真面目に返されるとは思わへんかったから」
「冗談でもそんな事言ったらだめなんだからねっ!」
まさにプンプンと擬音がつきそうに頬を膨らませ、怒る恵愛を見て、どうしても笑ってしまう旭。その横で椿は爆笑し、静華も笑いそうになっていた。
そんな三人の反応を見て、恵愛も「ほんとにも~」と苦笑した。
新入生が座り終え、司会者は「国歌斉唱、皆様ご起立願います」と立つことを促し、日本の国歌、君が代の音楽が流れだした。
ホール会場に居るほとんどの人達が立ち上がり、旭達も立ち上がった。
旭は君が代を歌おうとしたようだが、歌詞をあまり覚えていないようで、口パクでやり過ごす。椿も旭と同じく口パクをしていた。
国歌斉唱が終わると姉の美和が壇上に上がり、新入生ひとりひとりの名前を読み上げ、入学の許可を宣言していく。
その姿を見て、
(ほんまに先生やってるんやな)
と、少し感心する旭。
新入生の名前は全て呼び終えたようで、美和は次に新入生代表の名前を呼んだ。
『それでは新入生代表の挨拶。九陽 陽凛さん、前に出てきてください』
その美和の呼びかけに、
「はい」
と応える声がホール会場全体に響いた。
少女の髪色は鮮やかなオレンジ色をしており、セミロング位の髪を束ね結んだ髪型、ポニーテールであった。
そのまま立ち上がり壇上に向かう。
そしてマイクを掴んで、一度頭を下げてから新入生代表としての挨拶を始めた。
『宣誓……』
前を向き、真剣な表情で一つ一つの言葉を紡いでいく。
『春うららかな日に恵まれ、私達はこの九陽学園中等部の門を潜る事が出来ました。
その今日という日の為に、この様な立派な入学式を行って下さり、私達は感謝と喜びを感じています。
そして、この日に集まって頂いた家族や在校生の方々、九陽学園関係者の皆様、本当にありがとうございます。
私はこれから始まる学園生活に心踊らせ、今、私の目の前に居る同級生や先輩、教師の方達と過ごす3年間をより良いものとする為に、心にゆとりを持ち、人に優しく、勉強に励み頑張って行く事、それだけでは無く、色々な事に挑戦し、楽しく思い出に残る様な日々を皆様と過ごしたいと思っています。
学園長や各先生方。そして上級生の先輩達に恥じぬ様、立派な九陽学園の生徒となれる様に努力する事を、ここに誓います。
入学式、新入生代表、九陽 陽凛……』
新入生代表の挨拶が終わり、ホール会場は拍手で包まれた。
「ようあんなに喋れんな~。考えて書いた紙を暗記したんやろうけど、僕には無理やな。それより九陽って言ってたけど、もしかしてこの学園の関係者なん?」
「多分ね。二年生で生徒会長の九陽 火乃子さんて子が居るんだけど、理事長の娘なんだって。だからあの新入生も娘さんかもね」
旭の問いに椿が答える。
「へぇ~同級生にも居るんや。しかも生徒会長なんやな~。あ、もしかして、生徒会長とか新入生代表って九陽学園の理事長の娘やからとか!? それよりも、おもろい名前やなっ!」
その言葉を訂正する様に恵愛は、
「確かに理事長の娘だし、私達の入学式でも火乃子さんは新入生代表だったけど、あの人実際に成績トップだったから選ばれたんだと思うよ。それより名前面白いとか失礼だよ、旭君っ!」
恵愛に叱られ、確かに失礼だと思い、
「そらそうやな。確かに失礼やった。顔知らへんけど、火乃子さんごめんなさい」
目をつむり、合掌する様に謝る旭に椿は、
「なんかその謝り方も失礼な気がするよ」
と、笑っていた。




