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日々戦争に明け暮れる世界をクリアする為に、一ヶ月の修行を終えた俺は人々を導く”王”として更なる戦いに身を投じることになりました  作者: ふくあき


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第八章 王とは 1話目

「一体どこがどうしてこうなったんだ……」


 娯楽都市アルカディアに存在するとある高級ホテル。ここではVIPクラスの人物しか宿泊ができない程の高級ホテルで、一泊するだけで家一軒分の宿泊料になるとまで言われていた。

 そんなホテルのロビーにシロやラスト、そしてアイゼとともに足を踏み入れながら、ジョージは困惑しながら独り言を呟いていた。


 ――全五試合、三勝二敗によって勝ち越しを決めたジョージ達は、予定通り拳王との謁見の約束を取り付けることができた。

 多少渋られることも覚悟のうえで、仲間鬱で一番駆け引きが得意なシロが交渉役を買って出ることになり、そうして不戦協定について交渉を重ねていたところ、話が本筋からずれて初代刀王についての話題が大半を占めるようになったという。


「挙句の果てには直接話をしたいと言い出すとか――」

「仕方ありませんよ。向こうが会わせてくれれば不戦協定を結ぶと言っているのですから」

「しかしだな……」


 この時点で、ジョージの頭には悪い予感しか浮かび上がっていなかった。

 相手はコロシアムにサプライズ出場するほどに戦いを好む男。そしてそんな男がいる前で、ジョージはコロシアムのチャンプであるゲーヴァルトを圧倒する実力を見せつけてしまった。


「もう少し苦戦して見せれば良かったか……」

「多分そんなこと関係ないと思いますよ。向こうは初代刀王だからこそ気になっていたという様子でしたから」


 初代刀王――それはこの世界ゲームにおいて、かつて存在していた最強の侍が持つ称号。それが何の奇跡かこうして目の前に現れ、格の違う実力を見せつけている。

 百年経とうがその実力は変わらないと言わんばかりに見せつけたスキルの数々、拳王からすれば最高級の娼婦(コールガール)に誘われているようなものであっただろう。


「しかしながら主様一人だけで会うなんて……これで二度目ですが、不安でしかありません」

「そうですよ! 愛剣の私ですら、帯刀を許されないなんて!」

()()? ()()の間違いではなくて?」


 互いの余計な一言を皮切りに喚き合う二人のことなど放っておきつつ、ジョージはシロと改めて現状の確認を行った。


「とにかく、俺が一対一で話をすればいいんだろ?」

「そうですね。ですが、くれぐれもご用心された方が良いかと」

「最悪その場で腕試しとか言われてもおかしくないからな」


 腰元の刀は持っている中でも最強のものへと既に挿げ替えてある。


「そういえば、以前にお話ししていた時間を凍結させる刀ですが、実際に見ると凄まじい力ですね」

「ああ、こいつか」


 ジョージが左手の親指で腰元にある刀の鍔を少しだけずらして刀身を見せれば、そこには決して溶けることのない純氷じゅんぴょうで生成された刃を覗き見ることができる。


 ――数あるダンジョンの中でも一番の極寒地獄ともされる場所、ヴァーミリオン・ヘル。その最奥にて手に入れた獄刀“摩訶鉢特摩まかはどま”。抜刀し地面に突き刺せば時すらも凍結させる叛逆地獄コキュートスを展開させ、実戦で敵を斬れば決して癒えることのない凍傷デバフを負わせることができるという最強格の一振り。


「それと空間断裂さえあれば、敵軍丸ごと容易く殲滅できるでしょうね」

「チャンピオンベルトのような、最上級のデバフ無効化装備には効かない時があるみたいだがな」

「おや? 効かない、というよりTPをケチった結果デバフレベルの問題で無効化されたように見えましたが」


 この時のシロの発言に対し、ジョージは一瞬目を丸くした。そしてフードの奥で苦笑いしながら、ばつが悪そうに事実を語る。


「バレたか。あんまりあんたの前で力をひけらかすと、またすごい勢いで先を越されるからな」

「その点なら、アイゼという自律起動の武器を見た時点で相当に炊きつけられましたから心配なく」


 シロはこの世界においてもっともゲームをやり込んでいる人間の内の一人に数えられるほどの実力のあるプレイヤーで、悪名も含めて名の売れた存在でもある。

 かつてはジョージともう一人のプレイヤーの三人で“無礼奴ブレイド”という少人数ギルドを組んでいた時期もあり、当時は卑怯と言われようが何であろうが、チートでない限りありとあらゆる手段でPVPを制してきたという経歴を持っていた。

 そして彼は王と名のつく称号を持ってはいないものの、その実力は王と同等以上だとして、一部のプレイヤーからは“無冠の王”と恐れられている。

 そんな彼であるが、武器収集マニアという一面もあり、彼が回収した固有レアの剣は噂によれば全体の5%もあるのだという。


「聖剣五人衆、ボクとしては非常に垂涎ものですが――」

「あいつらはソーサクラフの要だ。そのままにしておいた方が良い」

「分かっていますとも。ですがいずれ会う機会があった際に、一本くらいはヘッドハンティングしたいものです」

「マジでやめておけ……」


 あまり冗談を言うようなタイプではないことからジョージは改めて忠告するが、シロはニコニコとしたまま返事を返すことはなかった。


「さて、そろそろ時間なので向かってもらいましょうか」

「おい、聖剣五人衆の件は本気だからな」

「分かっていますって。そう念を押さなくても」


 このまま剣マニアの下にアイゼを置いておくことはどうなのかと思いながらも、話を耳にしていたアイゼから既にドン引きされているところから、ヘッドハンティングなど無理だと想像できる。


「とりあえず、一時間だ。一時間経っても俺が戻ってこなかったら――」

「その時は全員で突入するのでご安心を」


 いざという時の確認を取り終え、ジョージは一人ロビーの奥へと歩みを進める。


「……必ず戻ってきてください、主様」


 ラストの声に返事を返すことはなかったが、ジョージは背中を向けたまま、片手を挙げて奥へと消えていったのだった。

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