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日々戦争に明け暮れる世界をクリアする為に、一ヶ月の修行を終えた俺は人々を導く”王”として更なる戦いに身を投じることになりました  作者: ふくあき


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第七章 闘王対刀王 4話目

「――一体、どういうことだぁあああッ!?」

「意味が分からねぇっ! 人の形をした剣ってことか!?」

「それよりも、導王がどうとかって言ってなかったか!? あいつらソーサクラフとのコネを既に持ってるのかよ!」

「それより愛人って……侍なだけに、剣が恋人ってことか……?」


 周囲の騒然とする声に支配される中、アイゼはしてやったりといった様子でフフンと鼻息を鳴らす。


「……ったく、面倒事を増やしやがって」


 反応できなかったかと言われればできなかった訳ではない。ただ振り返って刃で防ぐよりも、アイゼが背中の鞘から飛び出す方が早いが故に、対応を任せていたに過ぎない。


(……まったくもって、忌々しいぜ)


 かたや己が拳ひとつで戦い、かたや自立的に動く剣を用いての二対一を強いてくる。勝ちに貪欲なのはお互い様とはいえ、反則ともいえるような手ですら躊躇なく使ってくる相手を前にして、ゲーヴァルトは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


(こちとらチャンピオンとしてのクリーンな戦いを望まれていて、その上でプライドを捨ててこんな砂かけでの目つぶしみてぇな下策を取ってるってのに、そっちは平然と二対一かよ)

「卑怯も度が過ぎると呆れ返るぜ……」

「卑怯? 互いの生き残りを戦いに卑怯も何もないと思うが」


 そう言ってアイゼを引っ込める様子など微塵も見せることなく、継戦の意思をジョージは示す。


「けっ、結局は卑怯な手でも使うのがお前らの――」

「卑怯で何が悪い?」


 その言葉は、誰が聞いたとしても開き直りにしか聞こえない文言だった。


「なっ――」

「言ったはずだ。生き残りをかけた戦いに卑怯など存在しない、と」


 そしてジョージが組してきた中で一番長い期間籍を置いていたギルドでは、それは常識扱いとなっている。


「なっ、これはあくまで試合だぞ!? そこにルールがあって――」

「ルールなら守っている。それともアレか? このままだと勝てないから勘弁してくれって八百長申し込みたいのか?」


 ジョージとしては、呆れ返るしかなかった。まさか二対一になった程度で頓挫するような戦い方しか考えついていないとは思っていなかったからだ。


「だから! いくら生きた剣だからって二対一は――」

「たかが二対一くらいでこうもごねられるとは……もういい」

(これ以上こいつと戦っても、実践的な闘士(ファイター)として固有のスキルは見られそうにない。その上、こっちの手札もこれ以上キリエに見せる必要もない)


 これ以上戦ったところで特に面白そうなスキルを引き出せないと思ったジョージは、腰元の刀の柄に手を添え始める。


「えぇー、ジョージ様、私とのラブラブ二刀流の件は――」

()()二刀流まで見せる必要はない。すぐに終わる」


 抜刀法・終式――


「――断罪」

「なっ――」


 すり抜けざまに、斜めの袈裟斬り。本来であれば真っ二つとなっているところであったが、コロシアムの特性上、LPが0になるだけで済んでいる。

 しかし斬られたダメージはそのままに伝わるため、ゲーヴァルトはまるで一刀両断された感覚を味わいながら、その場に膝を折って倒れていく。


「……おい、MC」

「なっ、は、はい!?」

「決着だぞ」


 そこでようやく頭上に映る投影魔法の表示に気が付いたのか、MCは戸惑いを隠せないままではあるものの、この場に大きな声で決着の一言を告げる。


「けっ、決着ゥウウウウッ!? なななんと、我らがチャンピオンが、たった二回の攻撃によりダウンとなったァアアアアッ!?」


 ――一拍置いて、観客席からありとあらゆる声が挙がってくる。


「チャンピオンが負けるなんて信じられない!!」

「闘王対刀王が、こんなにあっさり決着がついちまうなんて……」


 その場に様々な声を残しながらも、ジョージは静かにコロシアムの入退場口へと踵を返して去っていく。


「……主様」

「ラストか」


 途中交代の結果自動回復の対象外となったために多少のダメージは負ったままでいるものの、ラストは主であるジョージを迎えるべく、退場口近くに立っていた。


「この度は申し訳ございません、せっかくのチャンスを――」

「いや、別にこの程度構わない。それよりも良かったじゃないか。いい経験を積めた」

「経験……?」


 それは普段からジョージが言っている経験値、という具体的な数字の事なのかとラストは考えていた。しかしこの時のジョージが言った経験とは、そうした数値的なものではなかった。


「お前の得意とするデバフが通じない相手との戦い、これから先もあり得ることだ」

「はい……」

「それをここで経験できたんだ。戦い方を考えることができる」

「……それってつまり――」

「ああ。お前の成長に繋がるってことだ」

「――っ!」


 ラストはこの時、二つの意味で安堵した。一つは負けてはならぬと咎められるのではないのだと、自分の存在意義が否定されたのではないのだと。

 そしてもう一つは、自分でも成長の余地があると、ジョージから言われたこと。


「とはいえ、次に似たような相手と同じ戦い方をしたら負けるのは確実だ。今日の戦いを糧にして、上手く考えてみろ」

「はっ! このラスト、必ずや成長し、主様と共に戦えるようこれからも精進してまいります!」


 その言葉が聞けたのならよし、と、ジョージは微笑を浮かべ、そしてコロシアムを後にする。

 そしてその背を追うようにラストもまた、コロシアムを後にしたのだった。

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