第七章 闘王対刀王 3話目
最近体調がすぐれず土日更新がままならず申し訳ありません。(´・ω・`)
週一だけは何とかキープしつつ体調を戻して頑張ります。(´・ω・`)
「なっ何が起こったのかMCの私も解説ができませんが、そんな無知な我々をよそに、戦いは最終局面へ!!」
(外野ですら理解できてねぇか……当然か。実際に相対した俺ですらこのザマだからな)
自動回復によって与えられた復帰時間で様々な考えを巡らせるも、いずれも目の前の相手に決定打を与えられそうにもないと、ゲーヴァルトは後悔した。
(よくよく考えれば、挑発に乗らずに粛々と試合を終わらせればよかっただけの話だ。あそこでああまでけしかけてくる時点で、そして第一ラウンドのみとはいえ試合展開を見る機会があったことも含めて、俺を値踏みするには十分だったって分かっていた筈なのに)
「クソが……今更になって嵌められたって分かっちまったことにイラつくぜ……」
「詰んでいると思うなら負けを認めるのも一つだぞ? 実力差も分からずにこの後も無様な醜態を晒すよりも、ここで素直に退いた方が後々の評判へのダメージも少ない」
「けっ、それでハイそうですかって頷くような人間ならこんな取り返しのつかないことにならなかっただろうよ」
「まあ、そうだろうな」
ここまで全てが予定通りと言わないものの、現状はジョージの手のひらの上で無様に踊っているに過ぎない。とはいえこのまま戦ったところで再び負けるのは目に見えている。
(せめて一矢報いたところだけでも観客に見せておきたいところだが……)
このままストレート負けとなってしまえば、闘王の名誉は地に落ちるだろう。それだけは避けたい。
(それに目の前のこいつは言いやがった……俺がこの“狭い戦場”だけでの存在だと)
ジョージ自身がこの広いゲームの世界で戦ってきたからこそ、自分に対してはコロシアムという狭い場所でしか粋がれない存在だと言い放った。井の中の蛙だと決めつけてきた。
(俺がこの場所に立つのにどれだけの事をやってきたのか、こいつは何もわかってねぇ!!)
現に裏で“始末”しておいた蹴王の経験値で自身のレベルが直前で上がっていることなど、誰も知らないだろう。あるいは、既に闘王という称号だけで情報をそれ以上得ることなく、勝手に各々で強さを決めてつけているのだろう。それは観客も、目の前の侍も何も変わらない。
「一ラウンド取った程度で、好き勝手決めつけやがって……」
「ほう、あれだけ無様な負け方をしておいて、まだ向かってくる気があるとはな。それが“チャンピオンとしての矜持”か?」
「ああ……そうだよ……!」
「まっ……まだ負けてねぇ!! 頑張れチャンプ!!」
「いや、どう考えてもあの負け方は尋常じゃないだろ。流石の無敗伝説も、ここまでか……」
二人の間では試合続行の雰囲気、しかし観客の間ではゲーヴァルトの勝利に賛否両論。否、正確には否定の声が上回りつつある。
(どいつもこいつも……俺が魅せプをやめたらとどうなるか、教えてやる……!)
そうして構えを取って次のラウンド開始の合図を待つ男を前にして、ジョージの背中から耳打ちするかのように女性の声が小さく聞こえてくる。
「――ジョージ様、警戒を。この男、何をしてくるかわかりません」
「ああ、分かっている」
(こいつ、どうやらチャンピオンとしてのプライドを捨てたか……ここからが台本無しの本番という訳だ)
コロシアムのような“魅せる”戦いとは違う、純粋な闘争を目的とした、敵意で固められた気迫がジョージに向けられる。しかしそれだけでジョージの装備が元に戻ることなどない。
(所詮は体力がゼロになったところで気絶で済まされる世界。まともなPVPの場に立ったこともなさそうなこいつが出す敵意なんてこの程度――)
――しかしその考えを、開始一秒でジョージは撤回することになる。
「ラウンドワン、ファイッッ!!」
「グリットロスト!!」
バウッ!! という音とともに大きく蹴り上げられる砂。それは今までのゲーヴァルトの戦い方を知る者からすれば、初めて見るダーティプレイだった。
「くっ!」
(砂埃による視界不良のデバフ……しかしこれだけの規模だと相手も――ハッ!)
「奴はデバフ無効だったか!」
使うつもりが一切なかった阿頼耶識を即座に発動、砂埃の中に潜むゲーヴァルトを追う。しかしジョージの前方からは既に姿が消え、察知できたのは自身の背後。
(さっきの返しだ、倒れるがいい!!)
強化スキルが乗せられた手刀で後頚部を狙い、一撃で意識を落とそうとしたゲーヴァルトだったが――
「なにっ!?」
剣圧、あるいは拳圧か。いずれにしろ強烈な一撃のぶつかり合いによって、一瞬で視界が晴れていく。
「まっ、まさか今度はチャンピオンが――って、違う!?」
「っ、お前!! 卑怯にもほどがあるだろ!?」
観客が見たのは挑戦者が倒れた姿――ではなく、驚愕を浮かべるゲーヴァルトの手刀による一撃を、剥き身のブロードソードで制する純白の女性騎士の姿。そしてそれと背中合わせに堂々と立つ侍の姿。
「にっ、二対一ィー!? 今度こそ失格――」
「はき違えるな。こいつはこんななりでも立派な“剣”だ」
「……それは少々ズルが過ぎますよ、ジョージさん」
モニター越しに剣だと主張するジョージを前にして、シロは少しばかり悔しそうな表情を浮かべて、その剣の定義について口にする。
「ボクが持っている“報復者”の完全上位互換。そしてあれこそが正しい意味での“知性を持った武器”――」
二対一ではなく、一対一。ただし相手が持つ武器は、意思を持っている。
「っ、くそっ!!」
手刀を防がれ、なおかつ唐突な二対一を強いられる状況となったゲーヴァルトは、即座に後ろに下がって二人の様子を伺う。
そしてそんなゲーヴァルトを前にしてまずは守り切ったことの高揚感からか、騎士は高らかに名乗りをあげる。
「私こそ! “導王”が懐刀であり――」
「――ッ!? おい、ちょっとま――」
「かつ我が主、ジョージ様の寵愛を受ける愛人の一人!!」
「いやだから、待て! 名乗りをあげてもいいが導王はまずい!」
余計な情報と騎士の主観的な願望が入り混じった口上が、コロシアムに響き渡る。
「――聖剣五人衆が一人! “希望”のアイゼ、ここに推参!」
「……あぁー……もう滅茶苦茶だ、こいつ……」
やりたい放題、やりやがった――




