第七章 闘王対刀王 1話目
「――失格失格しっかぁああああくッ!! これは重大な違反となります!! “殲滅し引き裂く剱”、ここにきてなんと! 出場選手ではないプレイヤーが乱入しているぅッ!!」
「主様!?」
ラストとの間に割って入る一人の男。ロングコートに身を包むその背中は、ラストが一番よく知る人物の背中だった。
「おい! ふざけんな!」
「観客席巻き込んでやりたい放題した挙句、今度はルール無視かよ!!」
「……だ、そうだが? お前らの反則負けで、この試合は終わりだ」
場内にはヤジが飛び交い、その全てがたった今戦いに割って入った侍の方へと向けられている。
しかしジョージはフードの奥に表情を隠したまま、正確には軽くあしらうように鼻で笑うかのようにしながら、ゲーヴァルトの言葉に返事を返す。
「フン、そうだな……」
ぶんどるように刀を取り返しながら、ジョージはラストを自身の後ろに隠す様に立ち回る。
「お前もこのまま勝ちという事で満足か?」
「っ!? ……いや、納得はするが、満足はしねぇな」
(こいつ、俺が握っていたというのに簡単に外して持っていきやがった!?)
ゲーヴァルトの筋力評価は最高クラスを意味するSSS評価。そんな男の手に握られた刀を、目の前の侍は力負けするどころかもぎ取ることができている。
(あり得ねぇ!? こいつが持っている刀、そして刀王とほざいていたMCのくちぶりからして、間違いなくこいつの職業は侍、まず俺に力で上回ることなんてあり得ねぇ!)
職業ごとに、大まかなステータスの割り振りは決まっている。そのセオリーで行けば、侍に必要なのは器用さであり筋力ではない。
「……おい! MC! 試合は終わりだ! 決着の合図を――」
「逃げるのか? “闘王”が、“初代刀王”を前にして、戦いから背を向けると?」
わざとあきれ顔を浮かべ、そしてMCの方を振り向くゲーヴァルトの背中に向けて、ジョージは挑発の言葉を並べる。
ジョージ自身が持つ最大の称号――それは今作の前身にあたる前作、『キングダム・ルール』におけるひとつの到達点であり、王位。
初代刀王――かつて王位に就いていたこともあるジョージだからこそ、現在王の座に就いている者のプライド、そして恐れを知っている。
「確かに俺は前作からずっとこの世界の殺し合いや戦争において一切の“負け無し”で生きている。お前も本来なら、そんな無敗の人間と戦って闘王の座に箔を付けたいところだろう。だがお前もこのコロシアムという“狭い戦場”ではあるものの王位に就く者。こんな雑な乱入で土をつけるのも癪だという気持ちもわからなくはない」
いくつもの戦争に参加し、ルール無用の戦いの中を生き延びて、ジョージは刀王という座を手にした。そして前作のゲームクリアという形で王位を返還した今、誰も手を出すことが出来ない初代という誉を、無敗というオマケ付きで背中に背負っている。
片や今作にてようやく手に入れた王座。それもコロシアムの大会にて手に入れることが出来る王座。ナックベアでしか通用しない王位を誇らしく背負うゲーヴァルトの姿は、ジョージにとってはそれだけで嘲笑に値するものの様子。
「……何が言いたい?」
「いや、何でも。ただ、王位は王位。そうやって無謀な戦いを避けて、座を守るのも一つの考えだと思ったのでな――」
ドン!! という音とともに、コロシアムの壁に新たに大きなヒビが走る。
その時に観客が目にしたのは、ジョージの横すれすれをかすらせた前蹴りで、壁を大きくへこませるゲーヴァルトの姿だった。
「……上等じゃねぇか。戦術魔物が戦術魔物なら、その主もカスって訳だ」
「クズもカスも、散々耳にしてきた言葉だ。ただしどいつもこいつも、俺に消されて言った記憶を失くしているだろうが」
「面白れぇよあんた。じゃあ俺が最初の記憶者だってことだ!!」
軽快なバックステップでその場から下がり、試合開始の初期位置に立ってゲーヴァルトは構えを取る。
「面白れぇ! スペシャルマッチといこうじゃねぇか!!」
「いや、ラストの試合の続きからでいい」
「あぁん?」
「主様!」
「下がって休んでいろ、ラスト。反省会なら後だ」
「っ……承知、いたしました……」
この場から引き下がり、コロシアムから退場するラストを見送ったジョージは、あくまでこれは拳王との謁見をかけた勝負だという事を強調する。それを成立させるためにも、差し当たって現状を整理するべく状況を説明する。
「お前は俺と戦うと言った。だが俺はあくまでこれはラストから引き継いだ試合という事にしたい」
「なっ、聞いてれば好き放題言いやがって――」
「第一ラウンド、お前にくれてやる」
「なっ!?」
「それにオマケだ。ここから先のラウンド、お前がかすり傷でも俺にダメージを与えることが出来たら、そのラウンドはお前の勝ちにして構わない」
「なっ――」
「何という事だぁー!? こ、ここまで闘王を馬鹿にした条件提示は聞いたことがないぞぉーっ!?」
二ラウンド先取による勝利条件はそのまま。ジョージは既に一ラウンド取られた状態で、更に次ほんの少しでも体力ゲージが減った時点で負けを認めると宣言した。
「……とことん舐めやがって……! 刀王ってのはそんなに凄い称号だって言いてぇのか!!」
ゲーヴァルトが構えを取る。それも今までラストには見せなかった、超攻撃的な前傾姿勢。
肉食動物を彷彿とさせるその構えを見たMCは、今の条件でゲーヴァルトが了承したとして、試合再開の為の仕切り直しを図り始める。
「と、とにかく! 試合再開という事で!! ラウンドツゥーッ!!」
「王位の座の凄さぐらい、獲った俺が一番よく分かっている!!」
「王座? いや、ちょっと違うな。俺が言いたいのは――」
「ファイッッッ!!」
――王位の“重み”だ。




