第六章 追い詰められた者 2話目
「――ついに、ついに最終戦までもつれ込む展開となってしまいました!! F・F・Fッ! 最後の決戦を戦うのは、この二人だぁあああッ!!」
「最終戦、か……」
周りが最高潮に盛り上がっていく最中、クロウは自チーム側としてはあまり望んでいなかった展開と言わんばかりの深いため息を吐く。
「事前に話を聞いていたとはいえ、相手の出方次第では本当にこの試合を落としかねないぞ」
「残念ながら、誰が出たとしても貴方がたには勝ち目はないかと」
「何だと?」
隣の修行僧はこれまでにないほどの自信たっぷりといった様子で、拳王側の勝利を確信するかのような発言をする。
「ここまで一切顔を出していない……あの方がこのまま、この最高の場を出場辞退という形で逃すはずがない」
「一体何を言っているんだ……?」
「フフフ……ご覧になられていれば、すぐにわかりますよ」
修行僧の言葉に促されるまま、クロウはいまだ誰も入場していない空のコロシアムへと視線を向ける。
「まさかまさかの最終戦! そして我々全員は知っている! “あの男”がまだ、姿を現していないことに!!」
「そうだそうだー!!」
「あのお方が出場しない試合なんて、意味がないわぁー!」
「あのお方……?」
「ほぇー! 一体誰が出てくるッスかねぇ!?」
反応からしてイマミマイも知らないといった様子――否、クロウがいる手前、わざと知らないふりをしている様にも伺える。
「誰って……知ってるんだろ! 今すぐ教えろ!」
「駄目ッスよー! この試合、あくまでお互いに出場選手を伏せたままにしているってのに、そんな無粋な真似できないッス!」
「くそっ、変なところでエンターテイナーぶりやがって……」
拳王を超えるサプライズ――そんなものなど、ありえない。存在する筈がない。
しかし現にこの熱狂ぶり、想定外の拳王登場の時と同等か、それ以上の熱気がこの場に渦巻いている。
「それでは登場していただきましょう!! 我らが“闘王”!! ゲーヴァルト様の登場だァアアアアッ!!」
「なっ!?」
(――“闘王”だと!?)
「さあさあ、俺様の独壇場にようこそ!!」
高身長に搭載された筋肉。格闘家としてそれは理想的な体系そのもの。そしてまるでプロレスラーのように観客を煽りつつも、決してそれがハッタリではないことを、その身に纏うオーラが、王位が示している。
「トウ……オウ……だと……!?」
「その呼び方は、別にベヨシュタットだけの特権という訳ではないですよ」
(となると……まずい! 非常にまずい! もしその意味が刀王と同格のものだとするなら、同じ同格をぶつけないと勝てない!)
そしてMCによって対面となる相手の紹介が行われ、事前に聞いていた通りの名前がクロウの耳に届けられる。
「対するは世界最強の魔物とされる“七つの大罪”が一人!! 色欲を司る妖艶な美女! その実態はいかに!? チャレンジャー最後の一人は、最強の戦術魔物、ラストの登場だァアアアッ!!」
「七つの大罪だと!?」
「あの前作で最強と謳われたラストか!?」
「あんな美人なのかよ!? 俺初めて見たぜ!」
その姿は十人が十人、まぎれもない美女と認める美貌。黒髪をなびかせ、一目で魔族のそれと分かる蝙蝠のごとき翼を広げ、現状世界最強と言われる戦術魔物が観衆の前に姿を現す。
「おいおいマジかよ、俺はてっきり刀王ってのが出てくると思ったんだが」
「フン、主様の手を煩わせるまでもなく、私が始末をするだけだ。それに何より――」
試合前にもかかわらず、そして試合の特性により事前のTPがゼロになっているにもかかわらず、ラストは通常魔法である毒針を飛ばし、ゲーヴァルトのすぐ横をかすらせていく。
「――貴様程度が我が主である刀王と同じ呼び名でいるなど不愉快極まりない」
「なるほどね……あんたにとって“トウオウ”って呼び方はそうなるのか。だが――」
――あんたもすぐに、俺の事だけをその名で呼ぶようになるさ。




