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日々戦争に明け暮れる世界をクリアする為に、一ヶ月の修行を終えた俺は人々を導く”王”として更なる戦いに身を投じることになりました  作者: ふくあき


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第六章 追い詰められた者 1話目 You only Have to Decide Yourself

「――ハッ!?」

「気がついたか」


 シロガネが目を覚まして最初に目にしたのは、控室の天井だった。そして目を覚ましたシロガネに最初に声をかけたのは、フードを目深に被った侍だった。


(何かがおかしい。自分は確かに、あのキリエと戦っていた筈――)

「――そうか。そういうことか」


 少し経って、ようやく理解する。自身がキリエとの戦いに敗北してしまったという事実に。


「負けたのか……」


 上空からの不意打ち。そして刃の感触は確かに肉体を貫いていた。

 忍者のスキルの一つである闇討ちを発動したうえでのアンブッシュは、シロガネのレベル帯ではクリティカル次第でどんな相手でも一撃必殺になりうる。

 それがどうしてこのように控室で目を覚ますような事態に陥ったのか。仕掛けた本人はまったく理解がおよばず、そして控室内の大抵のプレイヤーもまた同等に分からないままに決着を見届けてしまっていたが、この場で唯一キリエの行動を“眼”で追いかけられた者がいる。


「……それで? 二回目の決着も見切りましたか?」

「まあな。シロガネも、自分の敗因は知っておきたいだろう?」


 とっくに阿頼耶識アラヤシキの解除も済ませていたジョージは、そうやってシロガネに声をかける。


「……恥ずかしい話だが、我もまだ理解が追い付いていない」


 自身への情けなさ故に顔を伏せるシロガネだったが、ジョージは特に気にするといった様子もなく、淡々と一連の流れを追うように説明を始めた。


「話はひとまず、シロガネがアンブッシュを仕掛けたところから始めるか――」


 ――アンブッシュによって刺し込まれたシロガネの刃は、あの時点では確かにキリエを貫いていた。しかしそこからは全て、一瞬の出来事によって事態が急変していた。


「キリエが懐からとっさに出した懐中時計。あの針が逆転するなり、全ての行動が巻き戻っていった」


 くらった本人はおろか見ていた観客にとってもその差が認識できない程度だが、確かに時間は巻き戻っていた。刃が肉体に沈んだ瞬間から、沈む直前へと。


「効果範囲は恐らく数メートル。そして巻き戻したのも一秒未満。しかし相手はこちらの攻撃をなかったことにしていた」

「ふむ……こちらの認識としては、攻撃を外したかのように思えましたが、まさか時間の巻き戻しとは」


 そしてそこから始まったキリエの反撃。しかしそこからはまた別のギミックがあることをジョージは告げる。


「恐らくは時間停止だと思うが……とびかかったシロガネの四方八方から、一瞬にしてレーザーが撃ち込まれていた」

「時間停止……!?」

「ああ。観測した限りだとそうなる」


 阿頼耶識によって認識はできたものの、身体が動けたかと問われれば否、となる。


「ゲームシステム的には抜刀法・神滅式かみごろしと同じだ。ゼロ秒で発動。そして回避不可能の確定ダメージ。キリエも遂にその領域に来たってことだ」

「それは厄介ですね……」


 抜刀法・神滅式かみごろし――それはジョージが現役の刀王時代に使うことができた抜刀法で、二代目刀王にその座を渡した今となっては使えないスキルのひとつ。抜刀法による攻撃にかかる時間をゼロとすることで、発動後には相手に如何なる防御をも取る時間を与えないという、実質的にガード不能の攻撃を繰り出すスキル。そしてそれは搦め手を除けば真っ向から破られることがない、最強格のスキル。それと同等のものを相手は使って来たのだとジョージは説明する。


「ゼロ秒発動の魔法……しかしそれなりに膨大なTPを使用する筈ですが……」

「TPの消費がない所を見ると、恐らくあの時計の持つ力の一つなのかもな」

「だとしたら、相当にレアリティレベルの高い強力なオプションアイテムを相手は持っているということですね」

「ああ。シロガネには悪いが、そんなアイテムを持っていることを知れたのはラッキーだ」


 搦め手を含めれば、ゼロ秒発動に対策はないという訳ではない。発動自体はゼロ秒だが、プレイヤーの心理的状況、あるいは癖などから事前に発動されるであろうタイミング自体は予測できる。あとはそこに合わせることさえできれば、通常の攻防にまで持ち込むことは不可能ではない。


「対策は不可能じゃない。だが、注意しておくべきだろうな」

「ええ。あくまで我々に見られても問題ない、と判断した上でしょうから」


 現状知る限りでも最強格に間違いなく挙げられるであろうスキルを、惜しむことなく使って見せることで、格の違いを見せつけているつもりもあるのだろう。

 しかしそれを踏まえてもなお、ジョージ達には悲観の雰囲気など微塵もなかった。


「……さて、最終戦だ」


 そうしてジョージが振り向いた先――そこには今までにない緊張感と、まるでダンジョンのボスとして鎮座していた時のようなピリついたオーラを身に纏う最強の戦術魔物の姿が。


「……では、行って参ります」

「ああ。無理はするなよ」

「……承知しました」


 ジョージの何気ない一言。その言葉に数拍置いての返事をかえすラストの内に秘められていた感情は、この場において漏らしたくないものだった。

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