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日々戦争に明け暮れる世界をクリアする為に、一ヶ月の修行を終えた俺は人々を導く”王”として更なる戦いに身を投じることになりました  作者: ふくあき


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第五章 反逆の魔法剣士 2話目

「“不詳の忍”白銀の陰VS“要塞女帝フォートレス・エンプレス”キリエ!! ラウンドワン!!」

「…………」


 シロガネが真っ直ぐな忍者刀を構えるのに対して、キリエは試合開始の直前にもかかわらず一切構えを取ろうとしない。それどころかたった一回だけ、シロガネの方を確認するように人差し指の先を向けただけで、再び無防備な姿を晒している。


「……ふざけているでござるか?」

「? いえ? 何も」


 馬鹿にされていると思ったシロガネは思わず声をかけるが、キリエはとぼけた様子で適当な答えを返すだけ。


「そうか……」

「だって――」

「――ファイッ!!」


 試合開始――その掛け声とともに、シロガネの体力は一瞬にしてゼロになっていく――


「――もう一回目の攻撃の仕込みを済ませちゃったもの」


 シロガネにとって、攻撃を受けたことすら理解できないままに気を失ってしまっていたのであろう。そして立ったままの姿勢で前のめりに地面に沈むことで、キリエが第一ラウンド先取したことをその場の全員に知らしめることに。


「なっ!? 見えましたか!?」

「このツラが全部分かったように見えるか?」


 ジョージは例によって阿頼耶識アラヤシキを発動し、文字通りキリエの試合開始後の一挙一動に目を光らせていた。しかしそれでもってしても、分かったことはただ一つ。


「キリエの野郎、試合開始と同時に魔法か何かで誤情報をバラ撒きやがった。そしてその上で一瞬にしてシロガネを討ち取ってやがる」


 相手はジョージの阿頼耶識のような解析を恐れてか、行動開始と同時に何かしらの妨害魔法を発動していた。

 しかしそれでも全てを隠蔽することまで至っていなかったようで、大まかな攻撃手法をジョージは目にすることができている。


「恐らくあれは【甲式閃光熱波(アルファレイ)】の上位互換の魔法だ。その証拠に、シロガネの背後を見ろ」

「……あれは」


 モニターの映像はシロガネに注目という形で映し出されているが、画面の端、遥か後方に映るコロシアムの壁に開けられた小さな穴が、ジョージの意見を裏付けている。


「つまり、光の速度で急所を撃ち抜いたんだろうよ。後は試合前の指差し行動で指先が光っていたことだが――」

「ジョージさんの説明の通りであれば、指を差したのは時間差呪文ディレイスペルの狙いを定める為かと。指差しで魔法を事前に仕込んで、試合開始と同時に撃ち込む。傍目はために見ればまさに一瞬の出来事、と」

「でっ、でも! それじゃフライング行為じゃないですか! 試合開始前に攻撃なんて――」

「今更それを分かったとしてどうやって指摘する、ユーゴー。キリエはバレないと分かっているからこそ、事前に何らかの手段でもって魔法を仕込みやがったんだ」


 魔法を発動するためにはスキル発動と同様に、通常だとTPが必要となる。まさかTPがゼロの状態で魔法を発動できるなど誰も考えていなかったという盲点と、時間差呪文を考慮していなかったという点。この二点がこのような初見殺しのような展開を創り上げたというのである。


「しかし、どうやってキリエは魔法を……」

「あの女の表示されている体力が、僅かばかりですが減っておりました」


 毎ラウンド終了するごとに発動される自動回復。それによって証拠隠滅がされていたものの、ラストは戦い終了直後に僅かながらキリエの体力(LP)が回復していたのを見逃さなかった。


「本当か? ラスト」

「この目で確かに」

「なるほど……TPの代わりにLPを削っての発動か……しかもわざわざ試合前に上空の満タンになっている筈の体力ゲージに注目する奴はいない……ましてや僅かな減りなんてそう気づくやつもいない」

「まんまと一杯食わされましたね……」

「ああ……だが、シロガネもただやられたとは思っていないだろうよ」

(なんだ今のは……何が起きたというのだ……!?)


 自動回復リジェネによって体力が回復していく間、シロガネは片膝をついて立ち上がりながら自身に起きた出来事について考えを纏めようとしていた。


(痛みの出所からして、恐らくは心臓を狙った攻撃……しかし、奴は攻撃を見せていなかった……)


 そうしてシロガネは乱れた呼吸を整えつつも、余裕の表情を見せ続けるキリエの方をじっと睨みつけるように観察する。


「第二ラウンド。これでもうあんたもおしまいね」


 勝利宣言をするかのように、再びシロガネを指さして笑うキリエ。そしてわざわざ二度指差しをしたことによって、シロガネは相手の意図に感づき始める。


「……まさか、そういうことか」

(だとすれば卑怯な……いや、相手が卑怯な手で来るというのであれば……!)


 自信を奮い立たせるように、人差し指と中指以外を折りたたんで目の前で忍者として印を結ぶかのようにピッと構えを取ったシロガネは、再び忍者刀を片手に構え始める。


「……忍術でもやるつもり?」

「卑怯者には教えないでござるよ」

「あっそう」

(卑怯者呼ばわり……気がついたってことでいいのかしら?)


 先ほどと同様に、キリエは自身の体力を僅かに減らして魔法を仕込んでいた。しかしそれを見破られたとしても、光速のレーザーを回避する手段はそう多くは存在しない。


(だったらこのラウンドを落とす覚悟も視野に入れて、様子見といこうかしら)


 念の為にナイフも構えておくべきかとキリエは考えたが、それには及ばないと結論付けたのか、再び無防備な姿勢で次のラウンドを待っている。


「なっ……何が起こったか分かりませんが、このまま試合続行とさせていただきます! それでは、ラウンドツー!!」

「これで終わりよ」

「それはどうでござるかな」

「――ファイッ!!」

「ッ! まただ!」


 シロも注目することで今度はハッキリと見ることができた、キリエの放つ光線。しかしジョージの目に映っているのは、それよりもシロガネの状態についてだった。


「シロガネも気づいていたか。しかしお前も、卑怯な手を使うようになったんだな」


 ジョージの目に情報として映し出されていたのは、シロガネがカウンター待ちの状態であるという事。そしてシロガネに光線がヒットした瞬間、それが発動される――


「――ッ!?」

「あぁーっとぉ!? 白銀の陰選手!? 何が起こったぁ!?」


 光線は確かに撃ち抜いていた。しかしシロガネの眉間ではなく、シロガネの姿が変化した丸太の真ん中を。


「っ、変わり身!?」

「その通りでござる!!」


 頭上に差す影。キリエが真上を向いた先には、刀を構えるシロガネの姿。


「お命、頂戴いたす!!」


 ――次の瞬間、シロガネの刃は、確かにキリエの心臓に届いていた――

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