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日々戦争に明け暮れる世界をクリアする為に、一ヶ月の修行を終えた俺は人々を導く”王”として更なる戦いに身を投じることになりました  作者: ふくあき


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第四章 リベンジマッチ 5話目

(この俺が、連続でラウンドを落とすだと……?)


 そんなことなどまずあり得ないが、目の前の男を前にすれば、ただのハッタリで済ませられるような文言でもない。


「……面白れぇ。だったらまず第一ラウンド、とれるものならとってみろよ!!」

「!」


 そうして再びヴェルサスは猛攻撃を仕掛けようとしたが――


「――残念ですが、もう貴方の攻撃スピードは見切りました」


 側面からの攻撃。それは今までシロが見せてきた攻撃の中では段違いのスピードを見せている。


「お気づきですか? ここまでボクが特段スキルを使用してきていないことに」


 迫りくる刺突の刃を膝と肘でとっさに挟むことで防ごうとしたが、ヴェルサスの筋力(STR)を超えるステータスを持っているのか、シロの手に持たれた剣は易々とそれを通過していく。

 そしてそれを後押しするかの如く、シロは空いた手で剣の柄の尻を支え、そのまま押し込むように剣全体をねじ込んでいく。


「先ほどの、お返しです!」


 今度はシロの方から繰り出された、ガードを貫通する刺突。剣先はそのままヴェルサスの腹部へと突き刺さっていく。


「っ、ガハァッ!!」


 意図に気づいたヴェルサスは自ら派手に後ろへと吹き飛ばされようとしたが、既に相当に深く刺し込まれていた刃が、そのままわき腹から抜けていく。


「オルガン・エクストラクション!!」

「っ!? きゃああああっ!!」


 その瞬間を目にしてしまった観客の悲鳴が、コロシアムに響き渡る。

 ――その名の通り、モツ抜きによる一撃必殺。実情としてはそこまでグロテスクな結果をもたらしてはいないものの、派手な出血によるダメージの深さは、そのままヴェルサスを前のめりに倒れさせることと、上空に映し出されたゲージがゼロを示していることが証明となっている。


「あー、あの人のドSっぷりを忘れていたわそういえば」


 モニターに映しだされた惨たらしい一撃を前に、ジョージは苦笑を浮かべる。


「……ダッ、ダウーンッ!! 第一ラウンドはなんと、シロ選手が取ることにィーッ!?」


 その場にいるほとんどの者が、今の一瞬で何が起こったのか理解が出来なかった。ただ一瞬にして倒れる我らが蹴王と、それを見下ろすシロとの光景だけを、多くの観衆の目が捉えている。


「ごっ、ごほっ、ぐぇっ!!」


 そして恐らくは攻撃を受けた当の本人にとって、それは筆舌に尽くしがたいほどの絶大なダメージだったであろうことが伺えた。自動回復の魔法により再び立ち上がれるとはいえ、刻み込まれた痛覚までは拭えないことは観客も知っている。


「はぁっ、はぁっ……てめぇっ、手を抜いてやがったのか……!」

「抜いていなかったと言えば嘘になりますが、何と言えばよろしいでしょうか……」


 シロ自身も当初はリベンジに燃えるプレイヤーとして、ある程度本気で戦う覚悟していた。そして攻撃もいくつか貰うことを覚悟の上で、相手の底を見るつもりで様子を伺い続けていた。

 ――しかし予想外に自分が強くなってしまっていたことと、相手が予想外に強くなっていなかったことに、シロは途中から気がついてしまっていた。


「……一ヶ月。長かったようで短かったような期間だったが、あの人も強くなっていたみたいだな」


 モニターの前で、ジョージは静かに呟く。それぞれが最前線に立つ為のレベル上げを重ねてきた、一ヶ月という期間。その中で強くなっていたのは、ジョージだけではなかった。


「未だにヴェルサス選手が倒れた決定打は不明なままですが……ラ、ラウンドツーッ!」

「次で終わりですよ」

「クソッ!」

(どうする、どうすればいい!? 筋力(STR)で負けているならスピードで……いや、違う!)

「――ファイッ!!」

「っ、うおぉおお――」


 何も思い浮かばず、ヴェルサスは前へと出る。それは何も策が思いつかなかった結果の、破れかぶれの前進。

 しかし――


「――遅いです」


 すり抜けざまの一閃。しかしそれはヴェルサスの目には映らぬ一閃。

 ――戦いは終了した。それも、シロの予言の通りとなって。


「……チッ、面倒ね」


 そしてモニターに映し出された一閃を、キリエは見ることができた。そしてヴェルサスが負けた要因を把握するやいなや、一人小さく舌打ちをした。


「これで二対一。あたしが負けることはないとはいえ、あんたが勝たないと――」

「なーに負けてんだよ蹴王。啖呵を切ったからには勝ってきてもらわねぇと困るってのに」


 勝つことは決まっているとはいえ、面倒ごとが増えたとあきれ顔で状況を口にするキリエだったが、控室に残るもう一人のプレイヤーは別の意味で不機嫌になっていた。


「あいつ、帰ってきたら王の座を返してもらわねぇとな。あんなのがナックベアの蹴王だなんて思われたくねぇし」


 ――その目はまるで虫けらを見るような、冷めて冷え切ったものだった。それまでの明るい雰囲気とはうって変わった表情を見せるゲーヴァルトを前にして、キリエも思わず口を閉ざす。


「何なら俺の手で消しとくか……同じ王として、同じ王位に就いていると思われたくねぇしな」

「…………」

「勝てない王なんざ必要ない…………おっと! 悪い悪い! キリエちゃんに変なプレッシャーがかかっちまったか!?」

「……いえ、むしろさっきの時よりも今の方が、あたしとしてはやりやすいわ」


 勝つこと以外に意味はない――それはキリエも同じ意見だった。


「じゃ、最終戦の用意だけしておきなさいよ」

「おう! キリエちゃんもファイトな!」


 キリエはそれに返事を返すことなくその場に背を向け、ひらひらと後ろ手を振って控室を去っていった――

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