第四章 リベンジマッチ 3話目
剣と盾――剣を扱う近接職としての最高峰である勇者の正装ともいえる装備が出揃った今、ヴェルサスはようやく目の前の敵と同じ土台に立つことができたのだと感じた。
「ようやく本気ってところか」
「さて、どうでしょうかね?」
(以前よりは強くなったようですが……それでもレベルとしては高く見積もっても140前後。この装備とちょうど同じくらいのレベル帯でしょうね)
自身が最高レベルである150に到達したからこそ理解できる、カンストとそれ以外における決定的な差。それを今から証明するかのように、シロは以前とは違う、明らかに格下を相手にするような様子の伺い方を見せている。
そしてそれを理解できないヴェルサスではなかった。
(相手のあの余裕、明らかにこっちを格下と見てやがる……だがそれこそが命取りだってことを今度はこっちから突き付けてやるよ)
対戦ゲームにはよくある話としてこういうものがある。実力が劣る相手に舐めプをした挙句、あっさりと負けるというものが。
(“後の先”を取ることを意識しろ……多少のダメージは覚悟の上だ)
今までのヴェルサスであれば、自分が舐められていると分かるなり逆上して敵へと突っ込んでいった。しかし一度敗北を知った今の彼ならば、それは同じ轍を踏むことに等しいことを理解している。
故に即座に突っ込むことはなく、まずは相手の出方を伺い、隙を伺って攻撃を仕掛ける選択を取ることにした。
「……おかしいですね。いつもの蹴王であれば、とっくにラッシュを仕掛けているはず」
観客席にてクロウの隣に座っていた修行僧の男は、普段とは違う蹴王の様子に首を傾げる。
「一気に攻撃を仕掛け、反撃の間もなく制圧するのがあの方の戦い方なのに――」
「もしくは、うちの最強格の男に気圧されてるってことじゃねぇのか?」
クロウは冷静に現状を分析して、独り言を呟くかのように言い放つ。
「とはいえ超攻撃型のプレイヤーが見にまわるってことは、それだけ警戒してるってことだろうな」
(そしてそれだけ冷静に見られてるってことを、シロもまた分かっているはず……!)
以前に戦った時と同じような、自分のスキルにかまけた戦いであれば容易くラウンドを制することができただろう。しかし相手は知恵を持つ獸。本能で戦うことをやめて、確実に勝利を奪い取るため、一瞬の隙を伺っている。
互いに構えを取ったまま、じりじりと円を描くように互いの隙を伺う。その光景はそれまでの派手な戦いとは違う、地味でありながらも見る者が見れば極度の緊張状態だと分かる戦いだった。
「……ふむ。確かに、このまま膠着状態なのも面倒ですね」
そしてそんな中で意外にもしびれを切らしたのは、それまで理性的な戦い方を突き詰めてきた男の方だった。
「――いきます」
時間経過によって溜まったTPを消費してのスライドダッシュ。攻撃の姿勢を崩さぬままに突っ込んでくるその姿を見て、ヴェルサスは思わず笑ってしまった。
――それはまるで、獲物を前にして狂喜を漏らす猛獣のようだった。
「ッ、貰ったァッ!!」
ただひたすらに攻撃の構えを取っていた訳ではない。
“後の先”――ヴェルサスは最初からカウンターだけを狙っていた。
「なっ――」
剣を振るう為に振りかぶっていたシロに向かって、真っ直ぐと直線的な飛び膝蹴りが向かってくる。
「くっ!」
しかし相手からの攻撃をまったく予想していなかった訳でもなく、シロは反対側の盾でもってその蹴りを防ごうと構えなおす。
「ハッ! 無駄だァッ!!」
――しかし相手は蹴王。蹴り技においては、かの拳王よりも高い破壊力を持ち得る存在。
「ラップドライバーッ!!」
杭打機のような、鋭い一点の突き。金剛脚によって固められたそれは、防御する盾の上からでも凄まじいインパクトをもたらす。
「ぐぅっ!?」
そしてその破壊力がいかなるものか、ガードの上からでも削られていく体力が証明していた。
「まじかよ!? 盾を構えてるってのに体力が削れてやがる!?」
「流石はヴェルサス様、ナックベアにおいては随一の破壊力を持つだけはあります。そして我々としては、あの膝蹴りをくらっておいて壁に叩きつけられていない彼の方が、驚きですが」
互いに驚くべき点は違えど、たったの一撃で今の戦いがどれだけのものなのかを、皆が理解する。
そして何よりもレアリティレベル140の盾でもってしても後方十数メートルへと下がらざるを得ない破壊力を身をもって体験したシロと、自身が持つ技の中でも上から数えた方が早いレベルでの破壊力を当ててもなお、立ったままでいるという現状を目にしたヴェルサスという二人が、この場において一番驚いていたのは間違いないだろう。
「まさか、ガード貫通技を持っていたとは……不覚です」
「おおーっとぉ!? 今凄まじい攻防が繰り広げられたようだが、体力的には蹴王がリードかーッ!?」
(そんな訳ねぇだろ節穴かてめぇの目はよぉ……! どう考えてもカウンターのタイミングだったってのに、奴は反応してガードを間に合わせたんだぞ……!!)
体力的にはシロが劣勢であるものの、カウンターで当てた高火力技を防いだことによる技術的なアドバンテージがそこにある。
表面的なリードなどに一切とらわれず、ヴェルサスは再び構えなおす。
「……次こそはカウンターで沈めてやるよ」
「……なるほど。でしたらこっちも、対応を変えましょう」
そういうとシロはステータスボードに盾を収納すると、剣一つだけを手に持って構えを変化させる。
「今の様子だと防御しても意味がない。となれば、身軽になって攻撃に専念させてもらいます」
「ハッ! だったら次はその顔面に膝を叩きこんでやるよ……!」
蹴王VS無冠の王。戦いはここから更に変貌を遂げていくことになっていく――
今後の更新予定ですが、書き溜めがまだ追いついていないので、暫くは土日に一回ずつの週二回更新をしていきたいと思います(´・ω・`)。
また余裕が出来てくれば毎日更新を頑張りたいと思います。




