神無月ヤマト ラスト配信
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『お帰りなさいませ、ご主人様。今日も僕の配信に来てくださりありがとうございます。あなたの執事、神無月ヤマトです』
ただいまー!!
今帰ったよ!!
俺のヤマトー!
違う。私のよ!
僕のだよ
ヤマト様は誰のものでもないよ!
そうだよ、ヤマトはみんなのモノよ!
いつもの流れ。
この一年近く配信するときは毎回のよう見てきたコメント欄。
現在の同時視聴数は20万人。
『皆様、昨日のラストLIVEは見てくださいましたでしょうか? もし見てないという方がいましたら、この配信が終わった後にぜひ見に行ってください』
もちろん見た!
今日の朝からずーっと見てる!
見ました!
見たけどこのあともう一度見に行きます!!
『せっかくなのでLIVEが終わった後の後日談でもしますか。気づいたご主人様もいると思いますが、LIVEの終盤はもう涙を抑えなくなりましたね。いろいろな感情がもう、表に出て来て……』
泣いたことを言うのは少し恥ずかしい。
元より話すつもりで恥ずかしくないように脳内シミュレーションを何度もしたのに、実際に言うとなるとやはり恥ずかしい。
『もう、涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いて、で、まぁ……泣きながらお風呂に入ると自然と涙は止まりましたね。お風呂に入った後は晩御飯を食べてそのまま就寝しました。もうぐっすり!』
俺も涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いた!
涙腺は正直よ
ぐっすり眠れるくらい頑張ったんやね
お疲れ様です
『で、今日朝起きたんですけど、何にもやる気が起きなくて。起き上がるのすら億劫。「これが燃え尽き症候群か」って、人生初の【燃え尽き症候群】を実感しました。本当に何もやる気が起きなくて、お昼食べるためにリビングに向かったんですけど、それすらやりたくないくらいに…………』
完全に燃え尽きてるじゃんwww
まぁ、昨日あれだけ頑張ったらねぇ
気持ちわかるわぁ
本当にお疲れ様です
『本当に何のやる気もしない中、ソファに座って空を眺めていると不思議と心が安らいで行って、徐々に「何もしたくない!」って気持ちが薄れていったんですよね。いつもと変わりばえしない景色なのに。それがもう不思議で不思議で! 心が安らいでいくうちに「露天風呂行きたい」って思いましたね』
景色はいいよなぁ
心安らぐのはなんとなくわかる
何故に露天風呂www
確かに、景色を視るなら露天風呂は格別!
『しばらく眺めていたことで気持ち的に楽になり、お昼ご飯を食べることになったんですけど、白米に味噌汁、刺身という豪華で僕の大好物なものが僕の燃え尽きた気持ちを再び湧き上がらせてきましたね』
豪華……か?
豪華だな
好物は人の心を癒す最高の主食
刺身……いいね!
『とまぁ、こんな感じで最後の一日を過ごしましたね。そのあとは皆様もご存じの方は多いと思いますが、他のライバーの配信に入り浸ってましたね。たくさんコメントしたことで【ヤマト増殖中!】という単語がトレンド入りしてましたし』
ラストLIVEの翌日ならねw
同じ時間のライバーたちにもコメントしてたからね
普通に増殖してたw
草w
『さて、LIVEの後日談も終わったことだし、お次はオリ曲の話かな? 皆様は今日投稿された〈両思い〉の方はもうお聞きになりましたでしょうか?』
聞いたよ!
聞きマシた!
まだ
この配信が終わったら聞きに行きます。
聞いた!
『聞いた人も聞いてない人もぜひ何度でも聞いてください。最高の曲の1つですので。……まぁ、長いんですけど』
配信前に僕も少し聞いたが、流石に10分以上は長いと感じてしまった。
作業用に聞くのはちょうどいいかもしれないが……
『因みに昨日歌ったもう一個のオリ曲〈僕からみんなにありがとう〉はこの配信が終了した後に投稿されますので、そちらもぜひ聞いてください!』
もちろん!
絶対に聞きます!
楽しみ!
待ってます!
『さて、昨日の今日なので、今日はもう、本当にしばらく会えないお別れのためだけに、配信をすることにしたので、振り返りはここまでにして、ここからはお別れ会をしたいと思います』
…………
ついに……
分かってた
はい
BGMをすべて切り、配信画面に映っているコメントや文字などもすべて消す。
今配信画面に映っているのは背景イラストと神無月ヤマトだけ。
広くなった画面の真ん中にモデルを移動する。
『えーっと、衣装の見納めをしたいと思います。数秒ずつ衣装を変えてきますね。まずはこれから』
そこから数秒ずつ衣装を変えていく。
元の衣装に付属が付いた衣装から、過去にカナママが描いてくれた新衣装まで。
最後は僕の初期衣装。
執事ヤマトの姿になる。
『どの衣装にも思い入れがありますね。カナママが作ってくれた新衣装には』
最近よく見る衣装から懐かしい衣装まで見れた!
どの衣装も最高!
あ、涙出てくる……
やっぱり付属品が多かったね。
『これで、もう見納めるものは無いかな。……うん。時間的にもいい感じ。振り返りとかは一昨日終わらせましたしね』
…………
長いようで短い
あぁ、この時が来たんだ
そっか
お疲れ様です
『最後、少し淡々となってしまったかもしれませんが、これでお別れ会並びに神無月ヤマト活動休止前ラスト配信を終了します。今日の時間が皆様の心にとどまってくれたらな、と思います』
当り前だ!
いつまでも忘れないよ!
今日までお疲れ様でした!!
たくさんの勇気をくれてありがとう!
『ご主人様、これまで僕と楽しい時間を過ごしていただきありがとうございます。しばらくの間お暇をいただきます。またお会いできる日を楽しみにしています。では、行ってきます』
行ってらっしゃい!
また会いに来るねー!
行ってらっしゃい!
行ってらっしゃい!!
またねー!
いつでも待ってるよー!
行ってらっしゃーい!!
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配信を終了した。
活動休止前最後の配信を。
いつも通り配信終了後、いくつもあるモニターを切っていたが、いつもは最初の方で切る一つのモニターの電源がついていた。
そのモニターには神無月ヤマトが映っている。
これを閉じたら次に会うのは早くて3年後。
それまで見ることはあっても、人前に現れることはない。
「…………今日までお疲れ様。しばらくの間ゆっくり休んでね」
これまでお世話になったモデルに声をかけて電源を落とす。
これにて、神無月ヤマトとしての活動が一時終了した。
「さてと、お風呂に入ってから、晩御飯食べようっと!」
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春。
桜の季節というが、徐々にサクラが散り始めた今日この頃。
僕は新しい衣装に身を包んでいる。
「お兄ちゃん。早くしないと遅刻するよ!」
「え、もうこんな時間? やっば!?」
「太陽が外で待ってるから早く!」
「すぐ行く!」
無事高校生になった僕は、去年との生活基準の違いに未だに戸惑いながらも、何とか学生としてやっていた。
「お兄ちゃん、急いで!」
「分かった! …………行ってきます」
誰もいない家に「行ってきます」と言い、学校へと向かった。
それから約4年の月日が進んだ。
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