打合せ
コラボ配信。
それは配信者が、別の場所にいる配信者とコラボレーションして配信すること。
コラボ配信のほかには、コラボ動画、大型コラボ、オフコラボなどほかにも種類がいくつか存在する。
今回母さんが言ったコラボ配信はオフコラボ配信にあたるものだ。
因みに自分のチャンネルを持っている母さんだけど、チャンネル登録者数は先月50万人を超えていた。
動画配信は週に1・2度だけどそのたびにチャンネル登録者数が増えている。
因みに、トリッターのフォロワー数は百万人を超えていた。
「それで、コラボするのはいいけどどっちのチャンネルでするの? 母さんの方? それとも僕の方?」
「ヤマトの配信なんだからヤマトの方よ」
「分かった。それじゃあ今からコラボすることをトリッターで告知するね」
「待ちなさい」
スマホを取り出し、トリッターのアプリを開こうとすると母さんにスマホを取り上げられてしまう。
「どうしたの?」
「ただ、コラボするだけじゃつまらないと思わない?」
「いや、せっかく母さんがコラボしてくれるんだから、たくさんの方に見てもらわないと」
「いい心がけだけど少し違うわね。ヤマトにとって私とのコラボは重大なものよね?」
「それはそうだよ。神無月撫子は有名な女優で僕の母。たくさんの人に見てもらいたいと思っているよ」
何よりも、僕のファンであり母さんのファンの人にはぜひ見に来てほしいと思っている。
だからこそ、母さんの考えが全く読めない。
母さんは自分のファンの人に見に来てほしくないのかな?
「保仁、あなたは大事なことを忘れているわよ」
「大事なこと?」
「ええ、あなたは初配信をしてからまだ1週間しかたってないの。それがどういう意味か分かる?」
初配信から1週間しかたっていない。
それは何よりも本人である僕が知っている。
でもそれがいったいなんだというのかわからない。
「はぁ、いい。私にファンがいるように、ヤマトにはヤマトのファンがいるの。彼らが見たいのは私ではなくヤマト。そんなヤマトが初配信した1週間後にコラボしたらあなたのファンはどう思うかしら? 私との絡みを見れて嬉しいという人もいるかもしれないわ。でも私があなたの一ファンならどうしてこんなに早くコラボするの? と思うわ」
母さんの考えは分からなくもない。
現にほかのVtuberさんの配信でも毎日コラボを見ていたいという人も言えれば、コラボはたまにでいいから、リスナーとの絡みをメインにしてほしいと思っている人もいる。
だから母さんの言っていることは理解できる。
だったら僕は母さんに一つ聞きたい。
「コラボしようって言ってきたのは母さんだよ。その母さんが何でコラボを否定しているのかが僕は分からないよ」
「別にコラボすることは否定してないわよ」
「え?」
さっき言ったことと別のことを言っていると感じるのは僕だけかな?
「私が言っているのは、コラボするということを告知するなっていうことよ。私と同じ考えをするかもしれない人がいるかもしれないから」
「あ!」
そういえば、そういう話題で話が進んでいたんだった。
「じゃあいつも通りに?」
「違うわ、私とのコラボを別の言い方に言い換えるのよ」
「別の言い方……『母親襲来』みたいな」
「方向は間違っていないけど、それだと『神無月撫子とコラボする』って簡単に分かるわよ」
「確かに」
ヤマトの母さんは『神無月撫子』というのは既に常識になっている。
だったら、
「『重大発表があります!』みたいな感じかな?」
「……間違ってはいないけど、その配信ですぐに私が出ちゃうと私と違う考えの人は『重大発表って普通にコラボじゃん。だったら遠く言いまわさないで普通にコラボって書けよ!』って思っちゃうかもしれないわよ。何か重大発表がないと」
「重大発表。……母さんのドラマの件は?」
「それはダメね。まだ番組の方から告知の許可をもらってないし、決定はしているけれど今後、視聴率が一気に下がったら中止になる可能性だってあるわ」
「なるほど。……だったら僕の収益化が通ったことは」
「それなら重大発表ね。ファンにとって推しにお金を貢ぐことは普通ととらえる人は少なくないもの。それで行きましょう」
「分かったよ」
これで重大発表の件はクリアした。
でもこれは最初の関門でしかない。考えないといけないことはまだまだある。
「ねぇ、打合せするのはいいんだけど、帰ってからじゃダメなの」
声のする方を見ると、そこにはゲーム機の箱を2つ持ちいくつものゲームソフトが入った買い物かごを持つ来夢がいた。
そして、ここがショッピングモールのど真ん中であることを思い出す。
幸い周りには誰もいないが、こんなところで話していたと思うと少し恥ずかしく感じてしまう。
「お兄ちゃん、何かについて話し合うのはいいけど場所を少し考えて」
「ごめんなさい」
「妹に怒られたら兄の立つ瀬がないわよ」
「お母さんもなんだけど」
「ごめんなさい」
まさか二人して来夢に頭を下げるなんて思っていなかった。
話し合いをするのは家に帰ってからすることにし、すぐに買い物を再開した。
と言っても、買うものはいつの間にか来夢が集めており、ゲーム機が二つ、ソフトが10種類を二つずつ、の計20本。
合計で20万円くらいしたけど母さんが普通に現金で払っているのを見て、金額よりも母さんの方に驚いてしまった。
その時に母さんが言っていた「たったこれだけ?」という言葉は今後忘れることはいと言い切れる。
家に帰ってから僕たちは休む間もなくそれぞれの作業に入る。
来夢はコラボ配信のセッティング。
僕と母さんは配信に向けての打ち合わせだ。
今日は台本などがまったくない状態なので急いで考えないといけない。
「保仁、トリッターの方で告知はしたの?」
「うん。『重大発表があります』という見出しで告知したよ。トリートの返信を見てみるとみんな重大発表のことが気になっているみたい。中には収益化に気づいている人もいる」
「そう、じゃあそこらへんはいいとしてゲームに関しては何やる?」
「買っていたソフトを見ていたんだけどこれなんてどうかしら?」
母さんは買い物袋の中から、一つのソフトを出して見せてくる。
そのソフトの名前は『大富豪になって世界旅行』というゲームで、説明を見てみるとさいころゲームで、止まったますによってはお金をもらえたり、逆には取られたり、止まったますによってはその国の有名店を買収することもできるらしい。
そして、最終的に所持金が一番多い人の勝ちとのこと。
これは昔のゲームにもあり当時は僕もやっていたが、そのころよりもスケールアップしている。
「それをやるのはいいけど著作権とか大丈夫?」
「大丈夫よ。ここの会社は著作権問題なしに配信できるらしいから。でも、イメージを損ねると訴えられるから気を付けないとね」
母さんはそう言っているけど、一応会社の方のホームページで確認してみると母さんの言ったことに間違いはなかった。
これで配信するゲームは決まった。
けれどほかにも問題がいくつかある。
「次に私たちが登場するタイミングだけど配信開始して三十分くらいでいいかしら?」
「それまでは僕の重大発表をするんだね。それでいいけど配信は一時間を予定してるんだけど……」
「それなら大丈夫よ。私が配信中にわがまま言うからあなたは仕方なく従えばいいわ」
「ああ、神無月撫子のわがままならみんな納得するもんね」
「そういうことよ」
これで配信時間の問題はなくなった。
次はヤマト(ぼく)とライムの関係についてだ。
「ヤマトとライムの関係についてはどうするの?」
「ああ、同一人物説ね」
「やっぱり知ってるんだね」
「子供たちのことよ当り前じゃない。それでそれに関してだけど二人一緒に喋ればいいんじゃない? それである程度は解決するでしょ」
「それもそうだね。いくら僕でも二人の声を重ねてしゃべることはできないから。そうなると振りは母さんにお願いしていい?」
「それくらい問題ないわ」
これで僕とライムの同一人物説は何とかなる
大体はこれくらいかな。
「設定終わったよー」
「ありがとう来夢。それじゃあ配信時間まで練習でもしようか。母さんもどう?」
「何言ってるのせっかく来夢も来たんだしもっと深く話し合いをしましょう」
「深く?」
「そうよ。今までのは簡単な問題解決。次は台本よ」
ああ、そういえば台本の方は何もできていないんだった。
「最初の三十分は収益化の報告だけでしょ。そんなの数分で終わるじゃない。余った時間は何に使うか決めているの?」
「トリッターで募集した質問をいくつかはいてしまおうかと思っているよ」
「確かにそれならすぐに三十分経つわね。じゃあ次は私たちの紹介ね」
ここから数分足らずで、最初から最後までの流れをまとめ台本ができた。
正直に言うと、僕一人で作るよりも分かりやすく、スムーズに進む台本ができた。
流石は母さんだというしかない。
ただし一つ気になることがある。
「母さん、話し合いの途中で言っていた罰ゲームについてはどうするの?」
母さんは今回のコラボゲーム配信で罰ゲームをつけようと決め、話し合いが進んでいった。
そのため、話を聞いていた僕と来夢は頭の半分が「罰ゲームって何?」の状態で話を聞いていた。
「今回のゲームで最下位だった人は罰ゲームをつけようと思うの。その方が面白いでしょ」
「確かにドキドキするけど……来夢はどう思う?」
「いいんじゃない? そっちの方が面白いしワクワクするじゃん。それにリスナーも三人いると誰を応援していいかわからないけど、罰ゲームがあると負けてほしい人以外に応援しやすいんじゃない?」
確かに。
僕でも推しが罰ゲーム受けるかもしれないってなったとき、内容によっては推し以外を応援すると思う。
「じゃあ罰ゲームの内容は——」
「待って!」
罰ゲームの内容を言おうとすると、母さんに止められてしまう。
「罰ゲームはゲーム開始時に言うってのはどう?」
「私は全然いいよ」
「僕もいいけどどうして?」
「今話してしまうと私たちの反応に面白みがないと思うの。せっかくだし、自然な反応を視聴者に見てほしいじゃない」
確かに母さんの言う通り。
たとえやりたくない内容だったとしても、何も知らない時と知っているときの反応はだいぶ違う。
「分かったよ。じゃあ僕が来夢の、来夢が母さんの母さんが僕の罰ゲームを決める。それをゲーム開始前に発表するって形でいいね?」
二人は何も言わずに頷いてくれる。
こうして打合せは無事に終わった。
今回の打ち合わせ、僕は母さんから学ぶことがとても多かった。
常にリスナーのことを考える。
もしかしたら心のどこかでニュースに取り上げられて舞い上がっていたのかもしれない。
今一度気を引き締めなければ!
そして、僕の人生初のコラボ配信が始まる。
読んでくださりありがとうございます。
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次作もぜひ呼んでください。
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