サークル紹介の影響
獅喰蓮さまの声に皆反応し、全員の注目が獅喰蓮さまに向いた。
「【ひふみよ感謝祭】一日目も後半に入りました。この後はサークル紹介、抽選会の二つになります。最後まで頑張っていきましょう! ではサークル紹介の順番を発表します。1番目は楓ちゃん、計5サークルの紹介で各サークル1人ずつ壇上するので、スタッフさんは順番に案内お願いします。楓ちゃんは発表順をスタッフさんに教えてあげてね」
今この場には【1234+0】とスタッフTシャツを着ている人以外に私服を着ている人がちらほらいる。
ちーちゃん様もその一人。
「2番目に紅葉ちゃん、計6サークルの紹介になります。一緒に壇上する人は今のところ報告来てないけど……」
「え、あ、……うん。…………私、1人」
いつの間にかコスプレ衣装を着替えていた紅葉さま。
急に弱弱しくなったけど、内気というのは本当だった。
おどおどしながら話す紅葉さまを見たことない。
「一応聞くけどサークル紹介するときはコスプレ、するよね?」
「あ、うん。……もちろん、する……よ」
「ならいいよ」
何でコスプレ衣装を脱いだのかわからないけど、素面の紅葉さまだと大勢の前で紹介できないことがよく分かった。
次はどんなコスプレするのかな……?
「3番目にヤマトさん。計5サークルの紹介になります。一緒に壇上するのは……そちらの制服の女の子だけかな?」
「はい。3サークル目の時に壇上してもらいます」
「分かりました。ヤマトさんは実物投影機でのサークル紹介になりますので、スタッフの方は紅葉ちゃんが終わった後、ヤマトさんの発表が終わった後の準備をなるべく早めにお願いします」
「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
『はい』
「4番目に私、獅喰蓮が行います。計4サークルの紹介になります。1番目と4番目に壇上する方がいますので案内の方お願いします。5番目にギャイちゃん。計5サークルの紹介になりますが、紹介内容が大きく変わるとのことなので、スタッフさんは最初に渡されたデータの方の消去をお願いします」
データを全部消すなんてもったいないように思えるけど、紹介内容が大きく変更になるんだったらしょうがない。
でも、ギャイ先生の資料を見てみたい気持ちがある。
後で頼めば見せてくれるかな?
「それでは皆さん、頑張りましょう!」
『はいっ!』
獅喰蓮さまの挨拶が終わり、スタッフさんはそれぞれの仕事に戻る。
「もうすぐで開始時間になります。獅喰蓮さん、楓さん、準備の方をお願いします」
司会の獅喰蓮さまと楓さまが呼ばれ、いよいよ始まるというのを感じる。
「ヤマトン、私はブースに戻るけど、文章大丈夫?」
「はい、頭の中にイメージとしては程度固まった来たので、後は本番で頑張るだけです」
「書かなくても大丈夫?」
「はい。逆に書いたら国語の読書感想文を書いているみたいで、頭の中真っ白になってしまいそうなので大丈夫です」
「…………そう。それじゃあ私と一緒にブースに戻ろうか。人が少なくなるとは言え、来ないってわけじゃないから」
「分かりました」
ちーちゃん様はイベントスタッフさんに呼ばれすでにどこかに行っていたので、声をかけることなくステージ裏を後にした。
ブースに戻り少しは忙しくなるかと思ったけど、そこまで急がしい感じは見られない。
コスプレ衣装と同じようにあたりが暗いからかもしれないけど、人があまりいないように感じる。
「だいぶ売れましたね」
「うん。午前中はずーっと忙しかったから……」
「お疲れ様です」
よく考えたら、僕たち5人の中でずーっとブースで仕事していたのってギャイ先生だけなんだ。
そう考えると本当に大変だったというのが頭に浮かぶ。
「本当に、お疲れ様です」
「うん。ありがとう。でも忙しくなくなったわけじゃないから。これからも頑張るよ」
「はい」
でも、流石にそこまでは忙しくはならないだろう。
……と思っていた時間が僕にもありました。
「すみません! 列乱さないでください!」
「押さないで、まだまだありますから」
僕とギャイ先生はとあるブースに駆り出されていた。
そのブーストは現在サークル紹介している楓さまが一番最初に紹介したサークル。
サークル紹介が終わってからすぐに忙しくなり、そこまで忙しくない、何なら今日販売分がほとんど残っていなかった【1234+0】はヘルプに駆り出されてしまった。
楓さまが紹介したサークルはそこまで注目さているサークルではなかったらしく、紹介を聞き興味を持ったお客様が一気に押し寄せた。
その人数は思った以上に多く、駆り出されたのは僕たちだけでなく、ギャイ先生が紹介する予定のサークルや、すでに販売が終了したサークルはすべて駆り出された。
見知らずの人にそこまでする必要があるのかと思ったけど、ギャイ先生曰く「困ったサークルがあったら助け合う。これ【ひふみよ感謝祭】の常識」とのこと。
「ヤマトン、楓が来たらステージ裏に行っていいから。終わったら戻って来てね。多分人手が足りなくなるから」
「わ、分かりました……」
いったいどうなるのか想像したくない。
想像しなくてもかなりすごいことになるのは分かる。
『わあぁぁぁぁ!!』
「あ、楓終わった」
「え、……ほんとですね」
列の整理をしながらステージの方を見ると、そこには私服の楓さまではなく、ものすごく派手な衣装の紅葉さまが壇上に乗っていた。
「んんっ?」
見た目はまん丸の黒羊。
いったい何のコスプレかと思ったけど、その執事は毛の色が黒く、右目がよく見えない、顔の下には赤ネクタイがまかれている。
明らかに見たことのある黒羊。
間違いない、間違えるはずもない。
あの羊は僕のメンバーシップバッチの【名前のない羊】
まだメンバーシップ開始から1週間もたっていないのかなりの出来栄え。
あんなに忙しかったのにいつ作ったんだろう……。
「楓、お疲れ」
「あ、お疲れさまです」
「お疲れ~。緊張した~!」
声優の楓さんでも緊張することあるんだ……。
てっきり声優活動とかでステージに立ってバンドをこなしているイメージしかなかった。
「ヤマト、紅葉が終わった後で番だから行ってきていいよ」
「あの……ステージの上ってどうでしたか?」
「え? ああ、もしかして緊張してるの?」
「……多分」
この場にいるお客さんは東京ドームにいたお客さんよりも少ないはず。
だけど状況がかなり違う。
東京ドームの時は観客席に人がいて、僕といた場所とお客さんはかなり遠かったうえに、あの時は周りにお客さんがいたから視界に全員が入るわけではなかった。
でも今回は違う。
視界の中にお客さん全員が入るし、お客さんとの距離が近い。
そのせいか、かなりドキドキしている。
中学時代にもクラスメイトの前で発表することはあったけど、あの時は真面目に発表しなかった。
今になってその時真面目にしなかったことを反省する。
だからこそ、ステージの上がどんな感じなのか知っておきたい。
「うーん。そうだね。……よく覚えてないかな」
「覚えてない?」
「うん。……ただとても楽しかったよ。みんなの前で発表するのは」
「楽しい?」
さらによくわからない。
「まぁヤマトもステージに立てばわかるんじゃないか?」
「……分かりました。僕もステージの上でしか感じられない体験をしてきます」
言っている意味はよくわからない。
けど、知りたければ体験してみろというのは理解できた。
楓さまと変わるように列整理から抜け、ステージ裏に向かった。




