音野咲高校二次元研究部
「あ、ヤマトさん! こんにちは!」
「フーちゃん様、お疲れさまです」
僕が3番目に来たサークルはコスプレイベントが終わった後にあったフーちゃん様がいるサークル。
サークル名は【音野咲高校二次元研究部】。
準備中に見た感じ、僕とどこまで変わらない感じの子が多かったので、恐らく高校の部活仲間だと思う。
「ちーちゃん! ヤマトさんが来たよー!」
「え! 嘘っ!?」
僕と一緒に写真を撮った女の子はちーちゃん様というらしい。
【音野咲高校二次元研究部】のブースはすぐ後ろに扉がついており、その奥から声が聞こえた。
ちーちゃん様は口を掌で隠しながら扉の後ろから出てくる。
見た感じお昼と取っていたみたい。
「あ、先生は出てきちゃダメ!」
「いやいや。ここは教師として、主催者側には挨拶しないとダメだろ」
ちーちゃん様の後ろからはかなり野太い声。
部活だから教師がいても当たり前だけど、【二次元研究部】からはどんな先生か想像できない。
「あー、ダルマ先生出てきますね~」
「だ、ダルマ先生?」
「はい、生徒の間ではそう呼ばれている先生です」
ダルマと言えば赤くてまん丸い置物。
それを思い浮かべると小太りしたオタクのような先生が想像できる。
けど、野太い声の小太りした先生……想像できない。
少し興味本位で扉の隙間から奥の方を覗いてみると、最初に見えたのは小麦色にやけた肌。
更に想像がつかない。
少しの間待っていると扉が開き、見えたのはとても大きな体。
服装はジャージ服だけど、大きい体とジャージが全然あっていないせいで、その人の筋肉のラインがしっかりと浮き出ている。
顔に関しては壁の後ろに隠れている。
身長も高い。
頭を低くして中に入ってきたのはスキンヘッドで爽やかスマイルを浮かべるの大きな男性。
正直に言うと、少し興奮している。
ジャージ越しでもわかる筋肉もそうだけど、一番はやっぱり小麦色にやけた肌にスキンヘッドの頭。
爽やかスマイルが筋肉をさらに強調している。
「これはこれは、初めまして。私、音野咲高校で家庭科教師をしています、大類誠と言います。生徒からは相性を込めてダルマ先生と呼ばれています! 本日はわが校の【二次元研究部】を参加させていただきありがとうございます!」
「え、あ……はい。こちらこそ、参加していただき、感謝の言葉しかありません」
僕もしっかり感謝の言葉を述べるけど、今はそれよりも気になってしまうことがある。
てっきり体育教師、大穴で数学教師を予想していたのに、まさか家庭科の先生だとは思わなかった。
態度も含めて、熱い先生に見えるのに、さっきまでは生徒と一緒に汗を流す姿が想像できたのに、今は小さいエプロンを身に着けて笑顔で授業をする様子しか思い浮かばない。
「あ、僕は神無月ヤマトと言います」
「おお! あなたがあのヤマトさんですか! うちの学校でもたびたび生徒が話題にしてますよ。何でも私のような筋肉質な男性が好きだとか! ……触ってみます?」
「ぜひ!」
目の前でポージングをとるダルマ先生様の筋肉を指で触る。
触って分かった。
この筋肉はとても上質なもの。
恐らく、常日頃から愛を込めてお世話をしている。でないとこんなにも上質な筋肉にはならない。
「ダルマ先生。後ろに戻って」
ダルマ先生さまの筋肉を堪能していたのに、後ろに引き離されてしまった。
「お、どうした? 千佳。嫉妬か?」
「うるさい。筋肉ダルマ」
「あっはっは、褒めるなよ~」
ダルマ先生は笑いながら扉の奥へと戻っていった。
「そ、それでヤマト様、本日はどのようなご用件で!?」
「あ、えーっと、少し物販のものを見に来ました。こちらのサークルは同人誌ではないんですね」
「あ、はい。私たちのサークルは同人誌ではなく同人ゲームを販売しております!」
「同人ゲーム?」
普通の会社が作ったゲーム、それこそ【宝命生】のゲームはたくさんやったことあるけど、こういうイベントで売られているゲームは初めて見る。
「はい! あ、せっかくなので遊んでいきます? ちーちゃんが発案したゲームなんですよ!」
「どんなゲームなんですか?」
「あ、はい。その……ヤマト様の演技力を取り入れたゲームになっていて、似ている遊びだとだるまさんが転んだ……です」
「だるまさんが転んだ」
「転んでないぞ! あと先生な!」
「先生のことじゃないよ!」
「あはは」
だるまさんが転んだ。
僕はした記憶がない。
確か、鬼が前を向いているうちに前に進んでいくゲームで、鬼が振り返ったときに動いたらアウトの遊び。
「やってみますか?」
「はい!」
いったいどんなゲームなんだろう。
僕の演技力を取り入れたって言ってたから、普通のだるまさんが転んだとは違うんだろうけど……。
「それではスタートしますね!」
「お願いします」
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『げーむおーばー』
ひらがなで書かれた終了画面を見て一息つく。
一言で言えば大変だった。
ゲーム自体は面白かったけど、難易度が高く何度かコンティニューしたけどクリアできなかった。
ゲームの内容を簡潔に言うとプレイヤーはゲームマスターが指定した格好をしないといけない。
ゲームマスターが見ていない間は指定された格好でなくてもいいが、見ているときに指定された格好でないと捕まってしまう。
僕の演技力というのはその格好のことで、衣装を着てゲームマスターが見ているときは衣装から想像されたポーズをとる。
最後に鬼にタッチできたら勝ちというシンプルなゲームでとても難しい。
とても面白いかった!
内容もそうだけど、イラストのドット絵もしっかりしていてやっていて飽きることがない。
他にもいろいろあるけどやっぱり一番は……。
「音楽が最高でした」
高校生が作ったとは思えない曲の数。
特に衣装が変わるごとに音楽が変わり、時間がなくなってくると緊張感を漂わせる曲はものすごくドキドキした。
どんな人が作ってるか気になる。
「この音楽はどんな人が?」
「あ、えーっと。実は最近知り合ったネットの人でして……」
「私たちの学校の生徒じゃないんですよ」
「そうなんですか……」
どんな高校生か気になっただけに少し残念。
「あ、でも、今日このイベントには一緒に参加してますよ!」
「そうなんですか? ネットの関係は危ないんじゃ……」
「私はそう言いました。でもフーちゃんが、ダルマ先生が一緒なら大丈夫だって言ってきかなくて……」
「大丈夫だよ! ダルマ先生、あの見た目通り高校時代は風紀委員として何人もの生徒を公正させてるんだから!」
あの見た目で風紀委員だったんだ……。
でもダルマ先生さまが付き添いなら問題なさそう。
「それに、相手側も女の子だったし! しかも私たちよりも年下!」
「うん。しかもプログラムでバグが出たりしたら直してくれたもんね」
「……ん? 年下の女の子?」
一瞬頭の中に、僕の妹の顔が思い浮かんでしまう。
「はい。高校一年でいつもは地方に住んでいるらしいですけど、おばあちゃんの家に遊びに来ているみたいですよ」
「へ、へー」
高校生でおばあちゃんの家に遊びに来ているってことは来夢じゃないよね。
「因みに名前は?」
「えーっと、確か……」
「ケー・アールさんです」
ケー・アール。
どこかで見たことがある気が。
「千佳さん、風鈴さん! お待たせしま、し……た」
後ろの方から聞き覚えのある声。
まさかだよね……。
流石にないと思い振り返ると、そこには見知った、というよりも親の顔よりもたくさん見た顔の女子がいた。
「あ、ケーさん! お使いありがとう!」
「い、いえいえ。えーっと、そちらの方は?」
「あ、こちら神無月ヤマトさん! 私たちのゲームを遊んでくれたんだよ! ケーさんの音楽もものすごくおほめてたよ!」
「そ、そうなんですね。は、初めまして。私ネットで活動している【KR】と言います」
ああ、思い出した。
【K・R】
ローマ字に直すと『Kudo Raimu』になる。
漢字に直すと『久遠 来夢』
そこにいたのは正真正銘、僕の妹の久遠来夢だった。




