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高校受験に失敗したのでVtuberで才能を発揮します!  作者: 楪桔梗
第十一章 ヤマト、ママになる

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水無月嵐子の成長


太陽に流れというものを教わってから、私はヤマトの初配信を何度も何度も見返した。


いくら見返しても『流れ』って言うのがどんな風に見えるのかはわからないけど、なんとなく台本がどこか、アドリブがどこかは分かるようになっていった。


まぁ分かるまでに2日もかかっちゃったけど。


そして、これ以上ない正解を導き出した後に今の自分の実力を知るために、今日あったヤマトの配信を見返して、それも台本にしてみた。


分かる範囲で言うと、最初と最後の挨拶が台本なのは100パー間違いない。


問題は雑談の内容。

正直、最初の一回見たきりだとどこが台本でどこがアドリブかなんてわからない。


「太陽だったら流れって言うのですぐに分かっちゃうんだろうけどなぁ。私にはそんなものを見極められるすごい能力なんてないし」


でも、だからと言って何もしないつもりはない。


羨んだところでその能力が身につくわけでもないし、才能がないって痛感するのはもう慣れた。

だったらやることはただ一つ。


「たくさん見返して、理解していかないと!」


結局その日は深夜1時過ぎまで作業をして、寝ることになった。


~~~~~~~~~~


「…………ハリンさん。合格です」

「やったー!!」


台本を完成させた次の日、保仁の家に行ってすぐに台本を見せると待ちに待った『合格』という言葉をもらうことができた。


少し自信がなかっただけにとても嬉しい。


「どうやってこの台本を考えたんですか?」

「なんていえばいいんだろう。4日間ヤマトの配信を見ながら考えてを繰り返したら自然にかな? あ、昨日の配信の台本も作ったけど見る?」

「お願いします」


急いで昨日深夜までかけて作った台本を保仁に見せる。


流石に太陽にヒントをもらって台本を完成させたって言うのは恥ずかしい。


保仁が台本を読んでいる間、私は緊張しながら待っていた。


アニメでよく見る漫画作家とかは編集者さんが読んでいるとき、こういう気持ちなんだろうな。


しばらく読んだヤマトは台本を閉じ、机に置いて少し笑った。


「では、次のステップに移りましょうか」


まさかの何の言葉もなし!?


そこはせめて褒めるとかあるんじゃないの!? っと、思ったりもするけど、ここは年上として我慢しないとね。


……あれ、


「ということは台本作成!?」

「あ、それはいいです」


違った!

って、はい?


「……え、どうして!?」


台本作成するんじゃないの!


「もともと台本作成能力を身につけるには、今やっていた課題だけで十分なんですよ」

「でも、もっと時間がかかるんじゃ……」

「ええ、本来はこの後に他の配信の台本も作ってもらおうかと思ってましたけど、昨日の配信の台本を作ってきてくれたおかげで必要なくなりました」

「台本作成は……」

「それは一度作って、自分で声出しをしながら修正していった方がいいですね。その方がハリンさんのためにもなりますし、僕が手直ししたらヤマト色になりますので」


それってつまり、私はもう台本作成能力は問題ないいてこと?

今まで一度も自分の台本を作ったことないのに、できる自信なんて私にはない。


お姉ちゃんならともかく。


「では次に配信者としての心得です。言っておきますけど、今のハリンさんにはこれが一番欠落しています」

「っ!?」


そうだ。

私はお姉ちゃんを超えるために早く上達しないといけないんだ。


無駄に自分の心配をしている時間なんてない!


私に欠落しているもの。

それが何かはわからないけど、お姉ちゃんを超えるためなら何だって受け入れる!


「まず一つ目にハリンさんに足りないのは、視聴者に対しての思い、ですね」

「思い?」

「はい」


保仁が何を言っているのか私には理解できない。


私の配信が視聴者に対して思いやりがないものってこと?


そんなはずはない!

はずはないのに、何も言い返せない。


「ハリンさんの目標は何ですか?」

「姉である獅喰蓮を超えること」

「そうですね。ですがそれを意識しすぎるがあまり、ハリンさんの配信は視聴者のための配信になっていないんです」


ぐぅのねも出ない。

確かに私はお姉ちゃんを超えるためにVtuberになった。


けど、保仁の言う通り私は配信の時にお姉ちゃんを超えることが必ず頭の中にある。



「ハリンさんって配信するとき獅喰蓮さんのことを考えてませんか」

「……」

「考えてますね。それが悪いとは言いません。ですが、配信するときは視聴者さんのことを考えてあげてください。ハリンさんの配信を見に来ているのは獅喰蓮さんではなく視聴者さんですから」

「うん」


そっか。

太陽と話していた時に感じたあの時の違和感。


あれはこのことだったんだ。


私はお姉ちゃんを超えるってことに固執しすぎて、私の配信を見に来てくれている人たちのことをちゃんと見てあげられていなかった。


「では次の課題です。今度は自分の配信を見て、その時の心情を書いてきてください。そして、自分の現在地点を見直すこと。今のハリンさんにならできます。頑張ってください」


ここでめげている時間なんてない!


私の最大の目標は今までと変わらずお姉ちゃんを超えること。

でも私の配信を見に来てくれるのはお姉ちゃんじゃない。


だったる私が今やれることは一つ。


「……そうね。お姉ちゃんを超えることに固執しすぎてたかもしれないわ。ヤマトの言う通り、自分の現在地点を見直してくる! また来るね!」

「はい」


保仁の家から飛び出して、自分の部屋に急いで戻る。


私がやれること。

それは見に来てくれる人達を私の虜にしてお姉ちゃんを超える!


そのためならこれまでの動画や配信も全部見よう。


~~~~~~~~~~


「……うぇ」


これまでの配信や動画を見て私が思った事。

それはただ単にひどすぎる。


正直見ていて吐き気がした。


Vtuberは活動周年記念をするときに、過去の初配信などを見返すことがあるけど、私のこれはそんな初々しいものじゃない。


正直に言うと汚物にしか過ぎない。


全く読まないコメント欄に、話の内容は全部私のどうでもいい話。

そりゃ、見に来る人が減っていくわけだよね。


こんな配信者、私なら一回見たら絶対見ない。


だけど、


「これも『流れ』って言うやつを覚えたからなのかな? 私の配信でたまに入る雑談って面白いやつとつまらないやつの両方があるんだよね」


正直、面白いやつに関しては保仁がコメントしてくれているからどれか分かりやすい。


つまり面白くないものに対してはコメントがないって言うこと。


他にも言えることがあるとすれば、私の配信はすぐにゲームスタートしてる分、オープニングがない上に、初めて見る人にはどういうゲームかが分からないようになっている。


つまり、これも視聴者のことを考えていないって言うことになる。


あと、一番最初に投稿した自己紹介動画に関しては完全に噛み噛みで聞き取りづらい上に、時折話が止まってしまうせいで、聞いてる私自身がストレスを感じてしまう。


これじゃ見に来る人なんているわけないよね。


でもおかげで配信者の心得って言うのがなんとなくわかった気がする。

ヤマトが私に言いたいことは今日言ってくれたことただ一つ。


見に来てくれている視聴者さんのことを考えといけないって言うこと。


私たち配信者が配信できるのは見に来てくれる人がいるからって言うこと。

何で忘れてたんだろう。


初配信をしたとき、その時は10人にも満たなかった人数だったけど、あの時は本当にうれしかった。


多分あの時間だけはお姉ちゃんのことを忘れて配信で来ていた。


本当に、なんでこんな大事なことを忘れていたのかな。


~~~~~~~~~~


「って言うのが私の答え。どう? 何か間違ってる?」


視聴者の大切さに気付いた翌日。

そのことをノートにまとめて保仁に見せてやった。


そのノートを見た保仁は、なんか楽しそうに笑った。


「あはは、凄いですよ。嵐子さん! たったの1日で気づくなんて」

「私、これでも獅喰蓮の妹だからね。というよりも! 昨日あれだけ言われたらいやでも気づくわよ!」

「それもそうですね」


今まで保仁のことをしっかりしたすごい子供だと思ってたけど、普通の男の子みたいに笑うこともあるんだ。


「僕たち配信者は視聴者さん、ファンの方々があってこそです。配信活動を始める動機はどうであれ、配信者として生きていくのなら視聴者さんたちのことを大切にしないといけません。それにすぐ気づけるハリンさんはもう立派な配信者ですよ」

「褒めても何も出ないわよ」


よっしゃー!

まさか褒められるのがこんなに嬉しいなんて思わなかった!


「さて、本来はあと一つあったんですけど、この様子だと大丈夫そうですね。では次で最後です」

「最後……」


なんだかここまで長かったようで短いような……。


でもこれで、新しく生まれ変わった『雨猫ハリン』として配信ができる!

モデルがどうにもならない分、最初の方はあまり人が来てくれないかもしれないけど、今はその人たちを大切にしよう。


「では最後のアドバイスです。言っておきますけどこれは心得でも何でもありません。ただ、有名になりたい、獅喰蓮さんを本気で越えたいならアドバイス通り使ってください」

「使うって何を、それにお姉ちゃんを本気で越えたいならって……」

「使うのは周りの人、それも知名度が高い人です」

「それって……」

「はい。獅喰蓮さんのような人に『雨猫ハリン』を宣伝してもらうんです」



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