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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
記念SS系

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2巻発売記念SSその2‗ムルムルと地方巡業

こちらも先日投稿したお話と同様に、今回発売する2巻にて初登場のムルムルの前日譚になります。

一部のキャラはしばらく登場しませんが、お楽しみいただければ幸いです。



「ムルムル様、次の地方巡業の予定ですが……」


「えっ⁉ またなの? まだ前の巡業から帰ってきて一週間ぐらいじゃない」


 私はムルムル。ちょっと変わった名前だけど、これでもシェルレーネ教の巫女をしているの。しかも、世界中に広がっているシェルレーネ教でも、巫女の人数は私を含めてたったの三人だけ。

 そんな私たち三人の巫女には役割分担がなされている。一番年上のテルン様は貴族の出身でお偉い様の相手を、真ん中のカレン様はあまり身体が強くないので、主に神殿で巫女として活動している。そして村生まれの私は各地方都市や、場合によっては他国への巡業がお役目だ。


「私が地方巡業へ行くのは分かるのだけれど、まだ帰ってきたばかりじゃない」


「すみません。近くの町で催し物をするらしく、神殿からも出席を是非にと先方から言われまして……」


 事情を説明してくれた神官から書類をもらい確認する。


「うっ、ここって神殿の活動に賛同して寄付してくれている商会がある町じゃない。これは断れないわね」


 書類には催し物の内容と参加する商会の一覧があった。いくつかはシェルレーネ教に協力的で、教会や孤児院へ積極的に寄付をしてくれているところだ。


「無下にはできないとはいえ、私ではいけませんか?」


 私が嘆息しているのを見かねてテルン様が声を掛けてくれる。ただ……。


「テルン様、申し訳ありません。テルン様には一週間後に王都で開かれるパーティーへの出席がございまして」


「それはしょうがないわね。私がテルン様の代わりに行ってもしょうがないし」


 王都でのパーティーなら教会が一国との関係を深めないようにしているとはいえ、貴族も参加するだろう。それなら私よりテルン様の方が適任だ。大体、村生まれの私にとってああいう場所は窮屈でしかないのよね。


「で、では、私が……」


「カレン様は待っていてください。行く町は安全ですけれど、結構埃というか砂が舞う町なので」


「ううっ、それでは私の出番はありませんね」


 カレン様は優しい人だけど、如何せん身体が弱いのでなかなか神殿の外には行けない。そもそも馬車旅で野営をするのも難しい。


「けれどあんまりです。せっかくお役目を終えて帰ってきたのに……」


「そうね。もう少しゆっくりさせてあげたいわ。ゼス枢機卿も寂しいでしょうし」


「べっ、別に枢機卿は関係ありません!」


 いくら婚約者だからって、そういうのをダシに使うのは良くないと思う。ただでさえ放っておいても構ってくるのに。


「ゼス枢機卿といえば、帰ってからもう会ったの?」


「いえ、それが昨日まで巡業報告書の作成をしていてまだなんです」


「それはいけないわね。次の巡業の予定は何時なの?」


「出発は明後日ですね」


 無情にも神官から予定が告げられた。巫女の出発ともなれば準備は周りがやってくれるけれど、それでも自分の荷物は自分で用意しないといけない。二日なら催し物の内容を確認して準備したら、あっという間に終わってしまう。


「さすがにそれは急すぎるわね。この書類を見る限り、開催は一週間後でしょう? もう少し出発を延ばせるよう私からも話をしてみましょう」


「あ、ありがとうございます、テルン様」


 巫女筆頭であるテルン様の意見もあり、何とか出発を四日後に延ばしてもらった私は、つかの間の休息を楽しんでいた。



「で、なんで私はあなたと過ごしてるのよ」


「何を言っているのですかムルムル。婚約者が休日を共にするのは当然でしょう?」


 隣で何食わぬ顔をして発言しているのが私の婚約者のゼスだ。枢機卿というシェルレーネ教でも高い立場にありながら、なぜか私の婚約者をしている変わり者だ。

 確かにシェルレーネ教の巫女といえば世界中に三人しかいない。だからといって教団内で滅茶苦茶、位が高いかと言うとそうでもない。地位としては各教会の長である司祭よりは上だけど、地方の教会をまとめる司教の下となりさほど高くはないのだ。

 巡業などの時は要望を聞き入れてもらえることも多いけれど、巡業自体に口を出せるほどではないのよね。


「本当に私の何が気に入っているの?」


「ふふっ、そういうところも好きですよ」


「何を言っているのよ! それより、今日はせっかく町へ出かける許可も取れたんだから早く行くわよ」


 真正面から恥ずかしいことを言われ、照れ隠しに町へと急がせる。でも、町へ行くのも大変だったりする。私の身分もそうだけど、ゼスは腐っても枢機卿。神殿から出るとなれば周囲はもちろんのこと、一般人に変装した神官騎士たちに護衛されるのだ。

 当然、許可を取る難易度も高い。今日の外出も急だから無理してるのは分かってるから、嬉しいのは嬉しいけどね。



「街に着きましたね。今日は何を見ますか?」


「何って言われてもね。細工物とか買っても付ける機会なんてないし」


 巫女は人前に出る時は正装だし、神殿にいる時も巫女見習いよりは良い服を着るけれど、華美な飾りは禁止なので飾り物なんて付ける機会がないのだ。


「でも、巫女を辞めたら好きに付けられるでしょう。今買っておかないと次には買えませんよ?」


 ゼスは私の言葉を無視して、ずかずかと細工屋へと入って行く。


「いらっしゃいま……す、枢機卿様!」


「やぁ。今日は婚約者を連れて来たのです。彼女に似合うものを」


「はっ、はい。光栄です」


 細工屋の受付をしていた女性が頬を赤らめながら返事をする。ゼスってば顔は良いのよね。いや、他にも気遣いもできて仕事もできるけれど。


「お願いするわね」


「かしこまりました」


 ゼスが見立てただけあって入った店はセンスのいい店だった。私の年齢に合わせたアクセサリーもいっぱいあるし、靴も合わせられた。


「ん~、どうかしら? 似合ってる?」


「ええ。完璧とはいきませんがよく似合っていますよ」


「……ありがと」


 私が着せてもらったのは白を基調としたドレスで、腰辺りから真っ青なオーバースカートを巻いた服だった。ただ、胸元の大きなリボンはちょっと子どもっぽいかも。手のグローブもいい生地だし、ネックレスに髪飾りまでセットで用意してくれた。


「う~ん。でも、もう少しカジュアルなものも着たいわね。あっ、これなんてどう?」


 私は端の方に飾ってあった服を手に取る。


「あっ、これ良いわね。動きやすいし、街を歩いても私だとみんな気づかないんじゃない?」


 選んだ服を身体に合わせてゼスにも見せてみる。上はタンクトップタイプで、肩を見せる長い袖が特徴的。下はショートパンツで足元はロングブーツ。腰巻は革でできていて、ちょっと冒険者っぽいのも気に入ったわ。


「なっ、どんな格好をする気ですかムルムル! それは破廉恥です」


「そうかなぁ。私ぐらいの年齢なら別に変でもないと思うけれど?」


 一般客の振りをしている神官騎士たちにもちらっと視線を送る。すると、神官騎士たちはこっそりグッとサインを送ってくれた。


「んんっ! 良いですかムルムル。確かにそのような格好をしている娘は見たことがあります。しかしですね、仮にも巫女であるあなたに相応しい格好ではありません。大体、肩と足を大胆に出すなど婚約者がいるのに……」


「もう、ちょっとくらいはいいじゃないの。ゼスは堅すぎるのよ」


 ゼスに文句を言うも買うのは諦める。こうなったら煩いからね。代わりに店を出る際、近くにいた神官騎士に目配せする。これであの服を買っておいてもらえるだろう。


「さて、服も見ましたし次は食事にしましょうか」


「いいけどゼスが案内するところじゃいかないわよ。堅苦しいんだもの」


 私の婚約者はさすが枢機卿。招待されるレストランも一流店ばかり、味はいいけれど形式ばっていて私はそこまで好きじゃない。それだったら町の定食屋の方がいい。


「私は構いませんが、少々待ちますよ?」


「うっ、そこはしょうがないわよ」


 今回お邪魔した細工屋は店舗も狭いし、ゼスのことだから事前に手を回したんだろうけれど、定食屋さんでは無理だ。最低限の護衛も一緒に入店してって考えると、昼時の席数が四席は必要だろう。かといって巫女とか枢機卿の特権を使うのも町の人に悪いし……。


「はぁ、街の人にも迷惑がかかるし、仕方ないからゼスが案内してよ」


「分かりました、お嬢様」


 執事のように恭しく頭を下げ、私の手を取るとゼスはレストランへ連れて行ってくれた。そんな感じで出発までの日を過ごし、いよいよ町へ行く日になった。



「では行ってきます。テルン様、カレン様」


「ムルムル、気を付けて行ってきなさい」


「ムルムル頑張ってね!」


「はい、カレン様も私がいない間のお勤め頑張ってくださいね」


 二人に挨拶をして馬車に乗り込む前にその横にちらりと目をやる。


「ゼスも真面目に頑張りなさいよ」


「ムルムルはほどほどに。次に帰って来る時はもっと休めるようにしておきます」


「あんたが言うとシャレにならないからやめなさい。それじゃあ、行ってくるわ」


「気を付けて」


ゼスが私に近づくとふわりと抱きしめる。


「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいじゃない」


「恥ずかしいことなどありません」


 みんなに見られながらしばらく抱き合ったのち、馬車に乗り出発した。


「はぁ~、全くしょうがないわね。ゼスったら」


「まぁまぁ、枢機卿様も寂しいのですよ」


「エスリンは他人事だから良いわよね」


 一緒に町へ向かう付き人のエスリンに言い返すものの、笑顔でスルーされた。


「せっかく他の町へ行くのですから、お土産を買われてはいかがですか? いつもお金の使い道がないと嘆かれているでしょう」


「せっかくだし、そうするわ」


 エスリンに言われ、今から行く町に何があるか考える。


「どうせ買うなら、びっくりさせたいわね」


「枢機卿様がびっくりするくらいの物なら、頑張って探さないといけませんね。私も手伝います」


「エスリンだって見たい物があるでしょう? 無理しなくていいわよ」


「では、ついでに探しますね」


「全く、みんな構いたがりなんだから……」


 小さな声でひとりごちて、再び町へ着いた後のことへと思いを馳せる。その町で私の人生にとって大きな出来事があるとも知らずに。



 馬車を走らせ町に到着した夜、不意に意識が奪われたと思ったら、目の前にはシェルレーネ様がいた。


「私~、私だけなの~~!」


「シェルレーネ様。もう少し丁寧な説明をしてください!」


「だって、私だけなのよ~」


「あ、頭に響きますからおかしな神託はやめてください」


「じゃあ、アルバの町にいるアスカという細工師に私の像を作るように依頼して」


「分かりました。だから、もう少し神気を抑えてください」


「あっ、ごめん」


 神様が常に出している神気は思いによって増幅される。今回のシェルレーネ様は強い思いがあるみたいで、私は神気に当てられてしまったのだ。よほどの思いなのか、神託を受けた後も頭の中で言葉が響き続けるので、私は町での用事を終えると直接アルバへ赴くことにした。


「シェルレーネ様にも困るわね。でも、わざわざ指名するぐらいだから高名な方なのかしら? 早く神託を終わらせたいから話の分かる人だと良いわね」


 こうしてアルバに着いた私が依頼を出すと、数日後に一人の少女が目の前に現れた。


「あ、あの、私は教会の依頼を受けて神像を作ったものです。出来たので持ってきたんですけど……」




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