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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
その後のお話

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アスカとバレンタインデー

この話はアスカがアルトレインにやってきて8か月後の話になります。

「もうすぐ、バレンタインデーかぁ」


 お昼ご飯を食べて食堂でまったりしていると、ふと日付が気になった。今日は二月十二日、明後日はバレンタインデーなのだ。まあ、当然ながらこの世界にそんなイベントはないけどね。


「おねえちゃん、ばれんたいんでーってなに?」


「エレンちゃん。えっとね……なんて言えばいいのかな? 気になる人とかお世話になってる人にチョコを送る日?」


「なんで疑問形なのよ、アスカ」


「エステルさん。もうお昼の片づけはいいんですか?」


「ええ。それでさっき言っていたチョコって何?」


「う~ん。えっと、カカオっていう豆から作るお菓子なんですけど……」


「けど?」


「作り方はちょっと……店に売ってるものでしたし。それに大量の砂糖を使いますよ。そのままだと苦いって聞きますし」


 カカオ90何%なんて言う商品もあったはずだ。お父さんは美味しいと言っていたけど、苦い物も食べるお母さんですら、渋い顔をしていたのを覚えている。


「それは宿じゃ無理ね。せっかく新しいレシピかと思ったのに」


「エステルさん、作るつもりだったんですか?」


「アスカが言い出すんだし、珍しい物なんでしょ?」


「まあ、私も街で見かけたことはないですね」


 美味しいものを美味しく食べるこの世界じゃ、受け入れられないだろうしなぁ。砂糖がうんと安くなったら分からないけど。


「それでおねえちゃん、さっきのバレンタインデーって結局なにかの記念日なの?」


「えっと、偉い人の誕生日?」


「よく分からないのに贈り物をする日なの?」


「う~ん。まあ、方便みたいなものなので……」


「へ~、旅の人からも聞いたことないけどな~。だれも分からないならイベントごとにもできないね」


「そうだね。今日はバレンタインデーですって言ってもみんな分からないもんね」


「けど、集客にはいいかもしれないわね」


「えっ!?」


「ほら、アスカの住んでたところの記念日ですよ、って宣伝すれば食いつくお客さんもいると思うわ」


「そうですか?」


「それいい考えかも! エステルさん、お父さんにも話してくるね」


「お願い。あっ、でもライギルさんよりミーシャさんに言った方がいいかもしれないわ。予算にも関わるし」


「そっか、ありがとうエステルさん」


 繁盛のタネになると思ったのか、エレンちゃんがミーシャさんの元に駆けていく。別に私だけが知ってる知識を宣伝しても意味がないと思うけどなぁ。でも、こっちに来て特定の日を祝ったことって誰かの誕生日か年末年始ぐらいだし、たまにはいいかな?

 そういえば私の誕生日っていつなんだろ? 記憶にはないし、機会があったら今度決めておこうかな?


「それでアスカ、代用できそうなものの当てはないの?」


「う~ん、砂糖がないことには」


「それじゃあ、料理の方で補いましょう」


 どうやら宿の中でバレンタインデーをするのは決定みたいだ。私もアルトレインで生活を始めて半年以上経つし、イベントごとには興味がある。そういう時にどんな料理が出るのかとかも気になるしね。



 それから二日後。いよいよ今日はバレンタインデー当日だ。あれから夕飯の最中に宣伝はするし、張り紙も色々な店に張るしでちょっとした規模になった。最初はうちだけの予定だったけど、便乗して限定メニューを出す店も出たそうだ。


「さて、今日は力が入るわね」


「エステルさんはどんなメニューを作るんですか?」


「それはお昼まで秘密。楽しみにしててね。ライギルさんと連日考えたんだから」


「分かりました!」


 二人ともやると決めた当日からずっとメニュー開発してたし、楽しみだなぁ。


「いよいよ、お昼かぁ。行こうミネル、レダも!」


《チッ》


《チュン》


 ミネルとレダを引き連れて食堂へ下りる。事前の宣伝効果か、始まったばかりだというのにどんどん人が入ってきた。


「あっ、おねえちゃん来たんだね。席はちゃんと開けてるからどうぞ」


「ありがとう。それじゃあ、バレンタインスペシャルをお願いね」


「は~い。ミネルたちにも用意してるから期待してて」


 エレンちゃんの言葉を聞いて、二羽とも嬉しそうにパタパタとテーブルの上を飛び回る。


「ほら、あんまり目立たないようにね。嬉しいのは分かったから」


《チュン》


 びしっと片翼を頭に持って来て、了解と返事をするミネル。


「そんな芸、どこで覚えてくるの?」


 宿の人以外と交流はほとんどないはずだからジャネットさんかなぁ?


「おねえちゃんどうしたの?」


「エレンちゃん。ちょっと考えごとしてたの」


「そうなんだ。はい、料理持って来たよ」


「ありがとう」


「ミネルたちにもこれど~ぞ」


 エレンちゃんが持ってきた料理は……お好み焼きだった。さすがに麺は挟んでなかったけどね。細い麺を均等に切るのって大変そうだし。


「美味しそう~!」


「おねえちゃんが前にちらっと言ってた料理をなんとか再現したらしいよ。合ってた?」


「うん! 合ってる合ってる。それじゃあ、いただきま~す」


 私はさっそく、マイ箸を取り出してお好み焼きを口に含む。ちなみにミネルたちにはお好み焼きに使用したであろう野菜がふんだんに盛り合わせてある。


「ん~、熱くて美味し~! エレンちゃん、二人にありがとうって言っておいて」


「分かった。それじゃあ、ゆっくりしてね」


「うん」


 こうしてバレンタインデーにお好み焼きを食べるというイベントは終了した。ちなみにお好み焼きは好評だったのでライギルさんはメニューに加えようとしたけど、そこそこの準備と焼くのに時間がかかるから没になった。温め直したら美味しくないのが響いたようだ。


「ふわふわ感が消えちゃうからしょうがないよね」


 そう言いながら私は発案者としてたまにリクエストするのだった。



 その日の夜。


「あのさ、今日って日頃の感謝とか気になる人に物を送る日だって聞いたんだけど……」


「そうだよ、リュートさん。なに? 日頃迷惑ばっかりかけてるのに、何か貰えると思ったの? それならエレンとかエステルさんが先に貰えるよ」


「そうよ、リュート。もっと強くなってアスカを守れるぐらいになってから、そういうことは言いなさいよ」


「アスカを守る? うん、僕頑張ってみる!」


 こうして、やる気に満ち溢れた若者がひとり誕生したとかしないとか。


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