ムルムル3日目
本当はこのまま午後市に行きたかったけど、今日はムルムルが午後の早い時間から色々な人と会うので、ここまでになった。
「はぁ~、残念ね。また明日会いましょう」
「はい!」
ムルムルと別れて宿へ戻る。さっき貰ったアイデアを早速描き溜めないとね。まずは絵を描くんじゃなくてアイデアを箇条書きにするぐらいだけどね。
《リィ》
「ん、どうしたの? ご飯にはまだ早いでしょ?」
《リィリィ》
サンダーバードたちが近づいてきたと思ったら裏庭に連れて来られた。どうやら最近、私と遊ぶ機会が少なかったから、遊んで欲しいみたいだ。
「それじゃ、空でも飛んで遊ぼう。ただし、あんまり高く飛ばないでね」
そこまで飛行が得意でないサンダーバードたちだけど、それでも鳥は鳥。私よりも飛行は得意なのだ。
私は風魔法のフライを使って、空の追いかけっこをして遊ぶ。ただ、風の魔力でブーストをかけるとすぐに追いつくようになった。
「ふふっ、ちょっと本気を出せば逃げられないでしょ?」
《リィ》
すると、怒ったのか木の近くにレールのような光が走る。
「ん? 何?」
するとその光のレールを滑るように、一瞬で足元にいたサンダーバードが木の上に移動した。それを見た他の鳥たちも真似し出して、それ以降は捕まえるどころか触れることすらできなくなった。
「えっと、こんなこと出来たんだ?」
「アスカがばかにするから、みにつけた」
ティタ先生によるとそういうことらしい。野生だと生き延びるために新しい力を求めるらしいけど、まさか私がその扉を開いちゃうなんてね。
というか、サンダーバードたちがろくな魔法を知らなかったのって、光だけで他の魔物を追い払えたからじゃないかな。
「もう降参するから降りて来て~」
《リィ!》
ふぅ~、ようやく機嫌が直ったみたいだ。まあ、あんまり私と魔力も変わらないし、考えてみれば適性があればあれぐらいできて当たり前かもね。
「ほら、ご飯もらいに行こう?」
ティタを肩に乗せ、サンダーバードたちを引き連れて食堂に入る。
「あら、今日は連れて来てくれたのね。ありがとうアスカちゃん」
「ミーシャさん、いつもは迎えに行ってるんですか?」
「ええ。たまにその辺に寝転がってたりするのよ。街に来て安心してるからかしらね。特に宿の中だとどこでも寝てるわよ」
「そうなんですね。ご迷惑になってませんか?」
「お客さんからは珍しい鳥だって結構かわいがられてるわ」
世間話の後は食事を取って部屋に戻る。今日は早く寝て明日に備えないと。
「良かった。起きられた」
無事にティタに乗られることなく起きた私は朝食を取って準備をする。今日のお昼までムルムルは打ち合わせとか訪問先に行かないといけないので、会うのは午後からだ。その前にちゃちゃっと済ませるものから片付けていかないとね。
「まずは銀を出してと。これは以前に出した小さい塊でいいよね。中央はエッグにして石は……この浄化石にしよう」
浄化石は自然に作られる輝石の一種で、簡単な毒なら治療することが出来る。水魔法にもそういうのはあるけど、毒の正体が分かって吸い出す感じになるので難しいのだ。これにバーナン鳥の翼を付けてと。
「イメージとしてはこんな感じだね。後は実際にやってみよう!」
時間も限られてるし、もたもたしてるとムルムルが来ちゃう。翼を両面表側にしたので、そこに四苦八苦しながらも何とか作り終えた。
「ふぃ~、冒険に行かないからいいけど、結構MPを消耗しちゃったな」
翼以外に時間がかかったのは固定具の製作ぐらいだ。早速首にかけてみて試してみる。
「うん! チェーンの長さもいい感じだし、これでいいかな。後は指輪かぁ」
指輪ってカットで値段が決まるんだよね。でも、魔力があるこの世界じゃ、魔石は削ると力が弱まるからあんまりそういうのは発展してないんだ。
しても丸形にしたりと整える程度だ。ボタンやカフスに使うのにね。おかげで貴族を描いた絵画はとんでもないことになっている。
「あれじゃ、メリケンサックだよ」
各種守りを付けるため各指に魔石をはめる。そうすると石が大きいからまさにそれっぽいんだよね。ネックレスと違って千切れることもないし、人が驚く時って結構手を前に出すから発動しやすいらしいけど。
「私が分かるのはおもちゃレベルだけど、まずはそれからやってみるか」
おもちゃと言えど簡単に機械で加工できたから、品質的にはそれなりのはずだ。模様が混じったり、線が入ってしまった魔石を元に試作する。
「その前にピンセットを作らないとね」
多重水晶用の専用治具はあるけど、ピンセットは作ってなかったし。別にお店にも売ってるけど、これぐらいの鉄は余ってるから手間を省ける。
「それに自分で作れば品質も一定だしね」
おじさんも道具は仕入れだから、手作業か魔道具による製造が主なこの世界じゃ、精度がまちまちなんだよね。結局、魔道具で作った物は高くて手作業のは仕入れの運しだい。もうこれなら作った方が早いのだ。
「こんなもんかな? 次は石のデザインだね。これは斜めに筋が入ってるし、もう気にせず一気にやっちゃおう」
上手く行けば柄として取り入れられるし、駄目でも格安な魔石なので大したことはない。でも、デザインを描き始めるとある点に気が付いた。
「柄があると毎回イメージが違っちゃうなぁ」
私が使っている魔道具はあくまでイメージ通りに加工ができるものだ。毎回柄の違う宝石だとイメージが異なって、上手く削れない可能性がある。
「こういう時に機械は良いよね。そんなの関係なしに一定の大きさにすれば削ってくれるんだし。イメージかぁどうしようかな? カット案だけ出して手作業にしようかな?」
一瞬そう考えたけど、それは宝石に高い価値があるからできることだ。魔石と宝石の価値を比べると、宝石は価値が安定しているけど、魔石があるおかげで全く手が届かないほどではない。
そこに手作業での細かい作業を入れると収益どころの話ではなくなってしまう。
「うう~ん。何か考えておかないとな~。メインの売り物じゃないけど、加工費がかなりの金額になっちゃうよ」
手ごろな指輪を作るには製作時間の短さが大事だ。魔道具を使って半日で作る物をさすがに大銅貨四枚では売れない。悩んだ結果、上からと斜め上から上下左右に斜め下から上下左右の九回の加工にすることにした。
「これに研磨に洗浄工程か。大丈夫かな? 魔道具だと花びらとか葉は一度に加工するから、カットはそれに比べてかなり多い加工回数なんだよね」
私が目指すのは庶民でも楽しめるおしゃれだ。これを目指すにもここは避けては通れない課題なのだ。
「一度、加工してみないとね。せっかくだしバラに見えるようなカットにしようかな」
私は製作物の中でも色々と使ってきたバラに似たようなカットを試す。細かいところは違うと思うけど、何度もやってみて形を探していかないとね。と思っていたらドアがノックされる。
「おねえちゃん、そろそろお昼食べようよ~」
「は~い」
色々考えているうちにお昼になっていたらしい。慌てて服を着替えて食堂へ行く。ムルムルとは十四時の鐘で待ち合わせてるから間に合うようにしないとね。
「今日は何ですか?」
「今日はロールキャベツよ。それに鳥のソテーね。香ばしくなるようにしてるから美味しいと思うわよ」
よく見ると野菜のカットが綺麗だ。今日はエステルさん作なんだな。エステルさんも自分の店を持つという目標に進むため、最近では自分の店を持った時の飾りつけなんかを前以上に試行錯誤している。
目指してるのはレストランとカフェの間ぐらいのお店だ。ライギルさんは調理時間の短縮に重点を置いてるからこういう飾りは少なめだ。
「前より綺麗ですね。最近、ライギルさんと作る時の違いがはっきりしてて、出てくるのが楽しみです」
「そう言ってくれて嬉しいわ。でも、私が店を開く頃にはアスカは旅に出ているから、来てくれないのよね」
「そんなことありませんよ!」
「あら? 旅から帰ってきたら宿じゃなくて、私の店に来てくれるの?」
「そ、それは……」
困ったな。確かにエステルさんの料理も好きだ。煮込み料理とかはライギルさんに負けるけど、ちょっとした副菜とかが美味しいんだよね。後は蒸し料理も美味しい。これをどっちかなんて選べないよ。
「冗談よ。だけど、ちゃんと食べに来るのよ。アスカの旅がどれぐらいになるか知らないけど、その頃には店を開いていると思うから」
「必ず来ますからね」
美味しい食事を取った後は準備だけど、せっかくだしネックレスも持って行こう。
「後は何があるかな? 今日は午後市を見るぐらいだし、夕食はフィアルさんのお店だから心配いらないしなぁ。一応冒険者の格好をしようかな?」
あんまりムルムルの前ではしないし、この辺で冒険者アピールをしていこう。そうと決まればアームガードを付けていく。
「よし完全装備だ! 行こうティタ」
「うん」
外に出ようとしたらリンネたちの小屋が目に入った。今はゆっくりしているみたいだ。後ちょっとしたら孤児院の子の付き添いもあるしね。と目を離そうとした時、びっくりした。サンダーバードが一羽リンネの上に乗っかっているのだ。
「よく見るとソニアの方にも……二羽いるから四羽家族の方だね」
町に来てからサンダーバードたちはすぐに動物たちと仲良くなった。特にこの二羽は人とも打ち解けている。だけど、一応リンネたちとは一緒の生息域だし、お父さんたちは多少警戒してるんだけどな。
《リィ》
私に気づいた二羽がこっちを見てくる。
「元気? 私はちょっと出かけてくるから、リンネたちの代わりにお留守番しててね」
《リィ》
いい返事をしたと思ったら、小屋から出て来て私の足元に来た。そのまま出発すると後をついてくる。
「ひょっとしてリンネたちが外に出るのを遊びだと思ってるのかな? あっちはお仕事だよ」
《リィ!》
それでも外に出てうらやましいとのことだ。いや、君たちは自衛できないからね。この子たちは街ではたまに飛ぶ鳥として認知されている。
たまにというのも移動にはもっぱら人を使うのだ。頭だったり肩だったりに乗って、まるでヒッチハイクのように乗り継いで宿まで帰ってくる。
「でも、私の時はトコトコ後ろをついてくるんだよね。なんでだろ?」
まあ、運動になってるから良しとしよう。私はムルムルとの待ち合わせに遅れないように目的地へ向かった。




