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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと冬と旅立ちの準備

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巫女の散策


 この町に再び訪れたムルムルにプレゼントも渡せたし、いったん今日はここで帰ることにする。


「それじゃあ、今日はこの辺でね」


「ありがとう。早速明日持って行くから!」


「うん。楽しみにしてる」


 やっぱりシェルレーネ様の巫女だけあってムルムルは忙しくて、夕方からはこの町の責任者の人と、明日以降もその時間は偉い人たちと会うんだって。

 三日目以外は夕食も場所が決まっているそうだ。その日ぐらいは夕方に予定もないから、私と一緒に食べられるって言っていた。



「でも、大変だよね~」


「何がおねえちゃん?」


「そりゃあ、巫女のお仕事だよ。私たちが見るところって言えば、何かの時に舞を披露するぐらいじゃない? でも、実際はそのために旅もするし、練習もするし、貴族の人たちや商人たちとも会食するじゃない」


「美味しいもの一杯食べられそうだけどね」


「そりゃあそうかもしれないけど、お偉いさんに囲まれちゃったら、好きなように食べられないじゃない?」


「そうだね。だったら、おねえちゃんには一生無理だね。貴族恐怖症なんでしょ」


「恐怖症って……まあ、あながち外れでもないけど」


「そうよ。アスカを追い払いたかったら子どもでも貴族が来たって言えばいいんだから。はい」


 エステルさんがからかいながらジュースを持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「こっちこそ、この前のグラドンセのお肉ありがとう」


「いいえ。たった町一つ離れただけの魔物ですよ」


「町一つも離れたね。はぁ~、最近は大人しくなったと思ってたのにまだまだね。いいアスカ、グラドンセは王都ーレディト間には出ないのよ」


「知ってますよそれぐらい。草原の魔物ですよね。私だって冒険者なんですよ」


「おねえちゃん……」


 おおっと、ここで妹からの評価が少し下がった気がする。何か間違ったこと言ったかな?


「そんな話をしてるんじゃないの。いい、王都とレディトの間には出ない。ということはレディト在住の冒険者がわざわざ草原に行って、狩ってこないと手に入らないのよ。それをアルバで手に入れるには冒険者からギルドを経て、商人か商人ギルドをさらに経て、この町にやってくるの。そんなお肉が滅多に手に入ると思う?」


「思わないです……」


「レディトじゃそこそこ見かけるのかもしれないけど、それが王都に行くならともかく、王都からの商品を運ぶ途中のアルバに卸されるなんてまずないのよ。店で仕入れようと思ったら、わざわざ出入りしている商会に料金上乗せで頼むしかないんだから」


「でも、私みたいな定期的にレディトへ行く冒険者に頼んだらいいのでは?」


「アスカはレディトに行ったら、どのぐらいの頻度で草原に行くの?」


「うう~ん。エヴァーシ村に行ったのはまだ数回ですし、あんまり行かないですね」


「でしょ? レディトまでとそこから草原への移動時間にパーティーで草原の依頼を受ける説得と、さらに帰りのスペースよ。肉に何割上乗せすればいいのか分からないわよ。隣町で手に入るって言うのはね。本当に町中で簡単に手に入る物だけなのよ。あなた本当に旅に出るんでしょうね? 心配になって来たわ」


「大丈夫ですよ。いざとなればジャネットさんとリュートがいますから」


「……そうね。リュートには絶対に目を離さないよう言っておくわ」


「おねえちゃん、それよりバッグどうだった?」


「バッグ? もちろん喜んでもらえたよ! 明日また買い物に付き合うんだけど、付けて来てくれるって」


「それはよかったわ。手が空く度にこれはどう、あれはどうと聞かれた甲斐があったわね」


「その節はご迷惑を……」


 無理にMPを回復させて作業してたからか、最後の方はハイになって遠慮というものがなくなってたんだよね。一種類完成するたびに食堂へ下りては二人に聞きまくったから。


「おねえちゃん、ちゃんと約束守ってよね!」


「分かってるって。でも、ムルムルが帰ってからでもいい?」


「もちろんよ。普段、簡単には会えないんだから思う存分会って来なさいよ」


「ありがとう、エステルさん。ところで二人とも何色がいい?」


「私はグレーがいいわね。でも、白っぽいのでお願い」


「わたしは黄色っぽいというかちょっと茶色が混ざった薄めの黄色かな?」


「エレンちゃん。なかなか難しいチョイスだね」


「どうせもらうなら、一番気に入ってる色が良いんだもん」


「じゃあ、今度切れ端使って見本持ってくるから、二人とも意見聞かせてね。思ったのと違ったら言っていいから」


「それにしても細工といい、バッグといい、どんどん色々な物に手を出すわね」


「まあ、器用さが取り柄ですから」


 実際そろそろ魔力を器用さが追い抜くほどだしね。最初にステータスを見た時は魔力高っ! って思ったけど、まさかそれを超える能力が芽生えるなんて思わなかったよ。


「旅と言えば資金集めは順調なの?」


「そこそこ……ですかね?」


「何でおねえちゃんが疑問形なの?」


「だって最初はね、金貨百枚貯まったら出かけようって思ってたの」


「まあ、それぐらいあれば怪我したり、何かあった時にも町に滞在できるし安心よね」


「でもですね。何故かそのぐらい貯まる度にお金が消えていくんですよ」


 マジックバッグだったり、ハイロックリザードの皮だったり、それを使った装備の依頼料だったりとね。ようやくまた貯まりそうなんだけど、今度こそはごっそり減らないといいなぁ。


「結局そういうところよね、冒険者って。危険なことに首を突っ込んで、大金を手にしても次に依頼を受ける時に安全にって言って、せっかくのお金を使っちゃうのよ。お酒みたいなものね。お金が貯まったら店で飲んで、気分が良くなってまた飲む。アスカは大丈夫だと思うけど、それでも心配だわ」


 きっとそれは冒険者を泊める宿で働くエステルさんの本音なんだろう。今日は良い獲物が狩れた、もうかなり金が貯まった。そういうけど多くはそのまま冒険者を続ける。

 多くの危険を乗り越えて、一生暮らせるお金が手に入ったのに、なぜまだ危険に身を置くのか。儲けたと話していた男が二度と来なかったこともある。


「エステルさんは冒険者に否定的ですか?」


「そういうわけじゃないのよ。ただ、アスカがこうやって珍しいものを持ってきてくれるけど、その度に最初に思うのは良かったってことよ。無事に帰ってきたからこれがあるんだなって。ノヴァたちにもね。本当は町で暮らしてくれたらなって思ってるの。まあ、あいつらは聞きはしないだろうけど」


「リュートは最近、旅の最中に作れてお手軽な調味料に興味あるし、ノヴァは腕試しがしたいって言ってますもんね」


「全く頭の痛い話ね」


 その日はそれから夕ご飯を食べて、ぐっすり眠った。まあ、なんだかんだで昨日の疲れが残ってたみたい。



「ふわぁ~、良く寝た」


 でも、ちょっと寂しい朝だ。ミネルたちはこの四日間、ムルムルのところに泊まるので残念ながら部屋にはティタと私しかいない。


「ん? ティタ、机の上で何しようとしてたの?」


「おこそうとしてた」


「それ、痛いからやめて」


「でも、いちばんはやくおきる」


「それはそうだけどね……」


 残り三日間、絶対に早起きしてやると私は誓った。


「それより今日は朝からお買い物に行くんだ。ティタも来る?」


「いく」


「じゃあ、このバッグにしよっか」


 私は試作段階のリュックを改造した物を取り出す。一番上のところに板を入れて水平を保つ作りにして、さらにバッグを閉じると、ティタがつかまれる持ち手があるという作りだ。


「さっ、つかまって。行くよ~」


「アスカ、ごはん」


「わ、分かってるって。用意して食堂に行くだけだから」


 朝食を忘れずに食べて、待ち合わせの朝市の近くへと向かう。


「ムルムル、待った?」


「ううん、私も今来たところよ」


 何だかどこかで聞いたような会話だ。違うところがあるとすると、後ろには神殿騎士がいるってことかな?


「アルナたちは?」


 絶対、ついてくると思ったのにな。


「ここでアスカに会わせたら私以上に懐いてるってばれちゃうでしょ。何とか理由を付けて教会に預かってもらってるわ」


「さすがはムルムル様ですね」


「ムルムル様、この者は? 昨日も会っておられたようですが……」


「この町の知り合いよ。普段はレダたちのお世話をしているのよ」


「そうでしたか、レダ様の……。失礼いたしました」


「いいえ、私も神殿騎士に会う機会はないので、お会いできて嬉しいです」


 嘘は言ってないよ。ムルムルに会いに来た時にいるんだからね。外だから言葉遣いも気を付けなきゃいけないし、大変だよ。


「どの町でも朝市は良いわね。活気があるもの」


「そうですね。あっちが食料品ですよ。こっちの区画は加工品もあります」


「そう。アスカ、ご飯食べてきたわよね」


「ええ、先ほど済ませてきました」


「じゃあ、別の物は見ないの?」


「お昼も夕食もまだですから」


 そういうとムルムルがそっと耳打ちしてきた。


「丁寧に言っても食い意地張ってるのは隠せないわよ」


「だって、美味しい食事は食材からだよ?」


「もう~、普段会えない友人にいいものを見せてあげようって気はないの?」


「食事だって良いものだよ」


「はぁ、いいわ。そこまで言うなら美味し料理をを食べさせてよね」


「まっかせて!」


 私は市場でもフィアルさんの店に卸してるところを紹介していく。一部は宿にも卸していて、朝市に並ぶのはそれに見合わなかった物や余りだ。それでも、味自体はよくて他のとは一味違うんだ。そして次に紹介したのはもちろん燻製屋だ。


「ここは燻製屋さん。一応肉も売ってるけど、そっちは他のところと一緒ですね」


「アスカちゃん、相変わらず食べ物になるときついぜ」


「この人がご主人さんですよ。燻製はおじさんの奥さんが作ってて、細かい調整をおじさんがやってるんです」


「夫婦でお仕事なさってるんですね」


「まあ、というか魔道具を使っているので、動かせるのがあいつしかいなくて……」


「わざわざ魔道具を使っているんですね」


「はい。そこのアスカちゃんに作ってもらって。おかげで大人気でして」


「アスカって商人になれるんじゃない?」


「無理ですよ、ムルムル様。だって、商品の価値が分かりませんもの」


「アスカ、しょうさい、ない」


「そうか……そうよね。ごめん、難しいこと言っちゃったわね」


 えっ、半分冗談だったんだけど納得されちゃった! 背中のリュックもどきに乗っているティタに肩をポンポンと叩かれる。慰めは要らないよ~。っていうかあなたも否定してたよね。



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